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二十二歩目 契約

 ***



「今度来る時はダンジョン攻略してからだと思う」


 まだ薄暗い空の下、不安そうな表情を見せるマリアに告げる。


「待ってますよ! 無事に、帰ってきてくださいね?」

「ああ、約束する」


 不安を誤魔化す様に、笑顔を作るマリアに優しく声を掛ける。心配かけねぇ様にしないとな。


 宿屋を去りボスゴリとシズクを連れ、道場のある山へと行く。街から麓まで歩き、ゲートを潜る。堂々と聳え立つ大きな道場。木製の引き戸を動かし、中へと入る。


「小僧、まずは刀だ。以前打っていた物だ。この間の物は完全に折れて時間が掛かるからな。聖剣は目立つ、これを持っておくといい」

「おお、さんきゅ!」


 先に入山し待機していたガンテツに、鞘に緑の紐が巻かれた刀を手渡される。そして付け足す様にガンテツが言う。


「気を引き締めろよ?」

「分かってる、ビシッと契約終わらせてくるわ!」


 ガンテツと同じく先に入山していたリルは、道場の真ん中で神妙な顔で瞑想している。俺はリルに近付き、声を掛ける。


「リル、ぱぱっと終わらせよう」

「そうじゃな。じゃが、その前に一つ話をさせてくれぬか」


 明るい顔でリルは言った。だけど、手は小刻みに震えていた。何か真剣な話なんだろうか。


「分かった」


 リルの前へ行き、胡座をかく。俺が座ったのを確認すると、リルはゆっくりと、話し始める。


「翔吾、まずは……謝罪させて欲しい……すまなかった」

「どういう……事だ?」


 突如、頭を下げるリル。なにがどうなってるんだ?


「我は神域を救う為、お主を利用しようとしておる」


 そう言ったリルは、震えた手を止める様に拳を強く握り、話を続ける。


 リルが話した内容はこうだ。

 事の初めは、神域の長がした予言から始まった。『近い内神域は、人間と魔人に制圧される』という内容だったそうだ。


 その予言を聞き、リルは神域を救う為、神獣族と契約して力を最大限に発揮できる【召喚者】を探していた。だが召喚者は騎士団にしか呼び出せない。


 諦めて、召喚者ではないが、素質がありそうな者を探す事にしたらしい。扱き上げればなんとかなるという気持ちを込めて。


 それで俺に出会ったって事か。


 俺に興味を惹かれたリルは、『盗賊を倒す』という目的を提示して契約を呼びかけた。そして偶然、召喚者だった。


 あの時の言葉はそういう事だったのか。

 召喚についても聞いた。どうやら、俺は死んでここにいる様だ。それは正直どうでもいいけど。


「本当にすまない。ずっと悩んでおった……事実を伝えるかどうかを」


 リルは俯く。


「我はお主の怒りをかったじゃろう、契約は――」

「しなくていい。なんて言うんじゃ無いだろうな?」


 俺は、リルの頬を両手で掴み、目を見つめる。


「確かに怒ってる。けど、こんな重要な事を早く言わなかった事にだ。一人で悩まなくていい、俺達がいる。だろ?」


 リルは周りを見渡す。

 俺達は仲間だ。遠慮してんじゃねぇよ。


「ダンジョン攻略の後は、神域の制圧阻止! 忙しくなるな」


 頬から頭へ手を移動させ、くしゃくしゃっとリルの頭を撫でる。

 よし! と立ち上がる。


「助けてくれるのか?」

「俺もシズクも一人で悩まなくて良いって言ったのはリルだ。だったらリルもだろ? ほら早くしようぜ、強くしてくれるんだろ?」

「そうじゃな……ありがとう!」


 リルは瞳を潤わせ、感謝を告げる。その姿を見たシズクは、リルへ近付き、強く抱きしめる。ついでに、俺が撫でて乱した髪も整えている。なんかすまん。


「切り替えじゃ! 始めるぞ! 翔吾!」

「おう!」


 気持ちを切り替え元気なリルを背に、ボスゴリとガンテツが武器を持ち、道場を出て行く。手合わせでもするのか? というか……。


「なぁ! 斧小さくなってないか!?」


 予想外の事に思わず声を掛けてしまった。


「ふっ! 気付いたかぁ? チビがカッコつけてる後ろで俺は先に驚いてたぜぇ!」

「武器が脳筋小僧に合わせたのだ。このサイズが最善だと判断したのだろう」


 なぜかドヤるボスゴリ。それに反応する事もなく、ガンテツは俺に説明する。どうやらこれも、武器に選ばれた者の特権ってやつらしい。


「くそ、俺を置いて成長しやがって!」

「追い付いてこいよ、チビ」

「追い抜いてやるよ、ボスゴリ」


 ボスゴリは豪快に笑う。「早く行くぞ」と言いながらガンテツは、ボスゴリを引っ張り道場を出る。


「脱線したが、そろそろ始めるかのう!」

「そうだな!」

「ねぇ、私ここで見てていい?」

「うむ! かまわん! 良いじゃろ? 翔吾」


 首を傾げ、可愛くお願いするシズク。それに対し、快く承諾したリルは、俺に賛同を求める。こんな可愛い子の頼みを断れるやつなんているのだろうか。いや、いないだろうな。


「全然いいよ! 俺の進化をしっかり目に焼き付けといて」


 冗談まじりに言う俺に「しっかり見てるね!」と、とびっきりの笑顔を見せるシズク。その姿は、生前俺が好きだったアニメのどのキャラよりも、ダントツで尊かった。うん、シズクしか勝たん。


 リルは、俺の手に掛けた幻影魔法を解く。そして左手を俺に差し出す。


「いよいよだな」


 そう言って俺も左手で、差し出されたリルの手を握る。その直後、青色の紋章がじわじわと熱くなっていく。


「手を握るだけで契約できるのか?」

「言い伝えでは、今お主の紋章が熱くなっておるはずじゃ。我は初めて契約を行う、故に言い伝え通りにやる事しか出来ぬ」


 リルが言うには、接触する事により神獣族の魔力と俺の魔力がリンクされ、神獣の問いかけに答える事で完了するみたいだ。俺、魔法使えないけど一応魔力はあるらしい。魔法使いたいなぁ。


「では問おう。お主は我の力をどう使う?」

「人を助ける為、弱い俺と決別する為!」


 人を助けるって理由だけなら、なぜか偽善の様に思えて、俺は決意表明? もした。


「うむ! いい答えじゃ!」


 リルがそう言った後、紋章が青の光を放つ。光は次第に道場を包み込み、光が収まる頃には紋章が、緑色に変色していた。紋章の形も、以前とは異なり、魔法陣の様な物に変わっていた。契約完了……か?

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