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幻獣島旅行記  作者: 増村有紀
第6部 賢者の黄金
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第4章 賢者ダルニア

 一行は即座に食堂の奥の部屋を借りた。


 すぐにキノコを吐かせ、解毒効果のある薬草を煎じて飲ませ、エステレルはサークの様子を見た。

 麻痺毒を含むキノコなのは、香りで分かった。食用キノコによく似ていて、毎年死者が出ている。

 手当が素早かったため、サークは命を落とすことなく、何度か嘔吐を繰り返して、やっと息を吹き返した。


 それまで、今まで見たことがないくらい、はらはらとサークの容体を気にしていたラリサは、彼の顔色が戻った途端に、態度を豹変させた。

「全く、手間かけさせやがって、ばか野郎が。もう一口多く食べていたら、あの世行きだったんだぜ!」

 ぴしゃりとサークを叱りつける。

「はっはっは、いや、すまんすまん」

「笑うところじゃねーぞ!」


 エステレルとシドは、汚れた部屋を綺麗に掃除しながら、またも顔を見合わせていた。


「ラリサ、あのおぢちゃんのどこがいいんだろう?」

「さあ?」


 小さな声で囁き合う。

 ラリサがサークに特別な好意を抱いていることは、彼が倒れている間の態度からすぐに分かった。

 忍ぶれど色に出にけり、状態である。


 掃除も換気も済み、サークの具合も良くなったところで、話を聞く。

「ギルスベイの黄金に興味はないか?」

 サークは手に入れた論文を取り出し、その羊皮紙をエステレルに見せた。


「賢者の黄金? 何らかの謎を解かないと、二度と帰ってこられないと噂されている……とここに書いてありますが、帰って来られたものは今尚、一人もいない、ともあります。では何故、謎を解く必要があると判明したのでしょう?」


「あー」

 サークは髪をさらりとかきあげた。

「そういやそうだな……」


「論文なんて、半分以上が推測と考察ですよ」

 儀礼魔術師の免状持ちに言われてしまうと、二の句が継げない。


「とにかく、おれは黄金が欲しい! 手を貸してはもらえまいか」

「金鉱を見つけて採掘するのが手っ取り早いと思いますよ。この大陸にはまだまだ、開発されていないところがいっぱいあるんですから、金鉱だって何処かに眠っているでしょう」


 さらっとエステレルは答えたが、「まあそう言うなよ。手を貸してやろうぜ」とラリサに口を挟まれた。


 そういうわけで、改めて食事を済ませ、モルデロの街を離れて、ギルスベイの採石場に移動する。

 この山から切り出した石で、あの橋の街は作られていたのだとシドは教えられた。


「へー。すごいね。で、賢者の黄金はどこにあるの、おぢちゃん?」

「おにーさんと呼べー!」


 漫才をしながら採石場の奥へ向かい、途中で鍾乳洞を見つけて潜ってみる。

 ランタンを掲げながら、シドは何らかの気配をどこか遠くに感じた。

「この山のどこかにいやなものがあるよ……賢者の黄金には、手を出さないほうがいいんじゃ……」

「はっはっは、そうは言ってもな、大人には都合ってものがあるのだよ」


 相手に剣が通じるなら、ラリサとサークのコンビで簡単に撃退できるだろう。

 ラリサは剣を構えた。

 サークは、名剣アシュミールを構えた。ラリサが眉を軽く動かす。

「その剣、オヤジさんから引き継いでいたのか」

「はっはっは、まあな。今ではおれ様の右腕のような存在だ」


 油断なく周囲を照らして見て回る。

 コウモリや小動物などは見つかるが、大したものは居ない。


「もっと奥だな」

 ラリサがそう言って、エステレルがいなくなっていることに気づいた。


 その頃。


 エステレルは入ってすぐに、はぐれて道に迷っていた。

 仕方がないので、魔気の気配が強いほうに、強いほうにと下り道をおりていく。


 どろりと体を粘性のもので包まれるような感触が走る。

 ここまで濃い魔気は珍しい。

 フェン・イー・リルダが張った、廃都ラルフェティエールの封印でさえ、これほど強烈かどうか。


「ああ」

 魔気の中心に、賢者が居た。

 賢者から黄金が噴き出していて、周囲に飛び散っている。


 ――おぬしはだれぞ。

 賢者は尋ねた。

 ――わたしはラルフェティエール最後の「託宣の子」です。

 エステレルは答えた。

 フードの影からティキが顔を出す。


 ――聖獣ヴァウを連れておるか。では間違いない。おぬし「ティスクィラフェルゼ」だの?

 ――わたしは自分の本当の名を知りません。そう言う名前なのですか?

 ――最後の「託宣の子」であるなら、その名で呼ばれるはずであった。魔都はどうなった?

 ――民が都を捨てた後、フェン・イー・リルダが封印いたしました。


 賢者は、おお、おお、と声を上げた。


 ――封印されてしもうたか。我が帰還すべき場はもう、どこにもないのだな。

 ――賢者様、あなたはどなたなのです?

 ――我が名か、うむ‥‥ダルニアと名乗っておこう。おぬしの養育を務めるはずであった。


 ダルニアの語った経緯はこうだ。


 彼は賢者の石を研究していた。賢者の石とは、あらゆるものを黄金に変える石であった。

 そしてギルスベイの採石場で実験を重ね、成功してしまった。


 賢者の石は、まずダルニアを黄金に変えた。続いて、ダルニアの周辺に触れたものを次々と黄金に変えていった。

 ダルニアは長い長い寿命と魔属のものへの親和性があったため、賢者の黄金によって命を落とすことは無かったが、ギルスベイの洞壁に磔にされ、身動きがとれなくなってしまった。

 あふれ出す黄金は、訪れた人間を巻き込み、餌食として、更に広がっていった。


 ――黄金に触れてはならぬ。黄金に取り込まれ、遅かれ早かれ、命を落とすであろう。

 ――我は刻々と命を削られていることを感じておる。

 ――この長命なダルニアにも、死の瞬間が訪れるのは間違いないのだ。


「賢者ダルニア師よ。あなたの周辺の空間を爆破し、あなたを永遠に山深くに閉じ込めてしまったほうが、よろしいでしょうか?」


 これはサークやラリサに見つけられる前に、片をつけなければならない。エステレルは焦った。

 あちらにはシドがいる。この濃密な気配を感じ取り、この場所へいずれやってくるであろう。

 そうするとサークが黄金に飲まれ、助けようとしてラリサが、そしてシドが飲まれ……。


 容易に想像がついた。


 ダルニアは頷いた。

 ――そなたに出来るのなら、永遠にここを封印してくれたまえ……頼んだぞ。

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