貴方は、だぁれ?
「「「乾っ杯!!」」」
「いやっほー、タクの奢りだぁー!」
「奢らねぇよ!?」
「少しは落ち着けよ、隣の人に迷惑だぞ。」
アパートの一室で俺達三人、男ばかりで酒を片手にグイグイ飲み干す。今日は偶々気分だった、そのペースに一切の遠慮は無い。まぁ、俺もだが。
「永津ぅー、お前なんか面白い事しろよー。」
「無茶苦茶言うな。てか、タクが潰れそう。」
「死ぬなぁー!タクぅー!」
「頭痛いから。マジで痛いから叫ばんで...。」
三者三様の酔い方で、その場は多いに盛り上がっていた。俺の場合気が大きくなるとか。知らね。
「あっ、ヤバい。吐きそう...。」
「タク、お前弱いんだから無理すんなよ...。」
「酒くらいパーっと飲ませオロロロロロロロ。」
「どわっ!汚ぇ!」
「はぁ~。管理人にバレる前に片付けるぞ。」
「タクを?」
「ゲロを。」
俺はアホを抜かすバカの頭をしばき倒し。水と布、後ビニールの袋と手袋だな、を貰いに行く。...今更だが貰いに来た時点でバレるな。俺も大概バカだ。
廊下を歩き、部屋に戻る。途中、外階段にデカイ窓があったからかな、外の空気を吸うのも良いと思った。部屋に戻ればバカ騒ぎの続きが行われている。
「おい、持ってきたぞ。拭くの手伝え。」
「りょ、了解。その前に水...。」
「ほらよ、タク。...おいこら逃げんな、お前も手伝え。」
「俺貰いゲロするタイプ!」
速攻で逃げやがるバカに、外で深呼吸でもしてろ!、と叫ぶ。
ある程度落ち着いたタクと始末する。...ゲロをだ、あのバカではないぞ。
「そうだ、今度の休みが合ったときさ、皆で」
ゲロを片付けた俺達が話していると、バチンと大きな音がして電気が落ちる。真っ暗な空間にタクが肩を跳ねさせた。
「...今ので驚きすらしねぇって、酔ったお前危機感とか置いてきたんじゃねぇの?」
「そうか?...そうかも。」
ビビりよりは良いと考えよう。そんな不毛な考えを真面目に議論し始めた俺達に、唐突な扉がぶち当たる。
「いってぇ!?」
「俺、帰還成り!クトゥルフしようぜ!」
「いきなりどうしたよ。タクを倒しといて。」
「俺シノビガミの方が好きだな。」
「お前復活速いな。」
「そんなことよりお前ら。聞いて驚け、俺はSAN値が削れる体験をした...神話技能よこせ。」
自信満々な顔は腹がたった。取り敢えず殴っておく。
「で、何があったよ。」
「痛ぇ...。そうだな、どこから話そう。」
「復活早ぇw」
「ここの廊下さ、外の階段にデカイ窓があってさ。」
「あったな、それが?」
「あったっけ?言われたらそんな気もするけどさ...。」
タクは此処に来たのは初めてだし、しょうがないな。...このバカの引っ越し先だから俺も初めてだけど。
ただし、引っ越し代半分援助したんだから焼き肉奢れ、といった約束は叶えられていない。
「そんでよぉ、いきなり暗くなって驚いたんだ...。戻ろうと思ったらさ...。」
「な、なんだよ。」
「ゴキでもいたか?」
「はいそこ、シリアスと三回唱えろ。」
シリアルと三回言ったら、よろしい、とバカは言う。...いや、良いのか。というかお前はクトゥルフ推しだったろ。
「まぁ、とにかく。俺は戻ろうとしたんだ。一階から三階のこの部屋にな。」
「あぁ、お前外に行ってたの。やけに遅いと思ったぜ。」
「そうそう、んでさ、外の階段上ってたんだよ。そしたら二階から三階に行く途中の窓から人が見えたんだよ。」
窓は階段の折り返し地点にある。そこから人...人?おいおい待てよ、その位置は...。
「そいつはな、ゆっくりと昇る俺に近づいてきた。窓を挟んで反対側で...だ。」
「うへぇ不審者かよ。」
「......。」
ゆっくりと語り部は続ける。きっとタクが理解するまでやるのだろう。...コイツ性格悪いな。だからモテないんだろ、住処の所為じゃないぞ。隣で人食い事件とか関係無いぞ、多分。
「永津は気付いたか。良いか、タク。SAN値が削れるんだぜ?不審者じゃないさ。」
「...あっ、ソコって。」
「そうだ、二階だ。外階段だ。」
確かにゾッとするな。だが、コイツがニヤついてるから種明かしがあるな。こういう顔は大抵悪巧みだ、学校の事務員時代から変わらない。
「...待てよ、昇るお前に近づいてきた?」
「あぁ、そういう。」
「永津ぅ!タクが勘良いぞ!」
「知らね。」
タクと俺は顔を見合わせた後、アホに向き直っていう。
「「そこだけ鏡だろ。」」
アホ話と一緒に、停電は終わりを告げた。
「チェッ、折角盛り上げてやろうとしたのにさ。」
俺が愚痴ると二人が溜め息をはく。
「知るかアホ。それならマシな話をしろ。」
「扉で殴られ損だ、キャラシート書けや、GM俺だから。」
コイツ、シノビガミの方のシナリオを...。くそっ、シナリオ崩壊させてやる。
からからとダイスが転がる音が響く中、TRPGを中断して話す。別に秘密が詰んだからでは無いぞ、気になったからだ。
「そういや永津。お前最初から答え知ってたろ。」
「プライズ持ってるのは実力だぞ、このシナリオ知らない。」
「そっちじゃねぇよ、俺の怪談だ。」
「管理人の階段だろうが。」
ちっ、はぐらかしやかって。コイツも外階段で戻ってきた癖にさぁ。
解説、つまりネタバレだ。
永津も外階段を通りました。つまり鏡の前を。
普通一目で気付くよね、窓では無いって。明らかに何かが映って無いんです...永津君が。