序文
神々の空間から遥か離れた処に、その世界は在った。
惑星フェルアード――魔族たち(ウェル)が、かつて、こよなく愛した世界である。
その世界の南半球には、「幻獣島」の異名を持つ、ラムリエス大陸が存在していた。
魔族たち(ウェル)の寵愛を受け、幻獣魔獣が闊歩し、夜には黄金龍を象った天体現象「バイテドーレ」が燦然と輝いて、か弱き人間など、全く寄せ付けない大陸であった。
魔星暦九百年代――ラムリエス島の陽月暦では、第六十八期に近い頃。
魔属のものたち(ウェウー)の力は、衰えを見せ始めていた。
中でも「最古の魔族」と呼ばれ、遥かな過去から栄えてきた一族の都、宝石都市ラルフェティエールが廃墟と化したのを幕切れに、他の魔属のものたち(ウェウー)の脅威も次第に失われていった。
魔性を殆ど帯びないものたち――とりわけ人間たちは逆に力を手に入れていき、やがて、以前より脆くなった魔属のものたち(ウェウー)を退ける剣を得た。
北半球に大きく広がる、巨大大陸「グレートコンティネント」。
そこから人間たちは、魔属の楽園と謳われた幻獣島に、少しずつ移民を開始した。
開拓し、国を興し、幾度となく滅び、また国を興しながら、人間たちは徐々に徐々に、幻獣島でも台頭していった。
鋼鉄の剣を以て魔をたおす者たちを、彼らは「戦士(バルテオ)」と呼んだ。
その中に一人、異色の者がいた。
――通り名(ラカブー)を、ラリサ・レファーン、という――