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私だけの世界

作者: からくり

「お前の願いはなんだ? 1つだけ、たった1つだけ叶えてやろう」


ふとした調べもの。

ネットの世界なら正解があるだろうと思っていた。

結果として正解に目は引かれず、好奇心に心が引かれたのだが。


『悪魔の召喚方法』


バカバカしいと思った。

そんなのがあるはずがない。

存在が証明されているのは、神話の中か御伽噺、フィクションの世界だけだと。


だけど、だけども。

そんな馬鹿なことに大変魅力を感じてしまった。


結局のところ、召喚は成功。

目の前には悪魔と自称する何かがいる。


それはフワフワと浮いている。

それは御伽噺でよく聞く尻尾を生やしている。

それは背中から対になるコウモリの翼を生やしている。

それは耳が尖っている。

それは頭からフィクションの世界にある角を生やしている。


ようは存在証明してしまったわけだ。

そんな悪魔が、願いを叶えると言っている。


対価はなんだ、と聞いてみる。


「そんなものありゃあしない。呼び出されたからには願いを1つ叶える。ただそれだけだ」


そんな美味い話が転がっているわけが無い。

そこらに転がっているのであれば、今頃私は幸せな日々を過ごしていただろう。


あぁ、これは夢なのだ。

私はまだ夢を見ているのだ。

布団の中でスヤスヤと眠っているのだ。


なので、願いを叶えてもらうことにした。

どうせ夢なのだ。

目が覚めてしまえば、いつもの朝が来ているに違いない。


「お前の願い、聞き届けた。素晴らしい世界を楽しむといい」


悪魔はそう言って消えた。








が、一向に目が覚めない。

おかしい。

確かに私の願いは叶ったのだろう。

なにせ信号が動いていない。

同じ色をずっと示しているだけだ。

さっきまで点滅していたのに。


車も動いていない。

1台だけじゃあない。

全部だ。

今のところ目に見える全てが止まっている。


電車も運転の途中にピタッと止まってしまっている。

今にも動きそうだ。


人も止まってしまった。

試しに突っついてみたが、怒りだすどころかピクリともしない。

頬を突っついてみたが、凹みすらしなかった。


試しに飛び降りてみた。

夢ならこれで覚めるだろう。

だが夢は終わらない。

死ななかったからだ。

私の体は、確かに地面に到達した。

が、そこまでだ。

地面に穴が空くことはなく、ましてやひびすら入らない。

そこに人がいたとしても、直立不動のままだっただろう。


ふと思い、扉を触ってみた。

開くどころか、動きすらしなかった。


つまり、これは私以外の全てが止まってしまっているのではないだろうか。


確かに私は「私だけの世界が欲しい」と願った。

これは私だけの世界ではあるが何かが違う。






あの悪魔に願いを叶えてもらってから何日が経っただろう。

自問するが、帰ってくる答えはいつも同じ。

覚えていない。


なにせ書くことすらできないのだから。

地面に数字を書こうとしたが、そもそも小石すら動かないのだ。

どうしようもない。


いつの日だったか思い出したかのように心臓に手を当ててみた。

動いていなかった。


私は永久に「私だけが生きる私だけの世界」に取り残されてしまったのだ。

狂うことも許されないのだろう。

疲れ果てて死ぬことも許されないのだろう。


なにせ、世界を何周かするくらいには生きているのだから。

水に入っても濡れるどころか溺れることも無く、水の上を歩いていける。


疲れを知らず、空腹を覚えることも無く、狂うことも無く、ただただ生きている。

地球が終わることは無い。

なにせ時間が止まってしまっているから。

陽が昇ることもない。

月も出てこない。

星が瞬くこともない。








「「私だけの世界」を願ったのだ。ならば他の人間は邪魔だ。それ以前に時間が邪魔だ。なにせ「私だけの世界」なのだからな。そこな人間以外必要のない。だが、悪魔の叶える願いなのだ。対価が必要なくとも、叶えてくれる結果くらいは予想していて欲しいものだがね。我々は悪魔。人間の幸せを素直に叶えるわけがなかろうて。あの人間にはもう少し生きてもらおうか。いやいや、そう簡単には殺さないとも。そうそう私は趣味は長続きする方でね。最近新しい趣味ができたのだよ」


人間観察というのだがね?

ここまでお読みくださいまして、ありがとうございます。


時が止まるというのは、ファンタジーによくあるもの。

実際どうなんだ、と考えいたところ、ふと思いついたので書いてみました。

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