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十六歩目 茶会

「な……お、お、おん……な? 嘘だ……ろ?」

「お前……ほんと失礼だぞ?」

「ふふっ、仲がいいね。ハンツ君、いい仲間が出来たようで嬉しいよ。盗賊をしている時や、元勇者達と共にいる君はどこか退屈そうだったからね」


 シルヴァさんは、たじろぐボスゴリと俺のやり取りを、まるで聖母の如く暖かな表情で見ながら黒色のソファーに腰掛けた。俺たちも座るように促される。ソファーの前に設置されたテーブルには、湯気が立ち上る淹れたての紅茶に、バターが程よく薫るクッキーが人数分用意されていた。


 このクッキーはシルヴァさんの手作りで、紅茶は自ら厳選したこだわりの一杯だそうだ。

 ティーブレイクにおいては妥協しないのがシルヴァ流らしい。俺も何か一つ、こだわりを見つけようかな。

 シズクとリル、ガンテツまでもが美味しそうにクッキーを堪能しているし、シルヴァさんにお菓子作り教えてもらいたいな。いつも世話になってるから恩返しがしたい。スイーツはプリンしか作れないし、レパートリーを増やしたい。


「俺の事知ってんのか? 俺はお前の事知らねぇのによぉ」

「君は街の人に恐れられていたからね、私たちの方で警戒させてもらっていたんだよ。悪名が広がらない様にもね」


 ティーブレイクでほのぼのとした空気感の中、一方的に存在を知られているからか困惑するボスゴリに、淡々と言うシルヴァさん。あいつ、警戒される程に極悪だったのか。

 シルヴァさんの言葉を聞き、ボスゴリはバツが悪そうに俯く。そして、ぼそっと言葉を放つ。


「迷惑かけたな……」

「気にしなくていいさ、君が盗賊になった経緯を知って惜しい人材だと思ってね。これからの活躍、期待してるよ」


 器の大きさを見せつけるシルヴァさんは、さらに続けて言う。


「ハンツ君、冒険者登録は私の方で処理しておく。彼女達はまだ君の本質を理解出来ていない様だからね」

「助かるぜぇ。登録拒否された時は流石に焦った」

「拒否される事とかあるんだな……ボスゴリ不憫だぜ」


 極悪人を冒険者にしたらギルドの信頼とかも落ちそうだし、正しい判断だろうな。不憫すぎるけど。

 それにしてもシルヴァさん、外見だけじゃなく、内面までイケメンなのか。勝ち目ねぇなぁ……。


 そんな風に考えていると、シルヴァさんが目線をこちらに移し話しかけて来る。


「翔吾君、君には感謝している。誰も近寄らなかった彼に、居場所を作ってくれて本当にありがとう。お仲間の皆さんも」

「シルヴァさんが礼を言う事じゃないよ、俺がこいつに惹かれて勝手に巻き込んだだけだから」


 俺の言葉に続く様にシズク達も笑顔で答える。それを見て、少し安堵した様な表情を見せるシルヴァさん。


「優しいんだね。君達の様な人で街が溢れ返れば、誰も傷付かない平和な街になるだろうね……」

「俺はただの気分屋で、筋金入りの根性無しだよ」


 どこか儚い様な雰囲気で放たれたシルヴァさんの言葉は、心から叶えたい望みの様に聞こえた。俺は正面から、優しいと褒められた事に照れて少し卑屈になってしまう。


「さて、本題に入ろうか。どういう経緯で勇者と戦う事になったかだけ教えてくれればいい」


 話題を変えるシルヴァさんにシズクが、勇者パーティーに入っていた過去を詳しく話し、絡まれて戦うしか無い状況になった事を丁寧に説明していく。

 ちなみに俺は語彙力が足りなくて伝えきれなかった。

 シズクが無理しなくていいよって言ってくれたけど、その優しさが少し辛くて泣きそう。情けないな、シズクに愛想を尽かされない様に努力しないと。

