二十一歩目 決意
「へ~、翔吾十九歳なんだ! 私の方がお姉さんだね!」
誇らしげに言うシズク。え? お姉さんなの!? 見えねぇ。同い年だと思ってたり
「私とは同い年ですね!」
え? マリアは同い年!? それも見えねぇ。年下だと思ってた。「シズクちゃん、お姉さんって言っても一つしか変わりませんけどね!」なんて言いながらボアを俺の前に置く。
「グイッといっちゃって下さい!」
「ありがとう! 飲むぞ! ボスゴリ!」
「酔い潰れんじゃねぇぞぉ? チビ!」
こちらを見つめ微笑む、リルとガンテツ。さすがこのパーティーの保護者。
木のジョッキから、溢れんばかりに膨れ上がった泡をすする。唇にまとわりつくものの、口当たりは滑らかですぐに溶けていく感覚。泡の下に待機している黄金色の液体は、ほのかな苦味を残しつつもフルーツの様な爽やかさを醸し出している。
「美味い!」
「さっぱりしてて美味しいよね!」
隣で飲んでいたシズクは、小さな口をジョッキから離す。
「チビ、ペース遅いんじゃねぇのかぁ?」
「そう言うボスゴリは、顔が赤くなってるぞ」
「まだまだいけんぜぇ! 一気に飲み干してやるよぉ!」
「俺だって!」
大きく手を上げる。
「おかわり!」「もう一杯くれぇ!」
オーダーを聞き、ジョッキを二つ持ってきたマリアが、呆れた顔を見せる。
「お母さんからの伝言! 競うのも良いけど、お酒は美味しく飲んでね?」
「はい……すんません」
厨房から、いたずらな表情でこちらを見ているメリダさんに二人で詫びる。そうだよな、美味しく飲まないと失礼だな!
「もう……飲めないよ〜」
あれ? シズク? 酔い潰れた……? 一杯目じゃない?
「シズクちゃん、ほんとすぐ酔っちゃうね」
「案外チビが一番、酒豪だったりしてなぁ! 顔が赤くすらならねぇ!」
「あの二人には敵わない」
視線の先には、ジョッキに囲まれたリルとガンテツがいた。酔っている素振りすらない。てかいつの間にあんなに飲んだんだ?
「儂としたことが飲みすぎてしまった……」
「なんじゃ? 酔っておるのか? ガンテツ」
「この程度では酔えんな」
まだ余裕な態度を見せる二人。こいつらやべぇな。
そのまま時が流れる。ボスゴリは酔い潰れ、シズクは俺の隣で、テーブルに突っ伏して熟睡している。リルとガンテツは未だに飲み続けていた。
俺はクールダウンで、水を口に含む。
「翔吾くん、今日泊まってたらどうだい? 宿代はサービスしてあげるよ」
「いいのか?」
「いいよ、たくさん飲んでくれたしね! マリアも喜ぶよ! それにシズクちゃん運んで帰るのはしんどいでしょ?」
メリダさんは、熟睡するシズクを眺め、朗らかな表情を見せる。お言葉に甘えさせてもらうか。
「翔吾さん、一緒に飲んでくれませんか? 客足が落ち着いたので……」
「うん、飲もっか。シズクもボスゴリも酔っちゃって、飲み足りなかったんだ」
マリアは横に座り、ジョッキを持ち上げる。
「それじゃ、乾杯!」
「乾杯!」
二人して、一気にジョッキを空にする。マリアいい飲みっぷりだな。
「翔吾さん……本当に、ダンジョンに行くんですか? 危険なんですよね?」
「うん、行くよ。心配?」
「心配に決まってるじゃないですか! 意地悪ですね」
俺の頬をつねるマリア。痛い痛い。
「そっか、心配か。でも大丈夫! 俺、強くなってるから。それに仲間もいる」
「随分と信頼されてるものだな」
「ガンテツ、もう飲み終わったのか?」
スタスタとこちらへ向かってくるガンテツ。あんなに飲んでたのにピンピンしてやがる……。
あ、リルはさすがに酔い潰れてるみたいだ。
「ああ、それにしても小僧がそんなにも仲間を信頼していたとはな。儂も全力を注ごう」
「ありがとな、ガンテツ」
ガンテツは「邪魔して悪かったな」と言い残し、夜風を浴びに店を後にした。
「翔吾さん、いいお仲間に出会えて良かったですね!」
「そうだな、俺は幸せ者だ!」
ぐびぐびとボアを飲み進め、マリアはすっかり酔っていた。俺、まだ飲めるな。酒豪か?
「翔吾しゃん! シズクちゃんとわらし、どっちがしゅきなんれすか?」
「ふ、二人とも好きだよ? いい友人だし」
「らめれす! 異性として!」
両手を俺の首にまわして、顔を近付けるマリア。その表情はどこか不安そうで、はっきり言わないといけないと思った。
「俺は……」
「おいチビィ! ちょっと付き合えやぁ」
「は? 何言ってんだよ?」
不意に来るボスゴリ。まだ酔いが抜けてないのか、ふらふらの足取り。手首を引っ張られ、俺は店の外へと連れ出される。マリアはキャパを越えたのか、机に突っ伏す。
夜空に散りばめられた星の輝きの下、目的も無く歩く。ガタイのいい男と。
「チビ、てめぇの気持ちを真っ先に伝えるべき相手は、本人だろ?」
「話聞いてたのか?」
「まぁな。ちょうど酔いが覚め始めたらおもしれぇ事になってたからなぁ。しばらく様子見てたんだぁ」
俺の背中を強く叩くボスゴリ。確かに、この気持ちは真っ先に、シズクに伝えるべきだな。
「さんきゅーな。ダンジョン攻略し終えたら、シズクに伝えるわ」
死亡フラグみたいだな。いや、これは決意だ。消して死なない。
「おう。チビはまだまだ強くなるぜぇ、なんせ守るもんがあるからなぁ」
こいつなんやかんやで優しいんだよな。暗闇を抜け、店へ戻る。ほのかに料理の香りが残る店内、後片付けを手伝う。
「悪いね、翔吾くん。手伝ってもらっちゃって」
「これくらい、いいよ。騒ぎまくったし」
ある程度片付けて、メリダさんに「もういいよ、ありがとう!」と言われたので、シズクを部屋まで連れていく。ベッドにシズクを置き、俺も部屋に戻る。なんだか懐かしさすらあるな。




