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三十歩目 一転

 ***



 盛大な祝勝会から数日。早々にポワールへと拠点を移した俺たち。


「ガンテツさんすごいですね。こんなに早く拠点を用意できるなんて」

「謎にハイスペックだからな」


 堂々と建つ建物を眺めガンテツを褒めるマリアは、視線を別の所に移しながら……。


「……本当にダンジョンボスは協力関係になってるんですね」


 昨日説明した大河のこと、冗談だと思われてたのかな。まぁ、拠点付近にダンジョンの出入り口を作った本人を見て納得してくれたならいいか。というかこいつはどうやって場所を突き止めたんだろう。


「翔吾! みんな! ダンジョン繋げたからいつでもきていいぞー!」

「「「興味ないからいいや」」」


 嬉しそうに叫ぶ大河。それを拠点の前にいるみんなで断る。


「みんな酷くな――」


 瞬間、辺りがどんより暗くなる。胸騒ぎがするな。


「なんだ!?」

「翔吾! なんだかやばいよ!」

「翔吾ぉ、聖剣出しとけよぉ。こいつはやべぇぞぉ?」


 不気味な荒野。それを赤い月が照らし、余計に不気味さを増幅させている。そんな中、低く伸びのある声が静寂を切り裂く。


「君が大河をたぶらかした勇者ですね? どうも、私……ドーグと申します」


 ドーグ……! 大河が気を付けろって言ってたやつだ! 気を付けろって言ってた当人は、既に臨戦体制か。


「翔吾、やばいぞ。魔界に連れて来られた」

「ここが魔界!? 思ってたのと違う……」

「小僧! そんなことを言っている場合じゃない。気を引き締めろ!」


 ガンテツが一喝入れる。魔界ってもっとドロドロしていて悪魔たちが騒いでいる場所だと思っていた。が、確かにこれは気を引き締めないといけないかも知れない。


「おい大河、横のやつ」

「あぁ。お察しの通り、魔剣使いだ」


 紫に輝く刀身、あれが魔剣か。魔剣を持つのは、無表情の女。俺から見たら遥かにドーグってやつよりやばそうだ。まともにやり合ったら負けるなこれ。


「大河を返してもらえますか? それが不可と仰るなら、そこの女をいただいても?」


 は?

 シズクを指差すドーグは不気味な笑みを浮かべ。


「そいつの母親はもう使い物にならなくてですね? なので、次はそいつに魔力を供給していただこうかと――」


 その瞬間のことは覚えていない。だが……。


「おい魔剣使い。そこどけよ」

「どか……ない。聖剣使い、お前……退く」


 目の前には、俺の聖剣を魔剣で受け止めるやつがいた。相変わらずの無表情だが、こいつどこかで見たことあるんだよな。


「ねぇ……ママをさらったの、あんた?」

「ええ、私ですよ? この、魔王軍随一のイケメン策士幹部のドーグが頂戴致しました。人間の負の感情だけでは、魔王様の復活は程遠いのでね? 魔力を強制的に搾り出し、同時に負の感情もいただく。まさに! 一石二鳥」


 メラメラと静かに燃えるような雰囲気のシズク。怒りが頂点に達し、逆に冷静になっている状態か? だが、こいつが誘拐したんなら。こいつ倒せば解決じゃないか?


「リル!」

「わかっておる! 全員、我に加勢しドーグとやらを討伐するぞ」

「翔吾を一人にしていいのかよぉ!?」


 従うように、リルの周りに集まるハンツ達だが、ハンツは少し疑問を抱いているようだ。


「脳筋小僧、聖剣と魔剣の戦い。加勢するのは、足手まといにしかならんだろう。だから向こうは小僧に任せておけ」

「そういうことだ! 任せとけハンツ」


 受け止められていた聖剣で、魔剣を弾き、全力で蹴り飛ばす。女を蹴り飛ばすのはどうかと思ったが、そんなことを言っている余裕はない。


「お前、力不足。私、強い」

「力不足なんて俺がよくわかってる! だから黙ってろ」


 剣を重ねるうちにわかった。こいつ正気じゃないな。目の焦点が合っていないうえに、言葉もぎこちない。剣の腕は輝いているが、それ以外は並みの人間にも劣るだろう。


「お前、弱い」


 言って、繰り出された斬撃は強烈だった。今までのは小手調と言わんばかりの力量差。斬撃の重み、深さ、速さ。どれをとっても今の俺では太刀打ちできない。


「魔剣使いさん、もう少し離れてやってくれますか? 砂埃が」

「承知」


 リルとガンテツを軽くあしらうドーグが言った。あいつ、あのバケモノ二人を圧倒している……?


