癒しの力
「すごい。癒しの力って初めて見た」
「ああ、もうなんともない」
ピエールとパトリスは、傷のあったはずの血まみれの手を見ながら感心している。
「フェリクス様、さしでがましいことをして申し訳ありませんでした」
すでに立ち上がって見おろしているフェリクスに、立ち上がりつつ謝罪をした。
が、彼は反応しない。
(そうよね。わたしに関わり合いになりたくないんですものね)
「アイ様、ありがとうございます。正直なところ、いままでは癒しの力など信じていなかったのです。ですが、ほんとうにすごい。そうだ。閣下、これなら閣下の……」
「おいっ、パトリス」
興奮気味のパトリスを、ピエールが制止した。
「閣下の?」
パトリスが言いかけたことを口の中でつぶやいてしまった。フェリクスの方に顔を向ける。
ちょうど朝の強烈な陽光が射しこんできた。その光の中、フェリクスのごつい顔が真っ赤になっているように見えた。
視線が合ったような気がした。が、彼はそのまま踵を返した。
大きな背中が遠ざかっていく。
(嫌われている、なんてレベルじゃないみたい)
その背中を見ながら、知れず溜息をついた。
「必要な薬を大量に仕入れることが出来ました」
「病床の建て増しの件ですが、大工さんが打ち合わせをしたいそうです」
「専属の料理人の件ですが、帝都で栄養学も学んでいる方にお願いしようと思っています。最終の面談をお願い出来ますか?」
慈善病院に行くと、今朝もまた様々な用件が待っていた。
それらをきいたり打ち合わせをしたりしつつ、癒しの力を使う。
ようやく人心地ついたとき、お昼をとっくにすぎていた。
「グルルル」
張りつめていた気が抜けた途端、お腹の虫が騒ぎ始めた。
「まぁっ! なんてことなの。お腹の虫が反乱を起こし始めたわ」
「アイ様ったら」
照れくささをごまかす為にわざとおどけてみせると、手伝いに来てくれている町のレディたちがいっさいに笑い始めた。
「食堂に行って遅いランチにしましょうか」
いつもお世話になっている食堂である。
わたしがごちそうするわけだけど、食堂のご主人夫婦はいつもほんのわずかしか取ってくれない。
ついつい甘えてしまう。そのご主人夫婦は、食堂を切り盛りするかたわら病院が近いこともあって入院患者やシスターや司祭の食事も提供してくれているのである。
感謝してもしきれない。
この日来てくれている医師や看護師も誘い、手のあいている人たちと食堂に行っていつものようににぎやかなランチタイムをすごした。
入院患者やシスター、司祭はすでにランチは終わっている。
じつは、援助の資金を使って専属の料理人を雇う予定になっている。
まだ会ってはいないけれど、やさしくて情熱的なレディらしい。なにより、賃金より貢献の方を重視しているという。彼女になるべく早く会って話をしたい。
人だけではない。これまではちゃんとした厨房がなかったけれど、それもいま建て増しをしている。だから、環境も整う。
どんどんよくなっていっている。
うれしくて仕方がない。
多くの患者たちにもっと利用してもらいたいし、よくなって笑顔になってもらいたい。
その気持ちや願いがかなっていく。
援助してくれているエルキュールとジョフロワだけではない。多くの人たちのお蔭である。




