第1章 招待
第8部 妖術師の潜む森
儀礼魔術師として、ヘルハイムの後釜に据えられたグァデルノは、苦悩していた。
これという成果もあげられないまま日々が過ぎていく。
そして、引退したと噂のヘルハイムが、魔法具をどんどん開発して、市場に送り出していく。
結局何も成果を出せないまま、グァデルノは、ヘルハイムを憎みながら、町を出た。
市場に出回ったヘルハイム製作の魔法具を買いあさり、辺鄙な土地に塔を建てて引きこもった。
パトロンとして、領主ソミュア氏の叔父が、資本金を出してくれた。
ある時、そのパトロンが手紙を結び付けた伝書鳩を飛ばしてきた。
――そちらにソミュア氏を向かわせる。好きなようにもてなすが良い――
明確には書いていないが、暗殺の依頼であった。
この頃、一部で妖術師と呼ばれていたグァデルノは了承した。
本当はヘルハイムをこそ、この手で葬りたかった。
しかし、ヘルハイムは寿命でとっくに亡くなっていた。
弟子がいたとかいないとか、噂が流れたが、それも有耶無耶にされていた。
話は変わって、町の中。
この世界には、案内人(ガイド)という職業がある。
担当地域の地理を知り尽くし、旅人を案内する職業である。
地図の作り方、読み方も、ガイドたちがノウハウを積み上げてきていた。
そんなガイド業の一部隊に、三人組の通称「テリーズ隊」と呼ばれている者たちが居た。
リーダーのテリーズ・ファロウ。
地図担当のマルリーン・ブライト。
護衛担当のクズー・ヘルマ。
テリーとマルリーン――赤毛のためキャロータ(にんじん)と呼ばれている――は義理の兄妹だ。
テリーの父が、行き倒れていたキャロータ母子を助けてからの付き合いである。
クズーはテリーの父の古くからの友人で、故郷に妻と子を残しての仕事であった。
そのテリーズ隊に、一瞬、躊躇うような依頼が入ったのは、数週間後であった。
妖術師グァデルノの塔に行きたいという、酔狂な男が訪ねてきたのだ。
何でも、新しい魔法の成果について話があるとかで、招待を受けたのだという。
客の名は、レファール・ソミュアと言った。
そこそこ年はいっているが、好印象の男性だった。
フォントール領の領主本人だとは気づかずに、テリーはOKした。
「女性もガイド業をされるんですね。初めてお見かけしました」
ソミュア氏は微笑んで、年若いキャロータを見つめた。
キャロータは、まだ成人前の小娘だ。
大人から女性と言われることに慣れていなかった。
せいぜい女児とか、女子とか、その程度だった。
「わたしも、女だてらに男の仕事を頑張っている人を知っています。無理と無茶だけは、なさいませんよう」
嫌味を言われるのかとキャロータは体を強張らせたが、ソミュア氏はそんな人間では無かった。
逆に、応援すると、キャロータに特別に「お守り」の聖別された金貨をくれた。
「クズーさん、テリーさん、どうかキャロータさんを守って差し上げてくださいね」
「あったり前でしょうに。お客さん、それより、グァデルノさんを訪ねるなら、ご自身のほうが心配ですよ。護衛をつけなくて大丈夫ですか?」
テリーは敬語で聞き返した。
「内密の話らしいですから、大丈夫でしょう。グァデルノさんとは昔に縁がありましてね。そんなに悪い人でも無いですよ」
ソミュア氏は、妖術師と呼ばれるようになってからのグァデルノを知らない。
町で魔術の開発に苦戦していた、若き頃の彼しか、知らなかった。
ガイド三人衆は、不安を抱えながらも、ソミュア氏をグァデルノの塔へ案内した。
ソミュア氏は報酬を弾んでくれ、道中に聞けた話が楽しかったと三人を褒めてくれた。
そして、薄暗い森に囲まれた塔の中へ、何度も振り返り、手を振りながら、消えていった。
ガイド三人衆は近くの町に戻り、大衆食堂で久しぶりにご馳走にありついた。
「それにしても大丈夫かなー、ソミュアさん。あんまりグァデルノさんっていい評判聞かないよね」
キャロータが、ずっしりと重くなった財布袋を大事に握りしめて、ソミュア氏の身を案じた。
「失礼。ソミュア氏、と言われたか?」
そこには、男のように革鎧をまとった女性が立っていた。
「ソミュア氏が何処に行かれたと?」
そこでラリサは、自己紹介が遅れたことを詫び、自分は女バルテオで、ソミュア氏にゆかりのある者だと告げた。
「グァデルノさんの塔に行きましたぜ。ご招待を受けたとかなんとか」
テリーが食事の手を止めて答えた。
「塔はここからどの位だ?」
「ご案内しましょうか?」
キャロータが提案する。
黙々と食事をしていたクズーは、ラリサの体格を見て、なかなかに腕の立つ剣士と踏んだ。
「頼む」
ラリサは旅の連れと共に、ガイド三人衆の馬車に乗り込むこととなった。