「よそ見……危険」

「――ッ! しまった……!」


 つい、視線がドーグとの対決に移ってしまった。常人には出せないスピード感の戦い。だがそんな戦いの中、無傷のドーグ。勝てる気がしない。


「おや? 勇者よ。いま勝てる気がしないって思いましたね? いいんですよ、そのまま逃げ帰っていただいても」


 その言葉を聞いたのは、崖から落ちる寸前だっただろうか。


 ――今はそんな些細なことを忘れるほどピンチに陥っている。よそ見をした挙句、崖から蹴落とされる。さらには魔剣で腹を貫かれ、共に降下中。


「おい魔剣使い。正気か? お前も死ぬぞ」

「死ぬ……お前だけ。この高さ、私、死なない」

「これならどうだ? クラウソラス!」


 右手にしっかりと握った聖剣クラウソラス。真名を呼び、姿を変えたクラウソラスを、仕返しだと言わんばかりに突き刺す。


「これでフェアだ。あとは死ぬも生きるも運次第だな」

「…………」


 状況を理解しようとしているのか、聖剣が刺さった腹と、魔剣が刺さった俺の腹を交互に見る。剣同士で繋がったお互いの体は、何度か向きを変え地面へと落ちていく――


「――ナイス判断ですマスター! エリファに取り憑いた、魔剣の精神世界に侵入できましたよ!」


 ………………。


「え、ん?」

「……え? わかってて私をエリファに刺したんじゃ?」

「いや、だれ?」


 さっきまでいた魔界とは違う、別の空間。白く、薄暗い空間。だがどんよりとした空気が漂っている。

 そして、魔剣使いが二人。俺に話しかける魔剣使いは、色白で薄緑に色付く髪。数メートル先で魔剣を構えるのは、色黒の紫髪。まるで天使と悪魔を表すかのよう。


「え? それはエリファに対してのだれ? ですよねマスター!? 私はわかりますよね!? クラウソラスですよ?」

「そんな見た目だったか? というか……魔剣使いと双子か?」


 こいつまじか。みたいな顔で俺をみるクラウソラス。


「彼女は、元聖剣使い。あなたの先代ですよ」

「あー。言っていたな、姿真似てるって。でもどうして魔剣使いに?」

「彼女は姿を消しました。原因がわかりませんでしたが、今全てわかりました」


 言って、クラウソラスは、魔剣使いの奥に佇むどでかい木を指さす。

 黒くドス黒い大木。その根元付近に、人影が見える。目を凝らす、あれは……クラウソラス?


「乗っ取られていたのですよ、エリファは。あの大木を斬り、エリファを助け出しましょう」

「展開早くてついていけないんだけど? 詳しく」

「とにかく斬って!!」


 沸を切らすクラウソラス。


「わかったよ、斬るだけでいいんだな?」

「ですが、本人は絶対に斬っちゃダメですからね?」


 斬りつけるのか? はたまた叩き斬るのか? 体が剥がれるまで斬り続けたらいいのか? 疑問は残りまくる。だがとにかくやってみるか。



 ***



「あらら、落ちてしまいましたね勇者。お仲間が助けに行ったようですが……正気なんですかねぇ? 先に落下した人物を助けるために、自分も飛び降りるなんて」


 呆れるようにほざきやがるドーグは続けて言いやがる。


「あんな小柄な女が、人二人より早く下に着くわけがない。それに、もし着いてもどうしようもないですがね」

「黙って」


 いつもなら想像できないほどに、冷たく言い放つシズク。周りの魔力が揺れてやがんぞぉ? こんな現象初めてみる。


 マリアが落ちていった翔吾を助けに飛び降りたのをバカにされてから、シズクの顔から表情が消えやがったぁ。悲しむでもなく、怒るでもねぇ。いろんな感情が昂まって表情が死にやがったかぁ?


 俺も驚きはしたが、マリアはできないことをするタイプに見えねぇ。リルたちもそう思ってるかのように、助けに行ったりはしなかった。マリアが選んだ選択だぁ、信じるしかねぇ。


「まぁいいでしょう。我々に反する存在が減ることは喜ばしいですからね」

「黙ってって言ってるでしょ」


 繰り出される蒼炎。周りの景色が揺らぐほどの熱気に、大河は興奮しているようだぁ。バカなんじゃねぇかぁ?


「ふむ、私に火傷を負わせますか。ふむふむ、多勢に無勢でこの魔法。少し私も本気を出しますかね」


 そう言いやがったドーグには余裕があるように見えたが、俺たちは非常にまずい状況になってる気がするぜぇ。

 ドーグの後ろから、三つの人影が現れる。どっからわきやがったぁ?


