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ワンコイン・ラブ  作者: 白妙スイ
10/16

10章:親友×恋人

「お久しぶり、戸渡くん」

「お久しぶりです。鈴木先輩」

久しぶりに会った、共通の知人。待ち合わせをしていたイタリアンの店に遅れて入ってきた志月は『鈴木先輩』に頭を下げた。亜紗はそんな彼と幸希の前で「懐かしいね」とにこにこしている。

亜紗は、幸希にとっては友人。

志月にとっては先輩。ただし、それなりに遠い関係だ。

数日前に「今度亜紗と会うんだ」という話をしたところ、「へぇ、懐かしいですね」と志月は言った。

「鈴木先輩、ですよね?茶道部の部長だった」

「そうだよ。よく覚えてるね」

「部長さんでしたから、お世話になりましたよ」

当たり前のように志月は言ったけれど、やっぱり幸希と同じくらいの期間しか関わった時間はないだろうにすごいことだと思う。

そこで亜紗に言われていたことを思い出す。「戸渡くんと付き合うことになったんだって?今度、私にも会わせてよ」と。

幸希にも問題はなかったので「いいよ」と軽く約束をした。

「志月くんもどう?一緒に」

数日前の幸希の誘いに、志月は目をまたたかせた。

それはそうだろう、幸希は「亜紗と会う」としか言わなかったのだ。

「え、いいんですか?」

「亜紗が紹介……っていうのもヘンか、一応知り合いだし。会いたいって」

「そうですか……では、なんだか女子会にお邪魔するようで悪いですが、お邪魔しましょうか」

そのような経緯で、三人で会うことになったわけだ。

日曜日だった。幸希と亜紗は普通に休日なので、昼間から会ってショッピングなどしてきた。

志月はやはり当たり前のように仕事があった。なので仕事上がりの夜に、三人で軽くディナーでもという話になったのだ。

日曜日なのは、志月への気遣いだ。翌日の月曜日が休みだというので。日曜日が休みの幸希と亜紗の予定に合わせてもらったので、そこは気を遣わせてもらうことにした。

「戸渡くん、なににする?」

仕事後だからか、志月はスーツ姿だった。クールビズをやっているそうで、上は半袖のシャツだけだったが。それでもきちんとした格好だ。

「そうですねぇ……」

「私と幸希は、もう前菜いただいちゃったけどごめんね」

「かまわないですよ。むしろ遅くなってすみません」

話しながら志月はメニューを見ていった。チェーン店などではないので、メニュー表も凝っている。

幸希と亜紗の前にはシャンパンのグラスがあった。志月を待つ間、一時間ほどあったのでサラダや軽いつまみをいただきながら一杯先にやらせてもらっていたのだ。

なににしようかメニューをめくって見ている志月を見ながら、亜紗はゆったりシャンパンを傾けている。

亜紗は高校時代、部の部長を勤めていただけあって積極的な性格だ。

そう、交際前に戸渡くんと再会して、という話をしたときすぐに「付き合っちゃいなよ」と言ったくらいには。

なので10年ぶりに再会した志月に対してもなにも臆する様子を見せずに、すぐに普通に話し出した。それは高校時代のときのような、でもちゃんと大人になったやりとりのような、不思議な喋り方だった。

