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幻獣島旅行記  作者: 増村有紀
第8部 妖術師の潜む森
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第3章 グァデルノの塔

 燃えちゃえ~燃えちゃえ~♪ みぃんな、燃えちゃえ~!!

 シドはそう火の精霊たちに呼びかけて、グァデルノの所有する森を焼き払った。

 遠くから、エステレルと思しき姿が見えてくる。

「あ、エステレル~!」

「火を消してください、シド。このままでは付近の森にまで延焼してしまいます!」


 エステレルは、炭と化した樹木から、幾つかの、霧発生用魔法具を見つけていた。

 勿論、慣れた手つきで魔法具を止めて回る。


 精霊の火だけに、シドが自由自在に操れるのは、救いだった。

 煙や熱気で、肺を焼かれるような事故も起こらず、シドとエステレル、ティキは合流した。

 ラリサの姿は、広い焼け跡の中には見つからなかった。


「塔に連れていかれた可能性もありますね」

「っていうか、そんな気がするよ。あの塔、中に人がいるもん。何人かは分からないけれど、何か、ラリサっぽい気配もあるし……」

 シドは集中して、気配を探った。

「慎重に行きましょう。何せ、人様の庭を勝手に焼いてしまったんですし……」


 エステレルの言葉に、シドは唇を尖らせた。

「でも、こうして視界が綺麗になったから、僕たち、合流できたわけだし」

「それは否定しませんよ。ただ、シドはやることが豪快だなあと思っただけです。誰に似たんでしょうね?」

 2人はゆっくりと塔に向かった。


 近づいていくと、石造りのしっかりした建物であることが分かる。

 入口と思われる扉は閉ざされ、そこには「番犬」が座っていた。


 一方。


 自慢の森が大炎上したグァデルノは、どうしていいか分からず、焦っていた。

 ツタが連れてきた女バルテオは、誰に雇われてここへ来たのだろう?

 更に、まだ庭(焼き払われた森)に、数名の気配がある。


(ジェネナ卿か?)


 グァデルノに、ソミュア氏の暗殺を依頼した、有力騎士。

 ソミュア氏(実は、フォントール領主)の実弟。

 そして、ラリサの叔父。

 ――後半二つの情報については、グァデルノには知らされていない。


(ジェネナ卿ならあり得る。ソミュア氏が何者かはわからんが、ジェネナ卿が暗殺を依頼してきた以上、我自身も後日、口封じに狙われる可能性は高い)


 しかし、それにしては、バルテオの到着が早すぎやしないか?

 数分で暗殺が終了し、その日のうちにグァデルノを口封じしよう、とでも、依頼主は考えたのだろうか?