「ドーグさん、おいらたちはどれを相手したらいいレロ?」

「真ん中の怖い女の子以外をお願いします」


 ドーグにそう言われた人物たちは、嬉々として名乗りを上げやがる。


「おいらはレロレロ!」

「おいどんはペロペロ!」

『二人合わせて! 最強の双子! ベロンチョ兄弟!!』


 レロレロと名乗る男は、前に出てかがむ。そして、ペロペロと名乗る男は、レロレロの後ろで右腕を伸ばしている。ポージングをとったベロなんちゃらは、やり切った感を出してやがる。


 ……舐めてんのかぁ? これは……挑発されてるってことだよなぁ?


「おいどん、あのでかい男を殺したいペロ」


 でかい男ってのは、確実に俺のことだなぁ。上等じゃねぇかぁ! 


 ペロペロは、言うと同時に俺に向かって飛び込んでくる。ペロペロが構える武器は、小さな鎌二本。その二本は、確実に俺の首を捉えていやがったぁ。刃の先が、俺の喉仏に触れるか触れないの距離。すなわち、ペロペロが勝利を確信した時だったぁ。


「止まれ! 余計なことするな、その大男は僕の獲物だと伝えていたはずだぞ?」


 聞き覚えのある、癪に障る声が、俺の鼓膜を煽りやがる。


「なんでここにいやがんだぁ!? シエル!」

「つまらないこと聞くなよ! お前らに復讐するためだ! 特に、お前。裏切り者のハンツ!」

「どうやって出やがったぁ!? 捕まってたはずだろぉ?」


 どうしてこいつがいやがる!? 謎だらけだ、もう意味がわかんねぇ。


「王に逃してもらった。と言ったら納得してくれるかな? 王は、ここにいる魔王軍幹部の操り人形だったんだよ」

「あのくそがぁ! でもまぁいいぜぇ……テメェみたいな雑魚、相手になんねぇよぉ」


 ぶっ飛ばしてやるぜぇ。後で王も潰しに行かねぇとなぁ……。

 

「雑魚? もしかして僕に言ってる?」


 と、俺の体に鈍痛が響く。なんだぁ……? 何が起こりやがったぁ!? 手に持ってるあれか? かすかに見えた光景は、奴が棒を素振りしたところ。黒と白が混ざり合う歪な形の棒。あれが伸びたのか? それとも衝撃波でも飛ばしやがったかぁ?


「不思議でしょ? シエルくんが使ったのは、聖剣と魔剣の力をコピーして混ぜた棒だよ。使用者が弱くても、十二分以上の力をはっきする。どんな強者でも、聖剣と魔剣を同時に相手どるのは不可能でしょ?」


 余裕ぶっこきやがってぇ……! 何とかならねぇか!? 

 リルとガンテツは、ベロンチョ兄弟を相手している。シズクはドーグの相手。誰にも頼ることは出来ねぇ! 戦斧、対抗してくれよぉ……?


「――所詮コピーだろ?」

「ならウチら本家本元には及ばんから安心やね!」


 マリアを担いで、聖剣を構える翔吾。ったく……ほんとかっけぇ勇者だぜぇ。



 ***



 ハンツが圧倒されてる。リルとガンテツはまぁ大丈夫そうだ。シズクの様子がおかしいのが気になるが……。


「ひとつずつ片付けよう。まずは変な棒壊すぞ、先代」

「ほい!」


 俺一人では手に負えない、隣に立つ先代の力を借りる。ハンツは、魔剣使いが協力していることに、少し驚いているようだ。もちろん、こうなったのは理由がある――


 ――魔剣の精神世界に、どっしりと構える大木。捕まっている先代聖剣使いを開放するため、大木に斬りかかる。


「させ、ない……」

「押し負けた……!?」


「魔剣の精神世界なので、力が上がっています! そして私がこの状態なので、今その聖剣はただの剣です!」


 手元の聖剣は、真名を呼ぶ前の姿。神聖みも輝きも何一つ感じない。聖剣の擬人化みたいなクラウソラスがこの場にいるからだろうか。不思議な感覚だ。


 この剣では太刀打ちできない……だが。一つ案がある……。


「ならクラウソラス、お前がこの魔剣使いの相手してくれ」


 俺の考えを察したのか、クラウソラスが言う。


「正気ですか? それだとマスターは丸腰ですよ?」


 俺の作戦は、抜け殻状態の聖剣を、聖剣そのものに渡すことで最大限のパフォーマンスを引き出すというもの。


 理にかなっているとは思う。俺が丸腰になることを除けば。剣を持たないことは、大木を斬るという目的を放棄することを意味する。俺がその選択をしたのは簡単、無意味だと感じたから。


「この場にクラウソラスを使いこなせるのは、クラウソラスしかいないだろ?」

「わかりましたよ、責任を持って魔剣の相手をします!」

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