第6話 夜、炎を囲む黒騎士(1)
冷たい雨が兜を打つ。
真っ黒な甲冑を纏った一団は、落ち葉の積もった獣道をひたすらに駆けていた。目的地は国境近く。最南の小さな村、ヒウッカ。国境沿いに構える城の最重要補給拠点ながら、危機感を失ったニンゲンの世界では軽視されがちな村だった。それはアルゴに通ずるものがある。
珍しく振り続ける雨に打たれながら、誰一人声を上げない。聞こえるのはぬかるんだ地面を叩く蹄の音と、獣の荒い息遣い。そして鎧を打つ、甲高い雨音だけだった。彼らの吐く息は白く、暗闇に溶けては消える。
走る軍馬は泥を跳ね上げ、雨に濡れて艶やかに光る毛皮を汚した。止む気配さえなく、激しさを増した雨は騎士を、馬を叩き、黒の群れの体温を徐々に奪い去る。それでも彼らの行軍は止まらない。視界を遮る雨粒を裂き、前へ。前へ。
手綱を握った手が悴んで感覚がなくなる頃、先頭を行くベルンハルトが漸く片手を上げた。
光一つない状態で、師団は隊列を乱すこともなく馬を止めた。
「どれくらいだ、エリ?」
暗い空を睨んだ上官に、内に控えた騎士が口を開く。
「ガリーザの森へ入って四半刻、と言ったところでしょうか。更に四半程度走れば目的地です」
一団が王都より下命を賜り、二日。四日程の道程を休みなしで、軍馬を駆ってここまで来た。速度を上げられない荷引きを半ばで切り離し、アルゴに次いでの強行軍としたのには理由がある。
それは追って伝えられた〈猫〉という単語。
「ねぇ、准将?」
都への道を取って返して一日経った頃。
食事と酒盛りを兼ねた休息に興じる集団を割って、声を掛けてきたのはリーリャだった。
「んー?」
使い古しの木製カップに口を付けながら、ベルンハルトは振り返った。
揺れる炎に見る彼の表情はいつも通り。疲れも酔いもそこには見えない。あるとすれば灰の奥で揺らぐ薬の影か。
「どうした、リリー?」
先程まで笑い合っていた男達の視線が、上官に倣って小さな招来師に集中した。
リーリャは少しの気まずさを感じながら、
「こんばんわー」
彼らに軽く会釈した。それに伴って、彼女の細く美しい腕を覆い隠す薄い布地が、さらり、と流れた。
「中佐はまだ駄目ですよー」
位持ちを囲むのは、小隊を指揮する立場にある騎士や、分隊を構成する騎士達。日も落ちた森の中、野営の陣を組み、誰が言い出すともなく、こうして上官の許に集まっては下世話な話に花を咲かせる。それは遠征中、毎夜繰り返される光景。
「えっと、ね?」
漸く得られた息抜きの時間。邪魔をするのはとても気が引けたが、リーリャは小首を傾げ、どことなく猫を思わせる瞳を輝かせた。獣人に例えられて嬉しいモノなど居ないだろう、と誰も口にはしないが、その気まぐれな仕草も、愛玩動物を思わせる表情も、庇護欲をそそる一端である事に間違いはない。
「なんです、大尉?」
「あ、俺、嫌な予感がする」
「あー、俺も」
体躯のいい男達が品のない笑い声を上げ、酒を呷った。炎に黒々と浮かぶ彼らの姿は、都のモノ達からすれば、最早野盗の集会と変わらないのだろうが、そんなものリーリャには関係ない。
「お話があるの」
大きな口を閉じた男達に臆する素振りも見せず、彼女は続けた。
炎に透ける栗毛の、緩くうねった長髪が彼女を随分と幼く見せるが、その瞳に点るのは魔力の光。意志の強さと相まって、彼女は所謂一般のニンゲンにはない凄みがあった。
微笑む招来師の姿に、
「あー……、これ片しますね」
「鍋は火から下ろしとけよー」
「あ、残った酒は置いとけ」
位持ちを囲む騎士達は残念そうな声を出した。
各々手にした大きなカップを素早く呷って、中身を空にし、手際よく片付けを始める。一人は地面に転がった空き瓶をひたすら拾い集め、別のモノは焚火に掛けられた鍋を地面に置く。軽口を叩いた若い騎士は汚れた皿を集め、しぶとく酒を飲む同隊の騎士の後頭部を叩いた。
「いてぇよ」
叩かれた騎士は渋々、口と酒を別れさせた後、辺りに転がった骨を一か所に集める。あらかた集めると、おざなりに落ち葉や土を掛けてお仕舞。
