模擬戦
「…暇だ。」
俺が想像していた海賊と実際の海賊は随分と違う。
海流操作で速く進んでいるとはいえ、マジでやることがない。当時の海賊が略奪や酒盛り以外の娯楽としていたのが、ダイスゲームか、カードか、女遊び。
ただ、女性を船に乗せて旅をすると災いを招くとされていたので、船の上では本当にやることがない。
うちの全員は俺以外が全員家庭がある。日本の海賊だった倭寇と一緒で自給自足しながらも、略奪によって裕福な暮らしをしていた。
ラフテルに戻れば、十分に裕福な暮らしはできる。住民の誰しもに庭付きの豪邸があり、船長に抜擢されたものには近くの無人島が与えられ、そこに別荘を持つことができる。まぁ、断る可能性もある。殆ど使わないからな。俺としては、そこと本島に女性たちを分けて酒池肉林の生活でも構わないが、彼ら海の男にとっては、
それだけでは物足りないのだろう。
因みに今は、甲板で木製の剣で模擬戦をしている。
敵船に乗り込んだ時の為のものらしくて、エルトンや
ルークの船員を相手としている。
因みに結果は全戦全敗。なんて言ったって、船長と副船長が面倒くさいという名目で参加しないからだ。俺は、自室で寝ているし。アルヴェールは、昨晩飲みすぎたのか二日酔いで寝込んでいる。
まぁ、さっきから俺の部屋をエルトンとルークがノックし続けているわけなのだが。
理由はとっても簡単。正直、俺は剣については海賊相手でも負ける気がしない。剣道だけど、一応全国大会連覇してるから。それに、じいちゃんが戦国マニアのせいか、一体多数の戦闘方法についても教え込まれてきた。俺用の木刀もありがた迷惑で準備されており、一度でいいから参加してほしいとのことだった。
結局…ナッソーにつく前に一度だけ付き合うことになった。この模擬戦のせいで、明日中につけないんだけどそれは良いのか?エルトンとルークは、各々の船員たちに
「提督は、お前達が想像しているより遥かに強い。本気でやるように。」
別にいいけど、君らは、俺が提督であること忘れていらっしゃらない?おれさ、一般人よ一応。
「「始め!」」
「かかれぇぇぇ!!」
両側から乗り込んできた彼らは一目散に俺に突撃してきた。ただ、剣の腕は素人同然。俺は時間をかけずに一撃で意識を刈り取っていく。
戦闘開始から30分後…
エルトンとルークの船員たちは、一度意識を刈り取られた者から抜けていき、残すは二番艦はエルトンとジャシャミー。
三番艦は、ルークとレイトンだけになっていた。
もちろん、一番艦は俺以外は全滅。
一応、提督として怒っておくか。
「ダラしねぇな。お前ら、第一に守るべ提督に全滅って。ほんとにそれで独立してやってけんのかよ。」
「大丈夫ですよ。提督。私がいますので。」
「ルークには私がおりますので。」
「俺がいりゃなんとかなるから問題ねぇ。」
「エルトンがの背中は私が守るので問題ございません。」
「お前らには言ってねぇ。下が上を守ってこその上下関係だ。まぁ、お前らに言ってもしょうがねぇか。なら、2人ずつかかっこい。」
「「参ります!」」
順番通りに来た。ルークとレイトンの得物は、海軍時代から愛用している将校に与えられるサーベル。
彼らの戦闘スタイルは、一撃離脱で互いに攻撃し続けるというもの。2人なので意味合い的に合ってるかは定かでないけど
攻撃が永続に続く形。普通の相手ならどこかで隙ができて負ける。だが、その分そこかしこに隙ができるので、俺は各々のその隙を狙い撃った。それでも20分近くで決着はついた。
ただ、初見でこれをやられたら間違いなく命を落とすだろう。
俺は、息も絶え絶えにうつ伏せで倒れ込んでいる2人に声をかける
「確かに2人での連撃は凄いし、初見なら倒せるかもしれんが、隙が多すぎる。俺相手の敵は中々おらんかもしれんが、慢心しているといつか命を落とすことになる。」
「精進します。」
「ご指導ありがとうございます。」
2人は這いつくばりながら下がっていく。
「じゃあ、次は俺らだな。」
「足引っ張らないでくださいよ。エルトン。」
「は?誰に言ってんだおめぇ。いくぜぇぇ!」
エルトンの得物は、ロイヤルカトラス。この男、口調からあまり信じられんが、意外にもイギリス王室の人間である。王室を出る時に拝借してきたらしい。
ジョシャミーの得物は、レイピア。ただ、これも普通のレイピアではなく、近衛兵に与えられるものだ。彼の場合は、王室でエルトンを警護していたらしく、正式に与えられたものなんだと。
この二人の攻撃は、凄まじいの一言。エルトンは切るというよりも殴りつけている感じ?ただ、凄いのは重い上に連撃に継ぐ連撃。その連撃の隙を縫うようにジャシャミーのレイピアの突き。こいつらをを倒すには順番がある。まずはジャシャミーを倒す。そうすると動きが乱雑なエルトンが残る。こいつだけなら、隙だらけなわけで、すぐに終わる。
「エルトンは、乱雑すぎる。少しは型を覚えろ。ジャシャミーは、動きと突きは申し分ない。エルトンとの動きが整えば無敵になれる。お前はエルトンの教育に精を出せ。」
「は?」
「精進します!」
ジャシャミーは、エルトンを支えて下がる。
俺は、全員に振り返り伝える。
「俺達が目地すのは、世界最大にして最強の海賊艦隊。今1乗組員のやつが船長になるかもしれない。誰しもが自分が船長になったとき、どのように仲間を纏めていけばよいのか、よくよく考えておくことだ。」
「へい!」
「では、模擬戦はここまで。各自、仕事にもどれ。明日までにはナッソー近辺までには着けるように急ぐのだ!」
「へい!」
俺が船長室に戻る背後で乗組員達がぞろぞろ戸動き出す。
そろそろ、陸が恋しくなってきた。