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九歩目 事情

 鍛錬を終えた夕暮れ時、俺達は山を下りる。リルはガンテツと話があるらしく、俺達を麓まで送り届けてから山に戻った。


「きっつ……腕がパンパンだ……」

「私も足がパンパン……歩き疲れたあ」

「明日は早朝から昼までって言ってたな」

「ガンテツさんが、明日はお昼から用事があるって言ってたねー」


 シズクが足を引きずりながら歩いている。余程足が痛いんだな。

 明日は早朝から昼までで、都合が良かった。マリアとの約束があるから。


「シズク、飯食べて帰ろうか」

「そーしよー!」


 凄くお腹が空いていたのか、目を輝かし、直ぐに返事が、返ってきた。

 とぼとぼと二人で飯屋に向かう。



 ***



 静まり返った山で、リルはガンテツに話しかける。


「まさか翔吾の祖父じゃったとはのう」

「何を言っているかわからんな」

「とぼけんでも良い、翔吾には言わん。手合わせの際、嬉しそうな顔をしていたから直ぐに分かったぞ」

「……表情を隠すのは得意だと思っていたんだがな」


 ガンテツはぎこちない笑顔を浮かべる。

 そんな会話をしながら、山に建っている、古風な小屋にガンテツとリルが入る。この小屋はガンテツが、プロ顔負けの技術で、一から作った物だ。

二人は、向き合って酒を酌み交わす。


「話とはなんだ?」

「お主と翔吾についてじゃ。翔吾は召喚されたと見て間違いないじゃろうが、お主が何故ここにいるのかが分からぬ。元の世界では死んだのじゃろ?」

「ああ、儂は死んだ。何らかの手違いが起きてここに居るのだろうな、それと召喚という事は……」


 猪口を片手に、リルがガンテツに問いかけ、ガンテツは答える。

 そしてガンテツは不安を瞳に宿し、弱々しい口調で問い返す。


「ああ……残念じゃが死んでおる。翔吾の左手には紋章がある、あれは死者の魂を呼び寄せ肉体を構築して、この世界に召喚した証じゃからな」

「死者の魂を召喚する儀式は、騎士団しか出来ないはず。それに何故翔吾が召喚されたんだ……?」

「それは分からぬが、面倒な事に違いは無いじゃろ。じゃが、召喚者は我、神獣族と契約ができる唯一の存在」


 リルは、決意と葛藤を同時に感じさせる様な口調で綴る。


「翔吾には必ず強くなってもらわねばならぬ、近い内に起こる神域の悲劇を止める為に……だから奴らに邪魔される訳にはいかぬ」


 リルの意志を感じ取ったガンテツは、翔吾の鍛錬に全力を注ぐ事を誓った。




 ――王都ラグロクの王城の一室で、男二人が話をしている。


「王よ、例の者はまだ見つかっておりません」

「そうか……だが我が国の戦力拡大には奴の力は必須、その為に召喚をしたのだ。早急に探せ!」


 紋章の有無だけが頼り。見た目が分からず、判断に欠ける。王は焦りを見せ、騎士団を総動員する。


「それと、儀式を行った事が、ごく一部ですが、外部へ漏れている様です」

「召喚の手違いで召喚場所がずれるとは……他の連中に先を越されなければ良いのだがな……」



 ***



「いらっしゃい、今日は何食べますか?」

「私はグラタンにしようかなぁ……でもパスタも……」

「なら半分こしないか? グラタンとパスタ」

「いいの!? やったー! ありがとう!」

「マリア、グラタンとパスタをお願い。それと取り皿もお願いしていい?」

「はーい……」


 シズクは飛びっきりの笑顔で喜び、感謝を伝える。それに対立するように、マリアは少し拗ねた様に頬をプクッと膨らませている。


「お待たせしましたー!」

「ありがとー! 美味しそぉ!」

「ありがとうマリア」

「翔吾さん山へ行くって、シズクちゃんと一緒だったんだね……明日忘れないでくださいね?」

「わかってるよ」


 配膳に来てくれたマリアが、俺の耳元で囁いた。凄くドキッとした。隣のテーブルからマリアに向け『妬いてるのか?』なんて酔っ払いが、ちゃちゃを入れている。

 酔っ払いはタチが悪いな。なんて再確認しながら、前に座るシズクに目をやる。

 会話に入れないからか、シズクは先程のマリアに続き、不服げに頬を膨らませていた。そんな事はお構い無しで、マリアは仕事に戻って行った。なんだろう。乙女心ってやつか?


「私は仲間はずれ?」

「そんなつもりはないよ……多分……」

「まあいいや! 早く食べよ!」


 グラタンとパスタを半分ずつ取り分ける。

 グラタンにはチーズが入っていて、スプーンで持ち上げると綺麗にチーズが伸びる。こんなに沢山チーズが入っているグラタンは、初めて食べる。

 この美味しさには最早、多くを語る必要は無いだろう。沢山のチーズにまろやかなホワイトソース、美味しくない訳が無いのだから。

 シズクはあまりの美味しさに、顔がとろけている様にも見える。チーズだけにな?


 グラタンに続き、パスタに手をつける。

 パスタはとてもシンプルな塩パスタ。パスタの味を存分に味わえるパスタ好きには堪らない逸品。

 調理には、旨味を出す為のガーリックとオリーブオイル。具なしなのにこの満足感。本当にメリダさんは、凄腕のシェフだ。


 明日は早朝からなので食べ終えたら直ぐに宿に上がった。

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