リーリャは躾の行き届いた騎士達に微笑んで、見上げてくる灰目を覗き込む。
「さっきね、お城に居るお友達からお知らせが届いたの」
笑う彼女の言葉にベルンハルトは表情を変え、内で微睡む騎士を見た。
「……」
エリゼオはその弁柄色の瞳を眇め、静かに溜息を零し、気怠そうに下官に腕を振って上官に応える。
「やっぱりなー」
「だと思ったぜぇ」
口々にぼやきながら、分隊長達は唇を尖らせた。
彼らは口と態度で不満を表しはしたが、行動に澱みはない。話しの邪魔にならない様に素早く席を外す。
「次回は俺の番ですよぉ」
話しそびれた騎士がわざとらしく、忘れないで、と付け足すと、その場を立ち去る騎士達から笑いが漏れた。ベルンハルトは彼らに白い歯を見せ、エリゼオは少し困った様に口端を緩めて見せた。
「ごめんね?」
リーリャは微笑んで、
「さっさと寝ろよぉ」
ベルンハルトは彼らに手を振った。
騒がしい騎士達の姿が見えなくなると、頬杖を付いていたイェオリが身体を起こす。
「なんだ? 重要な話か?」
真面目な口調とは裏腹に、彼は無遠慮に欠伸を零した。大きく開いた口から覗いた長い犬歯が物騒に濡れて、炎に輝いて見えた。彼が気怠そうに首筋を掻くと、向かいに座ったヴィゴが空になった酒瓶を振る。
「そんなことより酒取って」
「これは俺の分だろ」
相方が手を伸ばしかけた瓶を引き、イェオリは眉根を寄せた。仕方なく、ヴィゴは視線を彷徨わせ、
「んじゃ、ソレ」
相方の脇に隠された酒瓶を指差した。
「こんな時だけ目敏いな」
イェオリが苦く笑えば、
「飲み過ぎだ」
エリゼオが目を合わせもせずに唸った。
「うっせーなー」
生意気を体現する男は顎を上げ、歳若の上官の言葉などに構わず、相方に手招いて見せた。その不遜な態度に半ば呆れながら、イェオリは渋々酒瓶を放る。
「やりぃ」
ヴィゴは大きな目を嬉しそうに細め、受け取った酒で喉を濡らす。
その飲みっぷりときたら。黒騎士の酒豪の名を欲しいままにするだけのことはある。イェオリが呆れた様に笑えば、気づいたヴィゴは何度か目を瞬かせ、
「お返しです、お猫様」
「猫って言うな」
相方に干し肉を差し出した。
「猫にはジャーキーで十分だろ?」
「待て待て、干し肉は犬っぽくないか?」
「えぇ? そうかぁ?」
幾分か酔いの回っているらしいエリゼオが真面目な顔をして片眉を上げると、ヴィゴは間の抜けた顔で返した。結局のところ、酒の席では素面でいられない、と言うことらしい。
彼らのやり取りを横目に、ベルンハルトは笑いながらリーリャを手招いた。彼が優しく手を取るので、彼女は遠慮なく上官の脇に腰を下ろした。流れる様な動作で手にしていた杖を脇に置けば、それの先に付いたランタンから、黒の蝶が一斉に飛び立った。
未だ見慣れない光景に、ベルンハルトは釣られる様に蝶を目で追った。それは優雅に舞って、やがて闇に溶ける。そうして消える事のない、冷たく黒い炎を湛えたランタンの周りに再び姿を現して、また優雅に舞飛んだ。
「不思議なぁ」
呟けば、彼女が柔らかく微笑む。
ベルンハルトは黒地に金の刺繍を施した簡素な法衣の、如何にも、と言った風な招来師に笑みで返し、
「リリーも飲む?」
手元にあった飲み止しを差し出した。
彼女はそれに少し口をつけて、
「苦い……」
顔を顰める。
「准将。リーリャは飲めませんよ。ほら、これで我慢しろ」
エリゼオは上官の為に準備しておいた、果汁の詰められた瓶から栓を抜き、まだ幼さの残るリーリャに差し出した。彼女はそれの口に鼻を寄せ、直ぐに破顔する。その顔は本当に愛らしくて、ここに貴族でも居れば、何としても手に入れたがっただろう。これで百に近い年月を生きているというのだから、世界とは不思議なものだ。
「ありがとう、エリ」
リーリャがエリゼオを愛称で呼ぶと、彼女の傍らでベルンハルトが僅かに表情を歪ませた。それは本当に一瞬。筋肉が痙攣した程度だったのだが。
