二十四歩目 爆発
「これ、地下からじゃねぇかぁ?」
「確かに、下から冷気が来てる気がするな」
「だよなぁ」
分析をして、ひとつの可能性が頭をよぎった。
「だとしたらシズク達が危な……」
だが、その可能性は一瞬にして勘違いだと悟る。敵襲にしろ、地下に行くには俺たちのいる道場を通る必要がある。
「いや、これ本人達がやらかしたのか?」
「だなぁ。魔法を使った痕跡もねぇって事は敵襲はほぼないだろうなぁ」
俺の疑問に同意を示すボスゴリ。ん? 痕跡?
「魔法って痕跡残るのか?」
「そうかチビは魔法使えねぇ世界から来たんだったなぁ」
そう言い、ボスゴリはにっこりと笑う。よくこんな寒い中で自然に笑えるな。
ボスゴリの体はまったく寒さに屈すること無く震えてすらいない。袖ない服なのにな。俺は震えてる。
「魔法ってのは、そこら中に存在する魔力を集めて、自分の魔力と絡めて発動するもんだぁ。だから発動した後は少量の魔力が不自然に漂ってんだ。魔法使えるやつしかわかんねぇがなぁ」
空を切るように手を伸ばすボスゴリ。
「なるほどな、俺は見えねぇわ。ボスゴリは見えるのか? というか魔法使えるのか?」
「まだリルの魔法しか使えねぇなら見えなくても無理はねぇだろぉ」
直後に言い出す。
「俺は一応、土魔法は使えるが扱いが難儀であんまり使わねぇなぁ」
「ちょっと意外だわ。力のみでゴリ押すだけだと思ってた」
そう言えば前に地面を揺らしてたのは魔法か? いや、こいつなら素の力で揺らせそうだな。
「褒めんなよ。照れんじゃねぇかぁ」
「いや、褒めては……まぁいいや。地下行くぞ」
何故か照れるボスゴリをあしらい、地下へと急ぐ。
地下へと繋がる階段も凍てつき、油断をすれば滑り落ちそう。そして下へ降りるにつれ、当然の如く温度も下がっていく。
「さっむ!」
「引き返してぇ」
流石のボスゴリも寒さに限界が来たようだ。
そしてトラブルに見舞われる。まじかよ。
「凍りついて、ドアが開かないぞ!」
「ぶち破るぞぉ!」
「ちょ! ま……」
俺の意見を聞かず、爆速でドアをぶち破るボスゴリ。キンキンに冷やされた空間が一気に解放され、込められた冷気が、砲撃の如く俺たちを襲う。
これだから脳筋は……。
「冷気がこもってんだからこうなるだろばか」
「いい経験になったぜぇ」
「ポジティブか!」
ボスゴリと話していると、奥から弱り果てたような、か弱い声が聞こえる。その声はどこか安堵も表していた。
「翔吾! 助かった〜!」
「何があった?」
声の方へ視線を向けると、シズクがいた。身に纏ったローブの裾は凍り、いつものフワッとした印象とは対照的な固まったイメージ。例えるならフィギュアのよう。
リルやガンテツも同様に服が固まり、肌には霜が降りていた。
「私がこぼして、リルがばぁぁって!」
「お、おぉう?」
「どういう事だぁ?」
シズクはテンパっているのか、説明があやふやですごく雑だった。
「儂が説明をしよう」
「おう頼むわ」
見かねたガンテツが、霜を払いながら説明を進める。
話をまとめると、油をキッチンまで運んだシズクが横転、油が散乱。
拭き取り、調理を継続するもののリルが火力を上げ、ふき取りの甘かった箇所から引火。
瞬く間に広がる炎を止める為、ガンテツが魔法を行使。そして今に至る。
「よし、リルとシズクしばらく料理禁止」
「なぜじゃ? 我は街で見たことを真似しただけじゃぞ?」
俺の言葉に、疑問を抱いたリル。きっと以前見た、フランベを真似たのだろう。この世界でもフランベがある事にも驚きだが、真似するやつがいるのも驚きだな。素人には無理だろ。
「うん、そうだな。しっかり形だけは真似できたな。でもな? 周りが油まみれだと引火するし、そうじゃなくても服とかに引火するから素人はだめだぞ?」
俺はリルの頭に手を置く。
「しっかり判断して行動しような」
「うむ……そうだな。気を付ける」
「そうだ。ひとつ賢くなったな。これからは頼むぞ?」
俺はシズクに視線を移し、語りかけるように言う。
「で、シズクは落ち着いて行動しような」
「うん! 気をつけるね!」
俺は、氷漬けの空間を見渡しながら、ガンテツへと近付く。
「ガンテツ、火事の処理は助かったけど氷漬けはやりすぎだ」
「すまんな。氷結魔法を使うのは久しくてな、加減が出来んかった」
え、みんな魔法使えるの? シズクは、今は攻撃魔法使えないけど、勇者パーティーに所属するレベルの魔法使いでしょ? リルは最強種で魔法も色々使えるみたいだし、ずるくないか?
「なぁ、氷漬けのこの空間どうすんだぁ?」
「そうだな、どうするかなぁ」
唖然としながらも、疑問をぶつけるボスゴリ。ほんとどうするかなこれ。
「熱せばよかろ?」
そんな俺たちの疑問を一蹴し、それと同時に不安を煽ったのはリルだ。
「ばっ――」
「爆発するぞぉ!?」
俺とボスゴリの声がリルに届くより先に、リルの放つ炎が空間を一気に熱する。
「みんなこっちに集まって!」
シズクの指示の元、それぞれがシズクの側へ向かう。冷えた空間が一気に熱される事で、膨張がどうたらで爆発する。そのなんとなくの知識は、俺もボスゴリもあったようだ。
予想していなかった出来事に呆然とするリルを抱える。
爆発の瞬間、シズクが防御の魔法を使いダメージを凌ぐ。だが、風圧で俺たちは地上へと吹き飛ばされる。
「やべぇ道場、全壊だぞぉ……」
おいおい、これどうすんだよ。側に立てられているガンテツの小屋も半壊している。
「シズクが防御してくれなかったらやばかったな」
「役に立ってよかったよ! でも地下から地上に飛ばされちゃったね」
えへへ、と頭に手を置き照れるシズク。
さっき照れてるゴリラを見たけど尊さが雲泥の差だな。
「リ〜ル〜? 判断して行動するんじゃなかったっけ?」
「す、すまない……」
流石に反省しているようだな。まあリルも良かれと思ってやったんだよな。でもどうすっかなぁ、明日の為に体を休めたいけど、家が崩壊した。