メニューも決まって、すぐに志月の選んだワインも来た。濃い口の赤ワインだ。濃紫がうつくしい。

「じゃ……幸希と戸渡くんの交際にかんぱーい!」

亜紗がグラスを掲げて、チン、と音を立てて3つのグラスが触れ合った。

なんだか恥ずかしかったけれど。

交際を祝われるのは。

でも嬉しい。仲の良い亜紗に祝ってもらえて。

「今日はショッピングに行ってきたんですよね」

ワインをひとくち飲んでから志月が言った。

「うん。久しぶりだから色々見ちゃった。セールもやってたし」

嬉しさからか、はじめは亜紗の前で志月と話すことにちょっと緊張を覚えていたけれど、すぐにいつもどおりに話せるようになったのは。

「買い物にはちょうどいい季節ですよね。まだ夏ものも着ますしね」

言った志月に、亜紗がにやにやとしながら言った。

「幸希、新しいワンピース買ったんだよ。戸渡くんに見せたいって」

「ちょっと、亜紗!」

幸希は、あわあわと言った。

どうやら亜紗はちょっと酔っているようだ。シャンパンももう二杯目なので仕方がないかもしれないが。

「あ、ごめん。サプライズのほうがよかったよね」

「そうじゃなくて!」

幸希と亜紗のやりとりを見て、むしろ志月のほうが苦笑する。

「聞き出したみたいになっちゃいましたね。ごめんなさい」

「や、そんなことは、ないけど」

幸希はちょっと戸惑いながら言う。

確かにデートで初めて着て、「いいですね」とか「似合ってますよ」とか言われたかった、とは思っていたので。

最近買ったことはわからなくても、志月なら服を褒めてくれると信じていたので。

もう、亜紗ったら。

亜紗のことをちょっぴり恨んだ。この楽しさの中ではシャンパン一滴くらいではあったけれど。

「鈴木先輩と幸希さんは、本当に仲がいいですね。高校時代からそうでしたよね」

やりとりを見ながら志月も楽しそうに言ってくれた。運ばれてきたパスタをフォークで巻き取りながら。

「あれ、よく見てたね。確かにそうだったけど」

亜紗も自分のドリアにスプーンを入れながら答えたけれど、なんだか不思議そうだった。

やはり、同じ部活だったとはいえそれほど長い時間を一緒に過ごしたわけではないのに、把握されているのはちょっと不思議だろう。それにはちゃんと理由があるのだけど。

そして志月はするっと言ってのけた。

「それはそうですよ。だって、僕は幸希さんばかり見ていましたからね」

「え、ちょっと、戸渡くん、それって」

「はい、高校時代も幸希さんのことが好きでした」

ああ、やっぱり。

幸希の顔が熱くなる。

実際に面と向かって言われているので知ってはいたけれど、亜紗という共通の知人に話されるのはやっぱりちょっと恥ずかしい。

「へーえ、そうだったんだ」

亜紗は当然のように、にやにやと笑った。

これ以上放置すれば、亜紗から余計なことを言われかねない。幸希は慌ててストップをかける。

「ちょっと志月くんも!二人してそういうことばっかり言わないで!」

「あはは、照れてる」

それでも亜紗には流された。こういう性格なのだ。

でもこの話はここでおしまいにしてくれた。そのくらいには空気を読んでくれるのだ。

「もうデートとかしたの?」

こっちはこっちで恥ずかしいけれど。

幸希は亜紗ほど積極的な性格ではないので、言葉少なになってしまいながらパスタを口に運んだ。チーズをたっぷり使っているパスタは濃厚でおいしい。初めてくるところだったけれど、いいお店に当たったな、と思う。

「はい。まだ何回かですけど」

「そうなんだ。どこに行ったの?」

デートや交際について亜紗に色々聞きだされた頃には、パスタなどのメインの料理もなくなって、デザートがきた。

デザートはシャーベットだった。季節のシャーベットはオレンジ。わずかに酸味があって、濃厚なパスタを食べたあとの口の中をさっぱりさせてくれる。

「幸希さん、って呼び方いいね。戸渡くんらしい」

シャーベットを食べながら亜紗が、ふと言った。

会話の中で志月がずっと「幸希さん」と呼んでいたからだろう。

「はい。なんとなくこれがしっくりきて」

「彼氏になったんだからてっきり呼び捨てかと思ったけれど」

確かにそういう話をはじめてのデート、花火大会で名字呼びから一歩進むときに言われた。

「幸希さんもそれでいいって言ってくれたんですけどね、やっぱりこっちのほうがいいなって」

そしてそのとおりのことを志月も言った。

「逆に幸希からは『志月くん』なんだね」

「私もかな……なんかしっくり……」

「あはは、同じだ」

一度笑ったものの、亜紗は優しく言ってくれた。

「でも、呼びやすいのがいいよね」

そう言ってもらえると嬉しい。幸希の顔に笑みが浮かぶ。

自分たちの関係を肯定してもらえた気がして。

「よーし!もう一軒行こう!」

食事がすべて済んで店を出て。

亜紗は勢いよく言った。

『もう一軒』とは勿論飲みに行こうという意味だろう。バーかどこかへ。

「ちょっと亜紗、私たちは明日仕事なんだけど?」

幸希の言葉は一蹴された。

「えー?大丈夫だよぅ。まだ10時にもなってないし、一時間くらい。ねっ?」

確かにまだ少し時間は早いけれど。

でも日曜の夜なのだ。明日は当たり前のようにいつもの時間に起きなければいけないし、早く帰っても別に普通だ。というか、それが翌日ラクだ。

「先輩たちが良いなら僕はかまいませんけど、大丈夫ですか?」

志月はそう言った。確かに志月は明日休みなのだから、少し遅くまで付き合ってくれたところであまり支障はないだろう。

「じゃ、行こ!まだ色々聞きたいしさ」

幸希の言葉はスルーされて、もう一軒ということになってしまう。

仕方ないか。

幸希も苦笑した。

この強引さが亜紗らしいし、嫌いでない。むしろ高校時代……今よりもっと引っ込み思案だった頃は、この行動力にずいぶん助けられたものだ。

「あんまり変なこと聞かないでよ?」

「へー、どんなことかなぁ?」

にやにやと言う亜紗が二人を連れて行ってくれたのは、たまに行くのだというバーだった。

どちらかというと静かなお店で、幸希もくつろぐことができて。

酒の力も手伝ってか、するりと志月とのことを話すことができた。そして亜紗も、ここまでの強引さが嘘のように、優しくその話を聞いてくれたのだった。

結局日付が変わるくらいまで飲んでしまって、そして家まで志月が送ってくれた。飲んだのでタクシーだったが。

「ごめんねぇ、戸渡くん。私まで乗せてもらって」

亜紗はずいぶん酔ったようで、口調がふにゃっとしている。

タクシーはまず亜紗の家を目指していた。

「なに言ってるんですか。当たり前ですよ。鈴木先輩だけ一人で帰すなんてしません」

タクシーを呼んでくれたのは志月だった。自分は助手席に座って、幸希と亜紗を後部座席へ乗せてくれた。

「だってさぁ。幸希、良かったね。優しい彼氏ができて」

亜紗が言ってくれる声があまりに優しかったので。

幸希もそのまま肯定していた。

「……うん」

志月はちょっと驚いたような空気が伝わってきたが、すぐに、ふっと嬉しそうな声が返ってくる。

「……ありがとうございます、幸希さん」

「んふふ。お幸せにぃ」

「ちょっと、亜紗」

亜紗は心底嬉しそうに言って。

隣に座る幸希の腕に腕を絡めてくれた。

この優しい親友がいてくれたことを、幸希は心から感謝した。

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