表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻獣島旅行記  作者: 増村有紀
第9部 叔父との対決
43/56

第2章 作戦会議

「色々考える前にひとつ、疑問が出てきたわ」

 アリーナはラスフィールを向いた。

「どうしてソミュアさんは、ジェネナ卿の所業を知っていて長年、放置したのよ? 奥さんも娘さんも殺されているのに」


「当時ぼくは小さかったから、後から聞いた話だけれど、叔父の関わりを、立証出来なかったらしいんだ」

 ラスフィールは母親のことを言われると少し顔を曇らせた。


「エステレルが、アリシアを連れ帰ってくれた時に、『人間もしくは斧を扱える誰かが、魔獣の襲撃に見せかけて別荘を襲った』ことは分かったんだ。そしてアリシアが回復後、叔父の名を叫んで寝られないことがあったから、犯人の推測は出来たみたい。でも、『その時叔父がうちの別荘に行ったこと』『その時叔父が自分の屋敷にいなかったこと』が、証明出来なかったみたいなんだ」


 難しい顔でラスフィールは腕を組んだ。

「アリシアの証言だけでは、幼な過ぎたのと、動転していたという判断で、証言としての有効性を認めてもらえなかったんだよ」


「面倒くさいわねえ。疑わしきは罰したらいいのよ。早いところ、ジェネナ卿の首を刎ねてしまえば良かったんだわ。そうしたらソミュアさんだって、命拾いをしたでしょうに」

 アリーナが過激な発言をする。


「法治領政に拘っていたからね、父上は……罪を憎んで人を憎まずが信条だったし。冤罪にも気を配っていたし……」

 それでも、とラスフィールは続ける。

「一応、あの事件以降、叔父に見張りがついたのは確からしいね。だからこの時期まで叔父も動けなかったんだと思う。何故ここへ来て動けるようになったかが問題かなあ。見張りからの報告が滞っているって話がないか、調べてみるよ」


 ラリサ達はしばらく、屋敷に滞在することになった。

 ラリサとエステレルは旅装束のままで過ごしていたが、シドは色々な服が着られるのが楽しくて、毎日のように違うデザインの服を着せてもらって楽しんでいた。


 そんな中、ラスフィールが難しい顔をしてラリサ達を呼んだ。

「予想通りだったよ。見張りからの連絡が途絶えていたんだ。そこまで密に連絡を取り合っていたわけではないから、気づくのが遅れてしまった。父上の事件の僅か数日前に最後の連絡があって、以降音沙汰無しだ」


 誰かに殺されたのなら、事件として、報せが来そうなものなんだけどな、とラスフィールは首を傾げた。

 しかし、移動中の場合、遭難、魔物の襲撃なども考えられる。

 もしそうでなくても、ラリサ達は、病気や変死に見せかけて人を殺すことが出来る人物を知っている。

 ――シェリア・ネイという人物の例を。


「どうするの?」

 アリーナが後ろ手を組む。考え考え、ラスフィールは言った。


「次は確実にぼくが狙われる番だ。ぼくが囮になろう。アリシアにはバルテオとして動いてもらう。今のままでは、騎士である叔父とは身分差が大きいけれど、ぼくとアリーナが後ろ盾になって、一時的にでも近衛に昇格させれば、対等の発言力は得られると思う」


「つまりバルテオギルドに圧力をかければいいのね?」

「圧力じゃない、昇格を申請すればいいんだ。式典で近衛が足りない時によく使われる手さ。アリシアは戦力としても期待できる、そうだろう?」


 期待されたまなざしに、ラリサは頷いてみせた。

 内心で、(いちいちお姉は考えが過激だなあ)と、苦笑いしながら。


「エステレルはヘルハイム師の弟子として有能だし、シド君には、何が出来るのかよくわからないけれど、二人ともアリシアの手助けになってくれることを期待しているよ」


「うん、任せて! 僕にかかればあっという間に、火の海が出来上がるよ!」

 シドは元気よく、ポーズを取って見せた。

 最近のこの放火癖は、やっぱ矯正しないといけねぇな、とラリサは心の中で呟いた。


「ところでエステレルって本当に有能なのか?」

 思わずラリサは本人に尋ねてしまう。

「俺、お前が魔法を使うところ、見たことねぇんだけど?」


「ふふふ……ご期待通り、私は魔法が使えないです。薬師だって言っているでしょう」

 エステレルは素直に答えた。

「ですが、師の遺してくれた魔法具を色々持っています。これだけあれば、そこそこお役に立てるかとは思いますよ~」


「じゃあ、こういうこと? アリシアは近衛としてラスフィールの警護につく。エステレルさんはアリシアをサポート。シドくんは、会場警備。そんな感じでいいのかしら」

 アリーナの言葉に頷くラスフィール。

「まあ、ぼくの近衛たちも出すし、アリーナの兵も多少出してもらえると助かるかな。とにかく、叔父がぼくを殺したくなる状況を作らないと……」


「思いついたんだけどね、あのね、お父さんがいつまでも帰らないから、おにーちゃんが、この領地の長を継ぎますっていう式典をするのはどう?」

 シドが提案した。

「僕だったら、式典があったら、狙うチャンスだと思うかも! だってその悪いおじさんは、おにーちゃんを殺して、この領の長になりたいんでしょ? それに、病気とかに見せかけて、人を殺す術もあるの、僕だって知ってるよ。その悪いおじさんは悪い人だから、そうゆう悪いことを知らないとは思わないな」


 ――ここで号泣する、見えない存在が居る。時折様子を見に来ている、精霊狐サークだ。

 生前、自分はおぢちゃん呼ばわりだったのに、明らかに年上をおにーちゃん呼びされている。

 精霊狐は涙を迸らせながら、空へと走り去った。

 

 ぽんぽん、と緑がかった金髪を撫で、ラスフィールはシドに「頭の良い子だね」と微笑んだ。


「まあ、植物性の神経毒などを使われているところとか、旅路で目の当たりにしてきましたからねえ」

 エステレルが苦笑する。

「それそれ! 逆にその悪いおじさんに、しんけいどくを、仕込んじゃえばいいんだよ!」

「私たちが殺人犯になってどうするんですか……。あくまでも、悪いおじさんのしたことを暴いて裁くのが、この領でのやり方ですよ」


「そうね、じゃあ、あたしも日取りを合わせて兵を呼ぶわ。その、バルテオギルドには金でも積めばいいの?」

 アリーナが乗り気になる。


 こうして、ラスフィールの世襲式の準備が始められていった。


(ここでお兄まで亡くしたら、もう後悔しか残らない! 何としても、お兄を守らなくちゃ!!)

 ラリサは日頃の鍛錬を、更に厳しいものにし、顔を強張らせていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