神に呪われた娘
4000字程度の短編小説です。連載で分けようかと思いましたが一気に書いたのでそのまま投稿しようと思います。
あの日、私が死んでからどれくらい過ぎたのだろうか。
車が歩道に突っ込んできて、私は死んだらしい。目が覚めると神と名乗る光が問いかけてきた。
「そなたはまだ死ぬべき人間ではなかった。こちらの不手際であるから次の世界に行く前に一つ願いを聞き入れよう。」
受け入れられない現実につぶやいてしまった。
「……死んだ…死にたくなかった……。」
「よかろう。その願い聞き届けた。」
「まぶしっ」
気づいたらそこは知らない世界だった。初めは赤子だったので、母らしき金髪の女性をみたときは外人にでも生まれ変わったのかと思っていた。しかし成長していくごとに気づいていった。現代世界とは思えない世界に、亜人とみられる人々、魔物や魔法の存在。
異世界転生しちゃったのかぁ。
のんきにそんなことを考えながら日々平和に過ごし、親の決めた相手と結婚し幸せに過ごしていたはずだった。
「ボルドの奥さんは全然年をとらないねぇ。何か若さの秘訣でもあるのかい?」
「いやだなぁお世辞を言っても何も出ませんよう。強いて言うなら元気に働いてることですかね。」
「ハハハッそうかいそうかいそりゃいいことを聞いたね。またね。」
初めはちょっと若いだけだった。元々かなりの美人と言われていたのもあり、老けない姿に羨ましがられていた。私も嬉しかったし、深刻に考えていなかった。
でもだんだん気づいてしまった。私は年をとっていないことに。
そんなある日、私は思い出してしまった。生まれるその前の記憶、何度か見た夢での会話。死にたくなかったというつぶやきを願いとして聞き入れた神の存在を。
もしかして私は不老不死なのではないだろうか…。
意を決して刃物を心臓に突き立てた…でもすぐによみがえった。化け物だ。自分でそう思ってしまった。このままではきっと気味悪がられてしまう。そんな風には見られたくない。
なんて呪いをと神を恨んだ。うら若き乙女の姿で私の時を止めたのは赤子では何もできないからなのだろう。そんな気遣いをするならこの呪いを解いてほしいと切に願った。
私はその足で幸せだった生活を捨て、村を出た。
不老不死は聞こえはいいかもしれない。願うものも多いかもしれない。でもそんなのはまやかしだ。死ねないということは死にゆく人々を見続けなければいけないということ。人と違う時間を生きるために彼らとは別のものとして見られてしまうということ。そう、私は人の姿をした異物…化け物だということ。
この呪いに早く気づいてよかった。化け物だと思われる前に自分から姿を消せばいいんだ。
その日から私は旅をすることにした。ある程度村に居座ったらまた別の村へいく。そうやって気づかれないように過ごしていった。たまに何十年後に再び出会ってしまったときは娘ということにして過ごした。だから名前も次々に替えた。
もう何百年とたっただろう。いろんなことがあった。
あるときは領主につかまり妾にしてやると屋敷にとらわれてしまった。何度も犯されても自害しようとしてもできなかった。老いない私を領主は不気味に思い毒を盛った。私は苦しみ倒れ、再び起き上がった。領主は化け物と言いい、私を国に魔女だと突き出した。
魔法があるこの世界でも魔女は非難されているのだと初めて知り驚いた。人間はどこでも異物を嫌うものなんだなと。
国の裁きは毒を盛り、森で火にかけ放置することだった。私は一度灰になり、死を見張っていた騎士が帰って行った後に灰の中からよみがえった。
あるときは恋に落ちた。永遠の愛を誓い、私の姿が変わらぬことを打ち明けた。老いてゆく彼をみながらも愛していたからずっとそばにいたいと思った。しかしあるとき彼は言った。不気味だから出て行ってくれこの化け物と。
それでも私は何度も私は同じ過ちを繰り返した。愛さないと決めても百年を過ぎると人が恋しくなる。一人で生きていけない自分が憎かった。いずれ別れがくると知りながらも誰かの傍にいたかった。
あるときに私の血をなめた動物が長く生きた。数百年ともに生き、同じく死なない仲間ができたと嬉しかった。私の血をなめるたびに若返り、再生することに気づいた。
私の血を与えればみんなが死なないで済む?ずっと一緒にいられる?
