9.馬鹿
「シャロ様……お知合いですか?」
「いや、知らないな」
「……ライラック家当主のわたくしをご存知ないと?」
「ライラック!?」
「有名な家の方なんでしょうか?」
「……あぁ、十数年前のドワーフとの戦争を一夜にして終わらせたのがライラック家だ」
ドワーフ……今はダンジョンに住処を移し、外界からは姿を消したと聞く。
「君は知っていると思うが、ドワーフがダンジョンに移り住むきっかけとなったのがその戦争だ」
「それは確かにとんでもない家系の方ですね」
「ライラック、そうか君が――」
「ごちゃごちゃ煩いですわね。いいから勝負をしなさい、聖女」
シャロ様に対してここまで敬意を持たない人間を初めて見た。
「……いったい何をしてるのですか?」
そこに現れたのは、先ほど彼女と同じ席についていたもう一人の金髪の女の子だった。
髪はショートボブにされており、すっきりしたような印象を受ける。
この子もわたしより可愛い。
……わたしより可愛い子多すぎない?
「彼女がシャ……聖女様に勝負をしろと」
「……はぁ、姉さまは馬鹿ですか?」
「あーーー、またわたくしに馬鹿って言いましたわね! 妹が姉のことを馬鹿にするなんて許されませんわよ!」
「いえ、自分は姉さまのことを馬鹿になんてしていませんよ」
「そうでしたの? けれど、今わたくしのことを馬鹿と……」
「姉さまのことを馬鹿と指摘しただけです。自分が姉さまのことを馬鹿にしたのではなく、元々馬鹿だったのです」
「馬鹿にするって言うのはそういう意味じゃありませんわよ!」
「ヘ―ソウナンデスネー、イヤーネーサマハモノシリデスゴイナー」
「隠す気もない棒読みはやめてくださらないかしら!」
「イヤーマッタクモッテソンナコトハー」
目の前で二人だけの世界が始められてしまった。
しかし、どうも二人とも姉妹以上に顔が……。
「双子……?」
「はい、自分と姉さまは双子でございます」
わたしのつぶやきにショートボブの子が応えてくれる。
「申し遅れました、自分はオリビア・ライラックと申します。同じ学園の新入生としてよろしくお願いします、聖女様、お付きの方」
「丁寧にありがとうございます、オリビアさん。私の名前はシャロット・ドッグウッドと申します。同じ新入生ですし、良ければシャロットと呼んでください」
シャロ様がいつもとは違う丁寧な様子であいさつする。わたしに対しては、いつも砕けた感じで接していてくれたことに喜びを覚える。
……それだけで嬉しくなっちゃうわたしチョロいな。
「かしこまりました、シャロット様」
「わかりましたわ、シャロット!」
「あなたに名前で呼ぶことを許した覚えはないのですが?」
なれなれしく名前を呼んでくる
「オリビアが名前で呼んでるのに、わたくしだけ聖女と呼ぶのもおかしな話ではなくて?」
「何もおかしくはないですよ、私とあなたは他人ですもの。名も知らぬ御令嬢さん」
「名乗ればいいんですわね、名乗れば。わたくしはアメリア・ライラック、以後お見知りおきを」
その所作は先ほどまでの馬鹿な様子とはうって変わって、綺麗なものだった。
……オリビアさんの物言いがうつったかもしれない。
「よろしくお願いしますね、ライラックさん」
「……なんでそうなるのでしょうか?」
「どうかされましたか? ライラックさん」
「なんでわたくしだけライラック呼びなのかと聞いているんですの!」
「二人ともライラックさんとお呼びすると、わかりにくいじゃないですか。馬鹿なんですか?」
シャロ様にまで移ってしまっていた。
「あなたまでわたくしを馬鹿にするんですのね!」
「いや、私が馬鹿にしたわけじゃ――」
「もうそのくだりは一度やりましたからいいですわよ! わたくしも名前で呼べばいいと言ってるんですの!」
この人ずっと怒ってるのすごいなと思う。
起こるって体力要ることなのに、オリビアさんに続いてシャロ様にまで噛みついているなて。
「まだ会ったばかりなのにそんなの馴れ馴れしいじゃないですか?」
「オリビアは!?」
ちゃんとツッコミもできるようだ。
「彼女はルカ、私のメイドだ。仲良くしてやってくれ」
「遂に無視されましたわね!?」
……というか、なんか勝手にメイドにされてない?
シャロ様の方を見ると、わたしと正反対の向きに顔を向けている。
わざと視線を合わせないようにしているのが明らかだった。
おそらくメイドという経ちbの方が何かと都合がいいのだろう。けれど、メイドという立場は元男としてどうしても受け入れ難かった。
「ご紹介にあずかりました、ルカと申します。聖女様の付き人をさせていただいております」
ぎりぎりの妥協点だ。
「これから、主ともどもよろしくお願いいたします。オリビアさん、ライラックさん」
「あなたまでわたくしを馬鹿にするんですのね!」
ここは乗らない方が無粋な気がした。
というか、どう考えても馬鹿にはしていないと思うんだけどな。
「それで、勝負は受けてくださるんですの?」
シャロ様は少し考えた後言った。
「わかりました、ルカに勝つことができれば私自らお相手しましょう」
……え? わたしが戦うの?
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