二十九歩目 乾杯
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「よう王様、攻略してきたぜぇ」
「よくやった……」
「はい、聖剣。あと、魔王復活するらしいぞ。頑張れ」
見せつけるように聖剣を取り出す。
魔王復活を阻止を協力する事になっているが、こいつらに言えば変に利用されそうだしな。表向きには押し付けとこ。
「なんじゃと!? それは本当か?」
「信じないならそれでいい、復活した魔王に滅ぼされたらいい。俺は忠告したからな」
あれ? 騎士団長シュバリエは何も言ってこないな。前はすぐに感情的になってたのに。まぁいいか、厄介な事は少ない方が良いからな。
俺たちは、王に背を向け部屋を後にする。指示された宝物庫へ聖剣を置きに行く。悪いな、クラウソラス。認めてくれたのに。
て言うか、「次の目標は聖剣を使いこなす事だな!」ってかっこつけたのに、聖剣返す約束忘れてた。恥ずかしい。
「待て! 貴様たちのような者を宝物庫に入れる訳にはいかん!」
廊下に響き渡る声の主は、騎士団長シュバリエ。結局、絡んでくるのかよ。
「聖剣を宝物庫に置いていけって言ったのは王様だぞ」
「黙れ! さっさと城から出て行け!」
なんだよこいつ。シュバリエは腰に下げた剣に手をかける。
「ふざけ――」
「粋な事すんじゃねぇかぁ! 翔吾、行くぞ」
俺の言葉を遮るハンツは、俺の肩を軽く二回叩く。そして、小声で言う。「奥を見てみろぉ」
奥……? あれは、聖剣? 二本あるのか!? と言うか持てるのか!?
シュバリエの部下らしき者が、後方で聖剣を抱えている。俺の視線に気付いたのか、気まずそうに微笑む。あぁ、そう言う事か。理由は分からないが、見逃してくれるって事か?
「街には、もう少しいても構わない。次に行く所の下見でも、街の奴らに別れも告げたいだろ。王は上手く俺が誤魔化しておく」
そもそも一ヶ月の猶予あったしな。すぐに攻略が済んだから、まだ余裕があるな。でも、こいつなりの優しさなんだろうか。まあいい、シルヴァさんに報告行くか。
***
「なんかすげぇ疲れたな」
「だね〜、ヘトヘトだ!」
ダンジョンから直接王城に行ったから、休まる暇がなかった……。正直、限界が近い。
「へばってんなよぉ、もうギルド着いたんだからよぉ」
「シルヴァさ〜ん!」
「おや? 下見は終わりかな?」
勢いよく扉を開け、ギルドのロビーから叫ぶシズク。それをシルヴァさんが階段の上から、爽やかに対応する。
「攻略と、王への報告終わったぜ」
「なんだって!?」
普段からは想像のつかない取り乱しっぷりを見せるシルヴァさん。
冷静さを取り戻し、個室で説明を終える。もちろんボスと協力関係にある事は言ってないが、魔王復活の阻止はすると伝えた。
「君たちは、本当にすごいね。魔王復活の阻止なんて、なかなかしようなんて思えないよ」
「ま、まぁ……ほっとけないし?」
居た堪れない……財宝に釣られたなんて言えない。
「それが聖剣に選ばれし者の宿命なんだろうね」
優しく放たれた言葉を耳に残し、マリアの元へ向かう。俺たちが次の拠点にするのは、シルヴァさんのツテで"ポワール"という隣国に決まった。
ポワールは、ギルド登録が必須の国でリルもギルド登録を強いられていた。渋々だった。
***
「翔吾さん!」
「よう、マリア」
「無事で、安心しました」
店の扉を開き、芳醇な香りを堪能していたのも束の間、涙目のマリアがこちらへ駆け込んできた。
俺の手を握るマリアの手は、力がこもっていた。
「よく戻ったね! もうこの街を出るのかい?」
「いや、もう少し滞在します」
厨房から出てくるメリダさん。俺が滞在する事を告げると、少し安堵したような表情を見せる。
「なら良かったよ、娘とすぐにお別れは寂しいからね」
「え? どういう……?」
「マリアを連れて行きな」
突然告げられた言葉。連れて行く? 誘拐か? いや、親の合意だしな。一緒に魔王討伐するのか? マリアが?
「魔王の復活を阻止するんだろ? マリアはこう見えて戦えるんだよ、冒険者登録もしてある」
自慢げに話すメリダさん。また中継されてたのか?
「それに! 何をするにも食事は必須さね、この中にちゃんと料理できる子はいるのかい?」
ある程度くらいしか出来る子いません。正直ありがたい。
「娘を危ない目に遭わせていいってのかぁ?」
後ろで話を聞いていたハンツが、真剣な面持ちでメリダさんに近付く。
「言っただろ? 戦えるって。それに、本人の望みだから止めないよ。信頼してるしね」
こちらを見てニカッと歯を見せるメリダさんは、とても逞しく見えた。マリア本人が望んで俺たちに……。なら、俺たちも拒む事は出来ないな。
もじもじと不安げな眼差しでこちらを見つめるマリアを見据える。
「マリア、俺たちと一緒に来てくれ」
「はい! よろしくお願いします!」
「やったー! 頑張ろうねマリアちゃん!」
新しく仲間を迎える。賑やかになりそうだな!
「ほら、座りな! ダンジョン攻略お疲れ様って事で、祝勝会するよ! あんたら! 準備はいいかい?」
豪快に声を上げるメリダさんに呼応するように、店にいた常連客が叫ぶ。机に、次々と料理が並び揃う。
どのテーブルにも料理が揃った頃、マリアが大きな布を壁に貼り付ける。それは、『祝ダンジョン攻略』と書かれていた。垂れ幕で祝う風習、この世界にもあるんだな。
「大きな拍手で、この勇者たちを祝ってやんな!」
「よくやった! かっこいいぞ!」
「あんまり無理しすぎるなよ!」
「困った事があればいつでも頼れよ!」
メリダさんの掛け声で、次々と言葉が飛び交う。人の心ってこんなにもあったかいんだな。
各々ジョッキに手をかけ、こちらに視線を向ける。
「勇者様! 一言!」
からかうように、マリアが言う。
「みんな、ありがとう! 心強いよ、精一杯頑張る!」
語彙力が……もう、これ以上話す内容が出てこない。
助けを求めて、ハンツやガンテツに目を向ける。あ、だめだを察してニヤけている。助ける気ねぇな。もういい、ゴリ押しだ。
俺は、ジョッキを高らかにかかげ、大きな声で叫ぶ。
「乾杯!」
『かんぱーい!!』




