二十八歩目 協力
「参った!」
「は?」
動き出したと同時に、降伏の声が上がる。いや、は?
「だって〜? 時間止まってたのかな。聖剣の真名聞いたんでしょ? 勝ち目ないじゃん」
聖剣に目を落とし、脱力したように言う五層ボス。
「だからって即降伏か? ここまでしておいて?」
「お前が暴走したままなら、手駒にして騎士どもを潰す予定だった」
地面にどかっと座り込み、つらつらと語り出す五層ボス。それを俺は、困惑しつつ見る。
「で、意識を取り戻したなら協力して魔王復活を阻止する。てことで頑張ろうな!」
「勝手に決めんな! というか魔王ってなんだよ! 状況が読めねぇよ」
親指を立てて、元気に笑う五層ボス。
「俺はさ、騎士どもに召喚されたものの、神獣と契約できずに追い出されたんだよ。刺客を送られ、殺されかけた。理不尽な出来事に怒り狂った。その時に、召喚される前……殺される瞬間の記憶が脳をよぎった」
五層ボスは、結われた髪を片手で解く。
「んで暴走した」髪紐を指でぐるぐると回しながら話を続ける。「そこから何やかんやで、魔王軍幹部を名乗るドーグってやつにスカウトされて、魔王復活の為、幹部として働けって言われたんだ」
幹部ってそんな軽い感じなのか? それに、なんやかんやで何があったんだ。
「言いなりはだるいし、騎士どもは憎いし。両方に復讐できるチャンスを狙ってた。でも欲張りは良くないしな」
ゆっくりと噛み締めるように話しているものの、ざっくりとしていて説明する気あるのか? とも思う。
つまり、復習する機会を伺っていたところに俺が現れて、どちらに復讐するかを俺の行動に委ねたって事か? それにしても魔王……? 何がどうなっているんだ。
「協力してくれるなら、このダンジョンの財宝を全て献上しよう。街を出るんでしょ? 資金は重要じゃない?」
「よし、共に魔王復活を止めよう」
「翔吾!?」
五層ボスからの魅惑的な提案。俺は即答した。
「いや、だって、ほら?」取り繕うように言葉を紡ぐ。「害は無さそうだし、資金がいるのは事実だしな〜」
「たしかにそうだけどさ……」
シズクは、敵に買収されるような形で納得がいかないんだろう。
「まぁいいじゃねぇかぁ! 貰えるもんは貰っとこうぜぇ?」
豪快に笑うハンツに気圧されるように肩をすくめるシズク。
「みんながそう言うならいいけど……」
「財宝はこっちだ。案内するよ!」
五層ボスは、俺とシズクの腕を引き、下へと繋がる階段へと連れて行く。
「さんきゅ」
「良いってことよ」
階段を恐らく一階程降りた頃だろうか、視界を金に輝く財宝の数々が支配する。
「宝って二層に置いてたのか?」
「そんなわけないじゃん! このダンジョンは六層構造、そしてここは六層。財宝を貯めとくだけの層だ!」
自慢げに言葉を続ける五層ボス。
「ここには俺か、俺が認めたやつしか入れないんだぜ。どの層からも一瞬で行ける隠し層ってやつだ!」
「なるほどな。五層ボスにもなるとそんな事出来るのか」
「大河だ! もう協力関係だろ? 名前で呼んでくれよ」
五層ボスは、大河と名乗った。日本人みたいな名前だな。
「俺は日本人だよ。召喚されたって言ったろ?」
「さらっと思考を読むんじゃねぇよ」
びっくりした。魔人ってのは思考を読めるものなのか?
「なんっだこれぇ!?」
六層の入り口で立ち止まっている俺を置いて、高々と積み上げられた宝を前に叫ぶハンツ。
「落ち着けハンツ。これは多分夢だ。きっと夢だ」
「現実だよ!」
宝の前へ行き、ハンツの横に並ぶ。夢だと主張する俺に、シズクは強く否定して現実へと引きずり戻す。
シズクの言葉を後押しするように、ガンテツが後ろから俺の頭を掴み、前後に揺らす。
「痛え……」
「にしても凄まじい量の宝じゃのう。金貨も大量にあるようじゃ」
宝の量におどろくリルは、何故か俺の背中をばしばしと叩いている。もう夢じゃないって分かったから刺激与えないで。
「一気に大富豪じゃねぇかぁ!」
能天気に笑うハンツ。こいつは気にならないのか? ダンジョンの財宝って出所はどこなんだ?
「こういうのってやっぱり強奪とかで貯めてるのか?」
「聞かない方がいいこともあるってもんだよ」
自虐的な笑みで、含みのあるような言い回しで話す大河。考えるだけ無駄か。
思考を放棄して、リルが開く神域に財宝を次々と放り投げて行く。全員で。
「ギルドには、討伐したって報告しておいてくれ。後でダンジョンの入り口を潰しておく」
「わかった。でも、入り口潰したら出れなくないか?」
「翔吾たちが行く街に新しく作るよ」
しれっと言ったが、どこに入り口作ってもここに繋がるのか? ダンジョンって不思議だな。
「なぁ、魔王の復活を阻止するっつっても、どうすりやいいんだぁ?」
「幹部を潰すしかないかな。俺たち幹部は、人間の負の感情と魔力を集めるんだ。それを魔界にある碑石に注いで復活させる」
徐々に明らかになっていく魔王復活についての詳細。それにしても気になる単語が出てきた。
「魔界!? 行きたい!」
「ははっ! 興味あるよな? でも焦らなくて良い。いずれは行く運命だ」
無邪気に笑いながら、言葉を繋ぐ。
「まずは魔剣使いの幹部を探すのが得策だと思う。やばいから」
魔剣使いか……聖剣使いの俺の宿命だろうか。やばいの意味は汲み取れなかったが、やばいのだろう。
俺たちは、大河に「ドーグには気を付けろ」と忠告を受けながら、ダンジョンを後にする。出てすぐにダンジョンの入り口が砕け落ちた時は驚いた。生き埋めにならないのか?




