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方術士の一族  作者: 一陽智
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第1章 冬の祠と世界の真実

渡界の儀


「こんな結果になるとはな。」


 総領のドーチが、独り言のように呟くと、


「一人は予想通りとは言え・・・。」


 これは、トーチの父親である。


「過去に例はありましたか?」


「いや、儂が見て来た儀にも、残っておる記録にも載っておらん。」


「やはり・・・。」


「うむ、今までにないことが起こっているのは間違いないじゃろうな。ドーチよ・・。」


 立会い人の問いに対し、クラメ婆様は答えたのち、総領に向かい言葉を掛ける。


 声を掛けられた総領のドーチは、クラメ婆様に向き直り言葉を返す。


「何も心配していないと言えば、強がりかも知れませんが、ある意味必然なのでしょう。」


「そうじゃな、・・・・・10年前・・いやひょっとしてその前より、定められておったのかの。」


 クラメ婆様の、独り言ともとれる呟きを聞いた一同の内数名が、黙したまま目の前の、自らの飲み物の入った器を手に取り、口にする。



 暫しの間が過ぎた後、


「それにしても3人ですか。」


 口を開いたのは国の立会い人である。


 今ここ、総領の屋敷に、集っているのは総領・長老連と国の立会い人、それから選渡の儀により選ばれた3名とその親族である。


 大方の予想通りトーチは選ばれたのだが、あとの2名がササメとソーチであった為、皆の困惑を誘っている。


 元々、選渡の儀は今まで二人しか選ばれたことが無かったうえ、それぞれなんらかの術に優れているか、方力の大きな者が選ばれていた為、ササメは当落線上にいると思われていたが、ソーチは予想外であった故である。


 それならば何故、ソーチを儀式に参加させたのか。


 理由がある。


 過去に、能力が足らないと見て、少ない人数で儀式を行おうとした事があったらしいが、その時、陣が起動しなかったと記録に残っているそうだ。


 その時は急遽頭数を追加したことで事なきを得た、・・ということになっている。


 そういった理由もありクラメ婆様の最初の時には、すでに合計16名で儀式を行なうようになっていたらしい。


 ただ、ソーチについては皆頭数と考えていた為、ソーチが光の繭に包まれて天上より選ばれたのを見て、参加者や見ていた一族の者が、息を飲んだのもやむなしと言えよう。


 ソーチより方力・方術に長けたホーチ・スズメ、武術に優れたコーチ等を差し置いてであるのだから当然の事と言える。


 しかし、天井よりの指名が全てであるので、結局のところこの3名が渡ることが決定したのが現在の状況であり、準備の打ち合わせの為総領の屋敷に集まっているのである。



「そういうことで3人とも準備はしっかりな。」


と、声を掛ける総領に、選ばれた3名は黙したまま頷きを返す。


「それで準備ですが、いつもの物以外になにかお手伝い出来る事は?」


 10年前からこの地に駐在する国の立会い人の<行事 優司>がトーチに聞く。


 選ばれた3名では年長者はササメであるが、能力から言って隔絶した力を持つトーチを、国も今回のリーダーと認めたと表したいのであろう。


 あとの2名も普段の付き合いから、全く違和感なくトーチを見つめる。


 聞かれたトーチはさほど考える風も無く、行事に向き直り、


「護身用の装備については、僕らが訓練でいつも使っている物と同じ物を3人分お願いします。それから、戦闘用には一族の鎗も3セットお願いします。後は、此方で準備します。」


 と、答えたのち、今度はササメとソーチを見てからササメに視線を戻し、


「大丈夫だよな。ササメ。」


 唐突なトーチの呼び捨てに、(えっ)とびっくりした顔の者も、一同の中にいる中、ササメは真剣な相手の顔を見ながら、


(あぁ、やっぱりトーチらしい。何が有っても私達姉弟を守る覚悟があるんだ。ありがとうトーチ。でもね私達も頑張るからね。)


「任せてちょうだい。」


 そう答えたササメにトーチは更に言葉を繋ぐ。


「準備のリストは2人分だけど、ソーチの分も追加してな。」


「武器以外は大丈夫だけど、鎗3セットって、行事さん用意出来ます?」


「あぁ、そう言えば言われて思い出しました。いつも選ばれるのは2名と聞いて居りましたので、今回も2セットしかありません。一族の方は皆様ご存知の事でしょうが、特殊な武具なので、表示盤に示された【渡界の儀】までの3日では、ちょっと用意できそうもありません。すみません。護身用の方は大丈夫ですが。」



 今、話されているのは、一族の古来より伝わる特別な技法によって一族の地内でのみ作成される特殊な鎗の事であり、管理は国が行っていて、本来ならば選渡の儀によって選ばれた者に与えられた物と、代々総領に受け継がれる1セットしか存在しない。


「なるほど、・・と、すると・・儂が渡った時に使ったのをトーチに貸そう。」

これは、ドーチの言である。


 もちろん、ここに居並ぶ長老連もみな所有してはいるのであるが、ドーチが真っ先に口を開いて喋り始めた為、聴いている内総領に機先を制された形である。



 なお一族の鎗とは、特殊な構造でパーツ4本から構成されるのが、セットで呼ばれる所以ではあるがここでは詳しい説明は省くこととする。



 総領の言葉にトーチは間を置かずに答える。


「いや、それはソーチに使って貰おう。少しでも慣れている方がいいし調整なら明日一日で出来る。」


 その言葉にずっと黙って話を聴いていたササメが、


「賛成。」


 と一言、言った後続けて、


「じゃあ、武器・防具は明日ソーチはカーチさんに調整して貰いつつ準備、私達二人はそれぞれで準備ってことで、・・いい?・ソーチもいい?」


 と行事氏・トーチと頷くソーチを順に見ながら聴くササメ。


 それに返すように行事氏は、


「それで大丈夫です。護身用の方も10時までには揃えます。それと弾倉はどの位必要ですか。」


 と、話の終わりの方はトーチの方を向き問いかける。


 それに対し、準備の話は重要部分を超えたと判断して、


「うん、ササネェそれでいい。持ち込む食べ物については後で相談しよう。」


「行事さん、前回の事も踏まえてですが、普段僕らが訓練で使っている物の関係上、ササネェとソーチのシングルカラムも僕用のダブルカラムも、倍用意して貰えませんか?」


 それに対して行事氏は返す。


「あなた方にそんなに必要とは思いませんが、・・・あぁ・そういうことですか。分かりました。準備させます。」


 トーチの意図に気付いた行事氏が頷いたところでトーチに代わって総領が、


 「宜しく頼みます。」


 と声を出した後、一拍置きさらに続ける。


「今回の儀は儀場の片付けに手間取った事もあって、夕餉に頃合いの時間になったのでな、立ち会いの方々も食べて行かれんかの?」


 そう声を掛けられた三人の立会い人の中の先任である行事氏が口を開く。


「有り難う御座います、総領。」


 返事を返しつつ首を少し左側に向け、斜め後ろの二人の若い立会い人を見たのち総領の方へ向き直り、


 「この二人は独り身で、私の妻は一族の者ですし、今日も此方で手伝わせて居りますのでご相伴に預からせて頂きます。」


 その答えを聴くと、総領は横に控える者に厨に伝えるよう指示を出し食事の準備が整うまで、集う者達と世間話をするのだった。


 なお、ササメは先程のやり取りの最後の行事氏の言葉が始まると同時に厨へと行ったみたいだ。

本話も最後までお読みいただき有り難うございます。

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