 勿論、可能ではある。数分で一般人を殺すことなど造作もない。

 だがグァデルノは魔術師だ。魔術の被験体として使わせてもらわないことには、折角の、散らしても良い命が勿体ない。


 そう、グァデルノは、訪ねてきたソミュア氏を、今まさに熱中している実験に使うつもりだった。

 捕まえた女バルテオも、この際利用させてもらうか。

 外にいる気配は数名だし、下手をすると4人は居ないだろう。

 あの「番犬」をけしかけておけば、時間稼ぎにもなるに違いない。


 ソミュア氏は、グァデルノの茶に口をつけた。

 その結果、意識を失って倒れている。


 グァデルノは醜い顔を引きつらせて、微笑んだ。

 さあて、実験に取り掛かるとしようか。


 塔の前。


 シドは金色の「番犬」に火の玉を投げつけた。しかし、「番犬」には無効のようだった。

 ティキも鋭い爪で切り裂こうと滑空した。だが結果としては、「番犬」に傷ひとつつけられなかった。

「これはあれですね。真実の金で出来ていますね」

 なんと贅沢な。そうぼやきながら、エステレルは樫のワンドを取り出した。

「真実の金ってなあに?」

「神属の力を無効化し、魔属の力を増幅する、特殊な金属です。人工的に作り出すことは出来ず、土の中から見つけ出されるしか、入手方法のない希少鉱物ですよ」


 エステレルは樫のワンドで一撃、「番犬」を殴った。


 ヘルハイムが遺した樫のワンドは、「番犬」に込められた魔法及び魔気を全て無効化し、ただの金塊に変えてしまった。


「このまま持って帰れたらいいんですけれどねえ。それじゃ、泥棒になっちゃいますしね」

 はあ、と物欲しそうにため息をつくエステレルであった。


「解説しますと、シドの火は精霊によるものですよね。だから神属なんです。同じく、聖獣のティキの攻撃も、神気を帯びているので、神属です。真実の金の前には、無力化されてしまうんですよ」


 じゃらじゃら、と鎖の絡みついた扉を開けながら、エステレルは声を上げた。

「ごめんくださーい。お邪魔しちゃいますよー」


 エステレルの声が反響するだけで、返事は返ってこない。

「……お許しは出ないようですが、行っちゃいましょう。ラリサは多分、この塔の中でしょうし」

 静寂の中で少しだけ待ったが、エステレルはずかずかと塔に入っていった。


「う、うーん……」


 その頃。ラリサはツタをほどかれ、何かの装置に横たえられていた。

 目覚めて思い出す、ツタの大群との応酬。

「負けたのか……?」

 悔しさに唇を噛む。しかしあれは相手の数が多すぎた。ラリサはかなり健闘したほうだ。


「……」

 動けない。手も足も痺れていて、何かの装置に繋がれて、全身スパゲッティ状態である。

 視線を動かすと、荷物だけは部屋の隅にあることが分かった。

 身にまとっている愛用の剣は、痺れた腕と、拘束された体では、取ることができない。

 荷物から、サークの遺品である名剣アシュミールの包みが覗いている。


 ゆっくりと誰かが入ってきた。塔の主であろうか、黒いローブを身にまとっている。


「目覚めたかね。我が名はグァデルノ。さて、答えてもらいますぞ。ジェネナ卿に雇われたか?」

「ジェネナ卿だと!?」


 叔父の名を聞いて、さあっと血の気が引いた。

 幼い頃に植え付けられた恐怖心は、叔父の名を思い浮かべるだけでも、蘇る。

 だが、過日、シェリアと胸の内を明かして語りあって、トラウマの克服を誓ったのだ。


「ち、違ぇよ」

 ラリサは絞り出すように答えた。喉を締められていた所為か、声の出が悪い。

「俺は通りすがりだ」


「では何故この塔へ来た?」

「てめぇのツタが連れ込んだんだろ!」

「ではなく、何故我が森に侵入した」

「……」

「ソミュア氏と知り合いだと聞いたが、ソミュア氏を追ってきたのか? ならば、何故?」


 知り合い。父はそう言ったのか。

 今でもラリサの生存を、隠匿してくれているのだ。


「ソミュア氏には借りがある。見かけたら返そうと思っていた」

 ラリサはそう答えた。

「嘘、だな。いや、厳密には嘘ではないのかもしれん」

 グァデルノはラリサにつないだ装置をいじりながら、ニタリと笑った。

「まあ良い。借りとやらを返したいのだろう? 最適な好機をさしあげよう」


 グァデルノが何か装置を動かした。

 痺れるような衝撃が脊髄を走り、再びラリサは意識を失った。


 次に意識が戻ると、ラリサは両足を装置に繋がれたままの状態だった。

 まだ足だけなら、上体を動かせるなら、何とかなる!

 そう思い、愛剣を構え、まず最初に足に繋がっている装置の管を切ろうとした。


 だが、その余裕はなかった。


 何か黒い巨大な影が、ゆっくり、ゆっくりと、部屋に入ってきたのだ。

 いびつな足音を立てて、ふしゅう、ふしゅうと、荒々しく鼻息を鳴らしながら。

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