二十歩目 甘酢
王と騎士団長に睨まれながらも、王室から開放される。出口へ向け、広すぎる城内を歩く。装飾綺麗だなぁ。
「翔吾! ハンツ! 二人とも怖いもの知らず過ぎるよ! こっちがひやひやしたよ~!」
「あのおっさん気に食わねぇんだよなぁ」
「そうだな。なんか腹立つな」
前から来たメイドが持っていたフルーツのカゴから、ボスゴリが通りすがりに掠め取った赤い果実ををかじりながら進む。こいつ「もらうぜぇ」なんて澄ました顔で、二個同時に取ったぞ……どんだけ手でかいんだよ。あれ? これりんごか?
「美味いな」
「りんご美味しいよね〜」
やっぱりんごか。りんごはこの世界にあるんだな。一口食べたりんごをシズクへ差し出す。シズクは赤面しながらもりんごを齧る。俺が手に持ったままのりんごを頬張るシズクに、とても小悪魔的な雰囲気を感じた。
ん? 赤面? これ、間接キスってやつか? 自分がしでかした事に気付き、顔が熱くなる。
「小僧共、あれでも一応ラグロクの王だ。態度は慎め……と説教をしようと思っていたが、その必要は無くなったな。客人に向かって老人とは……やつは人としての常識を学ぶべきだな」
呆れるようにため息をつくガンテツ。俺たちは、王への不満を漏らしながらも門を潜り、城から脱出する。
太陽に照らされ、熱気を放つ石畳の上を進む。シルヴァさんは、ダンジョンの独占やその他諸々の手続きがあるとかで先に帰って行った。無駄な仕事増やしちゃったな。今度埋め合わせしよう。
「どこで飯食べる? ギルドの軽食で済ませる?」
「え? メリダさんの所に行かないの?」
不意をつかれた様に、歩いていた足を止めこちらを向く。
「行こうと思ったんだけどな……」
「けど……?」
渋る様に言葉を詰まらせる俺に、キラキラと輝く瞳をこちらに向けるシズク。城での要件が済んだら行きたかったけど、恐らく王に恨まれてるだろうしな。
俺と関わりが深いって事を理由に、何か仕掛けてくる可能性がある。迂闊に行動できないな。
「アタシらに気を遣ってんのかい?」
「メリダさん!? どうしてここに?」
声を張り、後ろから歩いてくるメリダさん。振り返ると、どこか不安げな表情を見せている。
「街のみんなが見る魔力中継で、あんなのが流れたら心配になるよ!」
「魔力中継? なんだそれ?」
「知らないのかい? 王城に中継魔法を使える人がいてね、重要な報告とかを時々街中に中継してるんだよ」
メリダさんの話に共感する様に頷くシズク達。あれ? 中継のこと知らなかったの俺だけ?
「それで今回、新たな勇者が誕生したって中継のはずだったんだけどねぇ。まあ良い、店でマリアが待ってるよ! 早く行くよ!」
「でも……」
俺の言葉を遮りメリダさんが言う。
「私ら街の人間は王が嫌いでね、あんたの態度をみてスカッとしたよ。同時に決意も感じた」
ゆっくりと近付き、俺の肩に手を置く。
「あんたは私らに迷惑がかからない様になんて思ってるんだろうけど、私らもあんたの決意に巻き込んでくれないかい? 王の言いなりはもうごめんだよ」
「本当にいいのか?」
「マリアちゃんが惚れた男だ! それだけで信頼するには充分だ! 困った事があったらいつでも言いな」
後ろからやって来た酔っ払い達。いや今は酔ってないからおっさん達に訂正しよう。
「深く考えてたみてぇだが、何も心配なかったなぁ! チビ」
「そうみたいだな」
落ち着いた素振りを見せるが、泣きそう。街のみんなが優しすぎる。メリダさんに言われるがままに、店へ行く。
食欲をそそる香りを放つ木造の建物。中では、複雑な表情で料理をするマリアがいた。
「マリア! ちゃんと連れて来たよ!」
「翔吾さん! 心配しましたよ!」
俺を見つけ、涙を流しながら駆けてくるマリア。ほんと心配かけたな。
「隅におけねぇなぁチビ!」
「何言ってんだよ」
からかう様に言うボスゴリが、続け様に小声で言葉を吐く。
「横見てみなぁ」
横に目をやると、明らかにやきもちを妬くシズク。心配してくれる女の子、やきもちを妬いてくれる女の子。これがモテ期ってやつだろうか? 都市伝説だと思ってた。
席につき、たくさんの料理が用意されたテーブルへ目を向ける。キッシュやシチューなどの定番メニュー。それに見た事のない美味しそうな料理。
これはマリアが作ったらしい。
「翔吾さん! これ! メロウを使った料理です!」
「メロウ! やっぱりメロウを使った料理あったんだ!」
コロコロとした見た目の食材は、以前街に買い物に行った時見かけた物だ。
肉と野菜、それにメロウ。これは……酢豚? メロウはパイナップルの役割だろうか。メロウにも肉を柔らかくする成分、ブロメラインが含まれているのか? そんな事を思いながら、一口頬張る。
「肉柔らか!」
「でしょ!? メロウがお肉を柔らかくするみたいなの!」
本当にブロメラインが含まれていた。不思議すぎるぞメロウ。それにメリダさんによるとメロウの調理は繊細で難しいらしい。すごいなマリア。
「おう、こりゃうめぇぜぇ!」
「マリアちゃんすごいよ!」
確かにこれは美味すぎる。程よい酸味の甘酢あん。このとろみがしっかりと、肉に絡み旨みを増大させている。
他にも用意された料理を食べながら、ダンジョン攻略について話す。
「翔吾よ、ダンジョンには契約を済ませてから行くほうが良いのではないか?」
「小僧もある程度成長しておる。そろそろ可能だろう」
ビールと似た様な酒、ボアを片手にこちらを向くガンテツ。名前の由来は泡がぼああってなってるからだそうだ。マリアも詳しくは知らないみたいだけど。
それにしても契約か……確かに、そろそろ頃合いかもな。
早速、明日に契約を済ませる事にした。今は食事に集中だ!
「おいチビ! どっちが多くボアを飲めるか競おうぜ!」
「酒って何歳からだ? 俺まだ十九だぞ」
「十七からだぁ。もう飲めんじゃねかぁ!」
木製のジョッキを俺に差し出し、豪快に笑う。この世界では十七で成人の様だ。新たな知識を得た。




