二十二歩目 契約
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「今度来る時はダンジョン攻略してからだと思う」
まだ薄暗い空の下、不安そうな表情を見せるマリアに告げる。
「待ってますよ! 無事に、帰ってきてくださいね?」
「ああ、約束する」
不安を誤魔化す様に、笑顔を作るマリアに優しく声を掛ける。心配かけねぇ様にしないとな。
宿屋を去りボスゴリとシズクを連れ、道場のある山へと行く。街から麓まで歩き、ゲートを潜る。堂々と聳え立つ大きな道場。木製の引き戸を動かし、中へと入る。
「小僧、まずは刀だ。以前打っていた物だ。この間の物は完全に折れて時間が掛かるからな。聖剣は目立つ、これを持っておくといい」
「おお、さんきゅ!」
先に入山し待機していたガンテツに、鞘に緑の紐が巻かれた刀を手渡される。そして付け足す様にガンテツが言う。
「気を引き締めろよ?」
「分かってる、ビシッと契約終わらせてくるわ!」
ガンテツと同じく先に入山していたリルは、道場の真ん中で神妙な顔で瞑想している。俺はリルに近付き、声を掛ける。
「リル、ぱぱっと終わらせよう」
「そうじゃな。じゃが、その前に一つ話をさせてくれぬか」
明るい顔でリルは言った。だけど、手は小刻みに震えていた。何か真剣な話なんだろうか。
「分かった」
リルの前へ行き、胡座をかく。俺が座ったのを確認すると、リルはゆっくりと、話し始める。
「翔吾、まずは……謝罪させて欲しい……すまなかった」
「どういう……事だ?」
突如、頭を下げるリル。なにがどうなってるんだ?
「我は神域を救う為、お主を利用しようとしておる」
そう言ったリルは、震えた手を止める様に拳を強く握り、話を続ける。
リルが話した内容はこうだ。
事の初めは、神域の長がした予言から始まった。『近い内神域は、人間と魔人に制圧される』という内容だったそうだ。
その予言を聞き、リルは神域を救う為、神獣族と契約して力を最大限に発揮できる【召喚者】を探していた。だが召喚者は騎士団にしか呼び出せない。
諦めて、召喚者ではないが、素質がありそうな者を探す事にしたらしい。扱き上げればなんとかなるという気持ちを込めて。
それで俺に出会ったって事か。
俺に興味を惹かれたリルは、『盗賊を倒す』という目的を提示して契約を呼びかけた。そして偶然、召喚者だった。
あの時の言葉はそういう事だったのか。
召喚についても聞いた。どうやら、俺は死んでここにいる様だ。それは正直どうでもいいけど。
「本当にすまない。ずっと悩んでおった……事実を伝えるかどうかを」
リルは俯く。
「我はお主の怒りをかったじゃろう、契約は――」
「しなくていい。なんて言うんじゃ無いだろうな?」
俺は、リルの頬を両手で掴み、目を見つめる。
「確かに怒ってる。けど、こんな重要な事を早く言わなかった事にだ。一人で悩まなくていい、俺達がいる。だろ?」
リルは周りを見渡す。
俺達は仲間だ。遠慮してんじゃねぇよ。
「ダンジョン攻略の後は、神域の制圧阻止! 忙しくなるな」
頬から頭へ手を移動させ、くしゃくしゃっとリルの頭を撫でる。
よし! と立ち上がる。
「助けてくれるのか?」
「俺もシズクも一人で悩まなくて良いって言ったのはリルだ。だったらリルもだろ? ほら早くしようぜ、強くしてくれるんだろ?」
「そうじゃな……ありがとう!」
リルは瞳を潤わせ、感謝を告げる。その姿を見たシズクは、リルへ近付き、強く抱きしめる。ついでに、俺が撫でて乱した髪も整えている。なんかすまん。
「切り替えじゃ! 始めるぞ! 翔吾!」
「おう!」
気持ちを切り替え元気なリルを背に、ボスゴリとガンテツが武器を持ち、道場を出て行く。手合わせでもするのか? というか……。
「なぁ! 斧小さくなってないか!?」
予想外の事に思わず声を掛けてしまった。
「ふっ! 気付いたかぁ? チビがカッコつけてる後ろで俺は先に驚いてたぜぇ!」
「武器が脳筋小僧に合わせたのだ。このサイズが最善だと判断したのだろう」
なぜかドヤるボスゴリ。それに反応する事もなく、ガンテツは俺に説明する。どうやらこれも、武器に選ばれた者の特権ってやつらしい。
「くそ、俺を置いて成長しやがって!」
「追い付いてこいよ、チビ」
「追い抜いてやるよ、ボスゴリ」
ボスゴリは豪快に笑う。「早く行くぞ」と言いながらガンテツは、ボスゴリを引っ張り道場を出る。
「脱線したが、そろそろ始めるかのう!」
「そうだな!」
「ねぇ、私ここで見てていい?」
「うむ! かまわん! 良いじゃろ? 翔吾」
首を傾げ、可愛くお願いするシズク。それに対し、快く承諾したリルは、俺に賛同を求める。こんな可愛い子の頼みを断れるやつなんているのだろうか。いや、いないだろうな。
「全然いいよ! 俺の進化をしっかり目に焼き付けといて」
冗談まじりに言う俺に「しっかり見てるね!」と、とびっきりの笑顔を見せるシズク。その姿は、生前俺が好きだったアニメのどのキャラよりも、ダントツで尊かった。うん、シズクしか勝たん。
リルは、俺の手に掛けた幻影魔法を解く。そして左手を俺に差し出す。
「いよいよだな」
そう言って俺も左手で、差し出されたリルの手を握る。その直後、青色の紋章がじわじわと熱くなっていく。
「手を握るだけで契約できるのか?」
「言い伝えでは、今お主の紋章が熱くなっておるはずじゃ。我は初めて契約を行う、故に言い伝え通りにやる事しか出来ぬ」
リルが言うには、接触する事により神獣族の魔力と俺の魔力がリンクされ、神獣の問いかけに答える事で完了するみたいだ。俺、魔法使えないけど一応魔力はあるらしい。魔法使いたいなぁ。
「では問おう。お主は我の力をどう使う?」
「人を助ける為、弱い俺と決別する為!」
人を助けるって理由だけなら、なぜか偽善の様に思えて、俺は決意表明? もした。
「うむ! いい答えじゃ!」
リルがそう言った後、紋章が青の光を放つ。光は次第に道場を包み込み、光が収まる頃には紋章が、緑色に変色していた。紋章の形も、以前とは異なり、魔法陣の様な物に変わっていた。契約完了……か?




