噂のお化け屋敷
俺は、昔から霊感だとかいうものがない。
周りの人たちが何かを見たと指さす方を見るが、何もいないことが多々あった。
だからと言って怖いものが嫌いだとか、まったく興味ないなどということはなく、むしろ大好物だ。
そんな俺は今、有名なお化け屋敷がある遊園地へと彼女と来ていた。
彼女も、このお化け屋敷には前々から行きたかったらしく、誘ったら即返事がきたくらいだ。
「あれが、例のお化け屋敷ね」
「おお、迫力あるくらい大きいな。この中を探索するとかワクワクするな」
「ねー、私も楽しみ」
俺たちは、お化け屋敷の前まで着くと、長蛇の列が出来ていた。
「げっ、すごい並んでるな」
「毎回こうみたいだよ」
「空くまで待ってみる?」
「捌けがいいから大丈夫だよ。それにね、中に進めば進むほど、並んでいる間に怖がって離脱していく人も出てくるから、想像よりは早いはずだよ」
「そうなんだ。でもこの日差しの中は、気を付けないと熱中症になるな。というわけで、はいこれ」
彼女に飲み物を差し出した。
「ありがとう」
「どういたしまして」
二人で何気ない会話をしながら時間をすごしていたら、建物の中まで来ていた。
「はー生き返る。この冷房具合最高だ」
「ふふ、確かに外暑かったもんね」
前の何人かが出口のほうへ向かっていった。
「おや、本当に人出るんだね」
「だから、言ったでしょ。ここまで来たらもうすぐ……あ、そうだ。ここ幽霊が出るって噂知ってる?」
「んー、聞いたことがないな」
「そうなんだ。まぁ出てもどうせ見れないか。霊感ないんだよね」
「もちろん!」
そんなことをやり取りをしていたら、あっという間に俺たちの番になっていた。
「次の方、どうぞ。二名様ですか?」
「はい」
「中は暗くなっておりますので、これを点けて進んでください」
懐中電灯を渡された。
「おお、これを持ち歩くのか。まさにホラー探索って感じだ」
「雰囲気があっていいね」
俺たちは、入り口の階段を昇って行った。
「よし、ここからが本番なんだな……あれ? おかしいな電気が点かないぞ」
「……さっきの懐中電灯渡されたところはすぐそこだから、一旦戻って電池を交換してもらいましょう」
電池を交換してもらうと、ちゃんと明かりが点くようになったので先へと進んでいく。すると――。
「キャー!!」
前のグループの人たちの叫び声が聞こえてきた。
「お、やってるやってる。いいね、早く脅かされたいね……あれ? また消えた」
またしても、電気が消えてしまった。電池を入れ直してもだめだった。
「どうする? もう一回戻る? それとも……」
「ご……ごめんなさい。嫌な予感がするの……」
「え? 嫌な予感?」
「何かは分からないけど……」
「それなら、ちょうどそこに出口があるし出ようか」
「ええっと……そうするね」
俺も一緒に出ようとすると彼女に引き留められた。
「まって! 折角楽しみにしてたのに悪いから、私一人で出るよ」
「でも」
「出口の付近で待ってるから……大丈夫だからね。代わりにあとでどんな感じだったか教えて?」
「……分かったよ」
彼女の説得に根負けし、俺だけ進んでいくことになった。
「電気どうするかなぁ。戻るにしても大分遠いだよな……よし、薄暗いが明かりも点いてるし、そのまま進むか」
俺は廊下を進んでいった。道中には脅かすための小道具が並んでいる様だったが、暗さでよく分からなかった。
「キャー」
またしても前方で叫び声が聞こえた。
これは目と鼻の先だな。声のするほうへ歩んでいくと、二人組の女性が見えてきた。
「ね……ねえ……」
「う……うん……」
「「出たああああ!!」」
二人組は大慌てで逃げ出してしまった。
辺りを見回すが誰もいなかった。そう勿論脅かし役さえも……。
俺は、順路に沿って歩いてゆく。多分順路だ……いや暗いからよく分からないけど……。
大分歩いていた頃、人の気配を感じ取った。
これは……間違いない。これは客の気配ではない……脅かし役の気配だ!
俺は、脅かし役の気配の方へと歩いていく。
……出てこない。どうみても隠れている場所であろうところから出て来ようとしない。
仕方ないので先に進んでいく。今度は垂れ幕の様な場所から複数人の気配がする。これも脅かし役に違いない。
俺は、垂れ幕の近くに立つ……しかし誰も来なかった。仕方ないのでコツコツと足音を立ててみる。
やはり出てこなかった。何だかなぁと思いながら進んでいくと遠くで鳴き声がしてきた。
これは、演出か、はたまた客の誰かだろうか。
期待に胸を膨らませながら歩んでいく……しかし何も出なかった。
どのくらいの時間が経っただろう。遂に出口の明かりが見えてきた。
「やっと……ついた……」
俺は、お化け屋敷から出て彼女と合流した。
「お化け屋敷どうだった? 噂の幽霊とかでた?」
「イヤ……ナニモ……ミテナイヨ……」
「おかしいなぁ。出てきた人たちが本物が出たーとか騒いでいたんだけど……それに従業員も見たらしくて泣き出した子まで居たらしいよ……あっ! 霊感ないんだった……忘れててごめんね」
俺は、やつれ果てながら声を出す……。
「オレダヨ……」
彼女は、それを聞いた瞬間、固まってしまった。