プロローグ
「お宝を集めて回る、醜鬼族、ねえ……」
この世界では史上初の女戦士、ラリサ・レファーンは、斜め後ろに結んだ蜂蜜色の長い髪を払いのけ、これから襲撃しようという、標的の村を見つめた。
噂では、この村の奥の山に、より強い魔獣がいて、醜鬼族は光物を集めては魔獣に捧げて、村の安全を約束してもらっているという話もあった。
だが、あくまでも市井の噂だ。
醜鬼族がそこまで頭が回るかどうかはわからないし、実際、光物を集めて喜んでいるだけの可能性も高かった。
『戦士と言えど女如きだ、光物を取り返すくらいが丁度良いだろうよ』
人間の開拓村で大事にされてきた銀の彫像が、奴らに盗まれたので取り返せ、とギルドに依頼してきた村長は、ラリサの神経を思いっきり逆なでした。
「暴れてやるぜ……この村潰して、全てのお宝を解放して、然るべきところに返却してやろうじゃないか」
普段のように男言葉で呟き、ラリサは愛用の剣を構え、金色の風のように、醜鬼族の村に襲い掛かった。
開拓民の間で戦士(バルテオ)のギルドが生まれて、二十数周期になるだろうか。
特訓機関で鍛え抜かれ、選抜試験をくぐり抜けたラリサは、ギルドお墨付きの軽装戦士(フラウア・バルテラ)だ。
身のこなしの軽さ、素早さを活かし、切れ味の良い得物で敵と戦う。
ラリサの前に、女で選抜試験を通ったものはいなかった。
これも噂だが、なかなかの実力者は彼女以前にも居たらしい。ただ、ネイと呼ばれたその娘は、特訓機関での修行中に逃亡したとされている。
ゆえに、ラムリエス大陸内で、女性だてらに戦士を生業にしているのは、ラリサだけと言ってもおかしくなかった。
醜鬼族の村を制圧するのは容易かった。
彼らはラリサを強敵と見るや、自ら逃げまどい、村を捨てて山のほうへ去って行った。
「魔獣でも呼んでくる気か? まあいい。回収するものを回収して、おさらばするか」
幾ばくか血を吸った愛剣をぬぐい、ラリサは宝物庫と思しき建物へ向かう。
一番厳重に鍵がかけられている建物だ。見張りも多かった。――全員、逃げたが。
鍵を叩き壊して開けた途端、鈍色の空間が拓けた。
確かに財宝は積まれていたが、それよりも彼女の視線を釘付けにしたのは、宙に浮かぶ雫のようなものに包まれて眠っている、トロウルの子供だった。
がっしりとした大きな鼻。焦げ茶色の髪。尖った耳。鬼妖精トロウルの子供が、どうしてこんなところに。
素手で触れてみると、雫は固い膜となって、侵入を阻んだ。
シディエルーテス――罪深き取り換え子。
脳内に声が響き、無意識にラリサはその名を口にする。
通り名などではない…‥このトロウルの子供の、魂に与えられた本来の名だ。
雫が震え、そしてはじけ飛んだ。
気が付くと、ラリサの腕の中に、トロウルの子供が収まって眠っていた。
「シデ……だと『罪』になっちまうな。シド(財)、そうだ、お前の名は今からシドだ。いいか、シド。俺はラリサ。よろしくな……って、寝てるのか」
眠り続けるトロウルの子供に呼び掛け、ラリサは軽く肩を竦めた。
目当てのものをざっくりまとめて回収すると、更にシドを抱え、彼女は醜鬼族の村を後にした。




