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幻獣島旅行記  作者: 増村有紀
第10部 冷たい砂漠
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第1章 砂漠の鬼

第10部 冷たい砂漠

挿絵(By みてみん)


 大山脈を越えると、そこは言葉も通じない、完全に別の国。

 寒冷気候が偶然にも作り出した砂漠、通称「冷たい砂漠」が広がっている。


 冷たい砂漠には、かつて、フィルリス族という超少数民族が居た。

 発端は、魔女と恐れられた双子、エル・レーンとイセル・ダグトが砂漠の彼方に捨てられたことに始まると言われている。

 双子の名のついた二つの塔が建造され、小さな小さな都で、フィルリス族は慎ましく暮らしてきた。


 フィルリス族の特徴は、月光下では、髪やまつ毛などの色素が変色し、銀色に輝くところだと言われている。尚、通常は黒く見えている。

 魔女を起源とする一族のため、冷たい砂漠では、いわれなく中傷され、変色する髪などを恐れられ、やがてフィルリス族を人間ではなく、魔属の生物と見なすような風潮が一般化していった。


 そのため、密かに静かに暮らしていた一族は、「冷たい砂漠から危険生物を排除する」という名目で、有志で構成された義勇軍に攻め込まれ、滅ぼされた。


 今では、フィルリス族の生き残りは、とても少ない。

 もしフィルリス族と認定されれば、命を取られたり、奴隷として扱われる。

 魔術師に売り渡され、実験体にされるものもあった。


 とにかく、フィルリス族は、徹底的に、人間とは扱われなかった。

 そんな文化で、そんなご時世であった。


 いつの頃からだろうか。


 冷たい砂漠にある、とある多重都市にて、噂が流れ始めた。

 最初は、母親が子供を躾けるための作り話だと誰もが思っていた。


「悪いことをすると、砂漠の鬼に殺されてしまうよ」

「早く寝ないと、砂漠の鬼が殺しにくるよ」


 ――砂漠の鬼が実在することは、旅人の証言で判明した。


 多重都市ノイヴェ。

 その周辺に、紫の装束を纏い、銀髪をひと房なびかせながら、旅人を襲う殺人鬼が出たのだ。


 都市ノイヴェは、貴重な地下水を汲み上げられる地域を、第一階層とし、そこに身分の高いものが居住していた。

 第一階層は煉瓦の外壁で覆われ、砂と外敵から守られていた。

 そして、商人や工芸人が集まる第二階層が、ぐるりと第一階層を覆っている。

 ここも煉瓦の外壁で覆われている。

 更に、身分の低いものが住む第三階層が第二階層を囲み、外壁が第三階層を守る。


 第四階層は旅人たちが集まって、都市に沿って作り上げた、外壁のない野ざらしの部分である。

 ここに旅人向きの粗末な宿や食堂がおかれるのも時間の問題だった。


 冷たい砂漠は、凍えるような寒い土地である。

 昼でも気温は上がらず、冷たい砂が吹きさらしている。

 雪が舞うこともある。

 徒歩では非常に歩きにくい砂丘は、白ラクダと言われる毛深い騎乗生物を使用した。


 そんなノイヴェの第四階層周辺に鬼が出たのは、いつ頃からであろうか。

 夜にしか現れない、正体不明の鬼。

 性別すらも分からない。

 ただ、ひと房の銀髪だけが、月の明かりに煌いていた。


 鬼は曲刀を振るう。

 旅人がまたひとりずつ、砂の海に溺れていく。


 人々は噂をした。

 あれはきっと、フィルリス族の最後の皇帝の生まれ変わりなのだろう、と。


 何故って、銀髪の「人間」は、この地方にはいないはずなのだから。

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