期待した私は愛した彼に打ち明けた。私の血を飲んでほしいと。すると私は国につかまった。国王は私を切り付け私の血をなめた。多くの貴族が私の血を欲した。私の血をなめた国王は長く生き、傲慢さから誰にも血を与えなかった。そして一人となり狂人へと化した。悪い噂は広がらず、不老不死になれるという噂は広がり私の血を求めて周辺諸国は戦争へと発展した。
私は人間の欲深さを知っているつもりで忘れていた。私は人間の国から逃亡した。
人間は嫌だ。動物たちと暮らしている方が何倍もいい。離れがたいからたまに血を与え、動物たちが狂うとかわいそうだからずっと縛ることはしなかった。少し寿命の延びた動物たちを緩やかに見送りながら生活をつづけた。
そんな私に何十年ぶりかに話しかけるものがいた。
「そなたが不死の女神か。」
「…女神?そんな素晴らしいものではないわ。私は不死に呪われたただの女よ。」
そう、これは呪い。せわしない神が願いをかなえると言って私に与えた呪い。
「ククッそうかただの女か。ではただの女、そなた名は何という。」
そこで初めて私は問いかけてきたものを見上げた。黒い髪に黒い瞳。懐かしい姿に少し心が浮足立ったのを感じた。あぁこの人に教えるなら、やっぱりあの名前かしら。
「もう何度も名を変えたけれど、そうね、愛よ。最も初めの私の名前。皆に愛されるようにとつけてもらったわ。でも呪われた私はもう誰も愛してはくれないけれどね。皮肉だわ。」
少し自嘲気味に伝えた。前世を含めた私の始まりの名前。あの懐かしい風貌のせいで思い出しちゃったじゃない。
「愛か、やっぱりそうか。やっと見つけたぞ。」
すると彼は私をぎゅっと抱きしめてきた。
「ちょっと何するの!!」
何を考えているんだこの男は。急に来て名前聞いて抱きしめてくるとかどんな奴なんだ。
いやもしかして、さっきの言葉に同情したからか?
「愛…やっと見つけた。俺は君を見つけるために来たんだ。やっと見つけた俺の愛する人。」
あぁやっぱり同情なのね。それとも不死の力が欲しいのかしら。
「同情で私を愛そうなんて思わないでよね。それとも不死の力がお望み?やめておいた方がいいわ、私ぐらいじゃないと狂ってしまうもの。それに簡単に愛を口にするものじゃないわ。今までも愛すと言いながら誰も本当に愛してなんかくれなかったわ。初めの夫は探しにも来なかった。永遠の愛を誓った相手は永遠の愛よりも目の前の金に飛びついた。みんなが私を気味悪がるのよ。どうせあなたもそうだわ。」
男は冷めた視線を向ける私に柔らかく微笑んできた。
どこか懐かしいような笑顔に私は目を奪われてしまった。
「俺をそこらの男と一緒にしないでくれ。それに君は本当に彼らを愛していたの?」
惚けていた私に男は急に問いかけてきた。
「もちろん愛していたわ。だって彼らはあたしに愛をささやいてくれたもの。」
「それは愛していたといえるの?愛をささやいてくれたら君が彼らを愛したことになるの?君は愛を彼らに返していた?本当に心から彼らを愛していた?」
そんなの決まっているじゃない。私だってわかってる。でも…
「そんなのできるわけないじゃない…私は化け物なのよ。どうせいなくなるのに心から愛してしまったら私は心を保てない。それに私が愛しているのはずっとただ一人よ。」
そう、私が望んでいたのはたった一人だ。ずっと心の奥に閉じ込めていた想い。
かつての私が愛していた人。
「神宮はじめ」
彼がそうつぶやいた。
なぜ知っているの?ここにきてからたったの一度も口に出していないというのに。私の愛した人の名をなぜあなたが知っているの?
眼を見開いた私をみながら彼は嬉しそうに微笑んだ。
やはりこの笑顔は懐かしい。こんな風に笑う人を私は知っている。
「は…じめ?はじめなの?」
「そうだよ、愛。君の望みをかなえるためにずっと君を探していた。君はずっと願っていただろう。本当の願いを。まぁ俺の願いでもあったけどな。」
私の願い。あの時本当に願っていたこと。
何度も何度も神に問いかけた。神よなぜあなたは私に呪いをかけたの?私の願いは死にたくないなんてものじゃないわ。ただ…
“愛していた人に会いたい。”
「この世界とかつての世界は時間軸が違うみたいなんだ。俺が死んだときにはここはもう何百年とたってしまっていた。それに君は戦乱の中姿を隠したから見つけるのに苦労したよ。そのために神は俺を魔王にしたのかな。」
何も言えずにいた私に彼は微笑みながら話してくれた。彼の口から次々と語られていることに私は衝撃を受けていた。ずっと私は死にたくなかったという望みのせいで不老不死になっていると思っていた。でもそれは違って、本当の願い、彼に会いたいという願いのために、何百年と生きることのできる身体にしていたと知った。
あぁ神は私の願いをかなえてくれていたのね。
「愛。僕に君の呪いを分けてくれるかい?」
彼は変わらない笑顔でそう問いかけてきた。
「えぇもちろんよ。みつけてくれてありがとう。愛してるわ、はじめ。」
彼は私の首にかみついた。
魔王と言っていたけど吸血鬼の魔王だったのね。私が自傷行為をしないで済むようにって心遣いかしら。
…ほんとに何から何まで至れり尽くせりね。
ありがとう神様。私に呪いを与えてくれて。
お読みいただきありがとうございました。