3話 初回限定スキルガチャ!
俺の両親は北海道に住んでいる。兄弟はいない。
今年の春に大学進学のため上京したのだ。
昔から一人暮らしに憧れて、大学も東京にあるものを選んだ。でも始めてから如何に親の存在が偉大だったのかが分かった。今からでも実家に帰りたい。
もうしばらく会ってないな。お盆には帰るつもりだったけど、それよりも前にこんなことになっちゃったし。
だから、死んでもらっては困る。
いや、死んじゃダメ! 母さんも父さんも大好き!
頼むから出てくれ!
プルルルルルルルルルルルル――
よかった! 繋がった!
「もしも――」
『ソータ! ソータなの!?』
おお、すごい勢いだ。
それもそうだよな、心配しないわけがない。
「かあさ――」
『無事なの? 今どこにいるの? ケガしてない?』
「あ、うん。俺は大丈夫。まだ東京にいるよ」
母さんはとりあえず元気そうだな。
『はぁ、よかったぁ。あなた、ソータ無事だって!』
電話の奥から父さんの声が聞こえてくる。
よかった。父さんも無事みたいだ。
「母さんたちは無事? 隕石とかその……モンスターとか」
なんだかモンスターって真面目に言いづらいな。
本当にいるとは言っても、俺まだ見たことないし。
「今は大丈夫よ。私たち今体育館に避難してるの。だからしんぱ――」
え、切れた?
「ちょ、母さん? どうしたの母さん! もしもし? 母さん!」
まさか向こうで何かあったのか!?
大変だ。早く母さんたちのところへ行かないと! って言ってもどうせ電車も飛行機も動いてないだろうし、どうする……
「……なんだよ、それ」
本気で頭を抱えつつスマホの画面を見ると、そこには『時間切れ』と文字が映し出されていた。
あー、焦ったー。本気で焦った。
なんだよ時間切れって、最初に言ってくれよ。
つまり向こうで何かあったってわけじゃないんだよな。
なら、母さんたちは安全に避難したってことでいいんだよな?
「はぁ……なら、俺のほうが危険な状況だよなぁ」
こんなことになったというのに、俺は未だにベッドに腰を下ろしてスマホに向き合ってる。
まあ、外を見た感じモンスターはいないし、幸い俺の部屋は無事だ。
マンションで言えば半分なくなってるけど。
何も知らないで外に出るよりはマシだろって考えなわけで。
「さっさとやることやんねーとだな」
俺は落ち着いて次の『まずは何をすればいいの?』を開く。
『まずは何をすればいいの? まずはモンスターを倒してレベルを上げよう!』
ん? それだけか。
そんなこと言われなくてもそうするだろうに。
ああでも、俺は異世界脳だからそういう考えに至るけど、普通の人からしたら戦おうなんて思うわけないか。
俺だって実際にモンスターを目の前にしたら戦えるかどうかわからない。
と、どうやら確認するだけの項目は全て目を通したみたいだ。
残るのは『初回限定スキルガチャ』と『運命の職業ガチャ』と『リタイアチケット』の三つだ。
職業ガチャは最後にしたいよな。俺は楽しみは後に取っておく派だ。
なら、まずはこれからだ。
リタイアと言っても開いただけで発動することはあるまい。
『リタイアチケット』の項目に触れる。
『このチケットは一度だけ利用可能です。本当にリタイアしますか?』
なにそれ。リタイアしたらどうなんのよ。
そこ重要よ?
むしろそれがわからないと、リタイアしたくても怖くてできないよ。
まさか、何事もなくリタイアなんてできないだろうし、最悪死ぬだろ。
いや、死ぬな。絶対。
ここは慎重に答えよう。
「NO! いいえ!」
『キャンセルしました』
このチケットはもう使うことないだろうな。
さあ、ようやく来ましたよ。お楽しみの『初回限定スキルガチャ』と『運命の職業ガチャ』。
あ~楽しみだな。
どんなスキルがいいかな。どんな職業がいいかな。
『創造』もなかなかいいスキルだけど、やっぱりばちこり戦闘向けのスキルがいいよな!
職業はやっぱり勇者? 勇者やっちゃいます? あーでもなー盗賊とかもかっこよくていいよな~
おら、わくわくすっぞ!
よし、まずは『初回限定スキルガチャ』からだ。
震える指でその項目に触れる。
『初回限定スキルガチャ! 旅立つ前に強力なスキルを手に入れよう!』
「おう!」
『この初回限定スキルガチャは一度だけ回すことができます。ガチャを回しますか?』
「回す回す! 頼む! なんでもいいから強力なのこい!」
目を閉じて、両手で祈りを捧げる。
お願いします! 小説家の変な神様っ! どうか、どうか俺に強力なアタリスキルを! どうかっ。
出た? いいの出た?
ゆっくりと目を開いて、画面を見て――泣いた。
そこに書かれていたスキルは……
『アタリ! 盗聴阻害Lv3!』
おぉーん。
なんということでしょう。
いやまあ、きっと使えるときは使えるだろうさ。むしろ活躍する場面もあるかもしれない。
でもなぁ……そうじゃないんだよなぁ。
なんでだろ。変な神様なんて思っちゃったからかな。
《スキルディテイル》
【盗聴阻害】希少性・2 汎用性・0
会話中、一定距離の盗聴を防ぐ。
レベルボーナス Lv3
会話人数・2人 盗聴防止距離・8メートル
ラックボーナス
なし。