 話を聞き終えたシルヴァさんが、ソファーに深く座り上半身を前に傾かせ、呆れたような表情で口を開く。


「……そうか、そんな事が。最近の元勇者、シエルの行動は目に余る物があったが、まさかここまでとは」

「今あいつはどうしてるんだ?」

「勇者の資格を剥奪され、王城の地下牢に拘束されているよ。王が直々に判決を下したのが腑に落ちないんだけどね」


 普段、裏切り者や内通者、反逆罪などの罪人は騎士団が裁く。王が判決を下すのは珍しいらしく、シルヴァさんはそこに引っ掛かっているらしい。それにしても、本当に勇者の資格を剥奪されるとはな。あ、聖剣の件も言っとかないと。


「リル、神域開いて」

「うむ! 承知した!」


 神域を開くリルに近付き、神域に手を突っ込む。その先にはピンポイントで聖剣があり、どういう風にピントを調整しているんだろうと思いながらも、聖剣をゆっくりと出す。

 聖剣を見て、言葉を失うシルヴァさんに向け俺は言う。


「これ、勇者に返すかそっちで保管しといてくれないか? 拘束されている以上、返却は難しいだろうけど」

「確かに返却は難しい……と言うよりは、それを私達は持てない。なぜ君は持てるんだい? それに彼女は神域を開けるという事は神獣族……? 君は一体……」


 疑問を抱くシルヴァさん。


「さあな。俺にもよく分からないんだ、聖剣の事も、俺自身の事も。聖剣、何とかならないか?」

「そうか……何とかしたいんだけど、聖剣の扱いはシビアでね。あれが所有者を選ぶ前は騎士団達が管理していたんだ」


 シルヴァさんは、苦悩する表情を見せる。


「聖剣を持てる人間が現れたとなると、最終的な決定権は王にある。この件は一度預からせてくれないかい?」


 どうするべきかを決めかねるシルヴァさんは、判断を王に委ねる事を選択する。数日後に王城からの呼び出しがあるらしい。


 それにしても獣の姿じゃないのに、よく神獣族って分かったな。神域だけで分かるのか? ギルドマスターだけあって博識とかなんだろうな。


 聖剣はまだ俺の方で保管しておかないといけないらしく、神域に聖剣を戻していると、何かを思いついた様にシルヴァさんが言う。


「翔吾君、クエストを受けるつもりはないかい? いいクエストがあるんだけど、どうかな」

「いいクエストか。俺は受けたいと思ったけど、みんなどうする?」

「私は賛成! 行こうよ!」


 シルヴァさんの話に食いつく俺とシズク。それに釣られる様にボスゴリ達も賛同する。どんなクエストかは分からないけど、ギルマスが勧めるんだ。メリットがデカそうだ。


「シルヴァさん、受けさせてもらうよ! そのクエスト」

「ありがとう、よろしく頼むね」




 ――クエストに行くことが決まり、ギルドを去った俺たちはメリダさんの店でキッシュを頬張っている。


「まさか泊まりがけのクエストだったなんてね~」

「少し予想外だったけど、旅行みたいでワクワクするな」

「隣街なのにお泊まりって不思議だね! 初めて行くから楽しみだ~」


 俺たちが受けたクエストは、ラグロクの隣街ミーミルに発生した魔物の討伐。ラグロクの大きさ故に、隣街でも泊まりがけになってしまう。ミーミルは自然が豊からしいから、観光も出来ればいいな。なんて思ってる。


「二人の世界に浸るのは構わねぇが、飯冷めんぞぉ」

「お、おう……」

「そ、そだねっ! 冷める前に食べよ!」


 三人を置き去りにして話し込む俺とシズクに、ボスゴリが口を挟む。そしてリルとガンテツは温かい目でこちらを見ている。保護者かな?  

 ぱくぱくとキッシュを完食し、飯屋を後にした。マリアは忙しそうで喋れなかったな。また来よう。

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