位持ちの洞察力は馬鹿にできない。一部始終を見逃さなかったヴィゴは厭らしい笑みを浮かべ、イェオリは顔を曇らせる。
「リーリャ、名ではなく位で呼べ」
「あ、そうだった。ごめんなさい、中佐」
苦く笑うエリゼオに、リーリャはどこまでも懐っこい。まるで思い人の様に見つめ合った彼らに、
「ごっほん」
ヴィゴがわざとらしく作った咳払いを一つ。
「あー、いい加減にしたまえよ。こんな場所で痴話喧嘩は勘弁な」
彼の言葉に、
「……」
エリゼオは数回瞬き、
「ふふっ」
リーリャは肩を竦めて、楽しそうに笑った。
エリゼオは彼の言わんとすることを酒の回った頭で漸く理解し、諸手を上げる。その僅かに揺れた弁柄を睨む緑眼が酷く恐ろしかったのは、いつものことだ。
「邪魔してごめんね?」
申し訳なさそうな顔をして小首を傾げたリーリャに、
「んー、気にしなくていいよ。どうせ騒ぎたいだけだ」
ベルンハルトは笑って、彼女の小さな頭を撫でた。小動物の様な彼女に触れていると、図らずも癒される。目を細めると、リーリャは上官の手に甘える様に、その小さな身体を預けた。
「……」
目の前で繰り広げられる生温い光景に目を眇めながら、ヴィゴは相方に渡した皿から干し肉を盗んだ。
「お前……」
イェオリが文句を言い終わるより早く、眼前で爆ぜる焚火に腕ごと突っ込めば、彼は手が出せずにまごつく。それに笑って、
「ケチケチすんな」
ヴィゴは平を這う炎に目を細めた。
「お前にもやっから」
手の内で、じゅわじゅわ、と脂を焦がした干し肉は、なんとも旨そうな匂いを漂わせ始める。鳴る喉にまた笑って、ヴィゴは摘まんだそれが、程好く焼けたことを確認し、
「ホレ」
まるで酒瓶でも放る調子で、イェオリに投げた。
「おい、ちょっ!」
受ける方は堪ったものではない。
「あっつっ!」
イェオリは飛んできた干し肉が乗った腿を叩き、慌てて立ち上がる。
「あははははっ!」
ヴィゴが上機嫌で笑えば、イェオリが牙を剥いて唸った。
「あははははっ! ごめん、ごめん」
ヒトをおちょくる天才は腹を抱えながら立ち上がって、相方が落とした肉を拾う。そしてまた炙って、今度は自身で咥えた。
口から長く垂れた干し肉が、まるで伸ばされた舌の様に見えたのは気のせいではないだろう。イェオリが舌を打てば、ヴィゴは不遜な態度で座り直して、また別の肉を炙り始めた。空気を焼く炎が彼の手を舐めるが、当の本人は顔色一つ変えない。どちらかと言えば、じゃれ合い始めた上官と招来師にうんざりしている、と言ったところか。
炎を囲んで彼の左に座るベルンハルトは、癒しの空間に心酔していたが、その目端にちらちら、と映るものに鬱陶しさを感じ、
「ヴィゴ」
我慢ならず、声を上げた。
「ん?」
上官に呼ばれても、ヴィゴはそれから目を離さない。
「いい加減にしろよ。もったいない」
枝で腕を小突かれ、漸くヴィゴはベルンハルトを見た。そして、誰が言うことを聞くか、と人の悪い笑みを浮かべる。
「エリー」
反射的に、ベルンハルトは不満そうな声を上げた。
いつもの事だ。
「……」
エリゼオは酷く面倒だ、と言った態度で顔を上げ、上官を見た。まるで幼子の様な彼の目が、その口より饒舌な事を知っているから。不満を漏らす灰目から視線をずらして、
「冗談でしょう? めんどくさい」
わざとらしく溜息を零した。
ヴィゴは手の中で燃え始めた肉の塊を、まるで仔をからかう様に小刻みに動かす。イェオリは意地の悪い相方の様に火の中に腕を突っ込む訳にもいかず、かといって魅惑的に動くそれから目を逸らすこともできずに、手を出したり引っ込めたりを繰り返す羽目になった。
困った顔をするベルンハルトの顔を見上げ、リーリャは笑う。相変わらず仲のいい騎士達が少し羨ましかった。
しかし、これでは人払いまでした意味がない。彼女は自分の唇を指でなぞり、簡易的な呪葉を音に乗せる。見事に編みこまれた魔力が、彼女を薄く包んで、その髪をふわり、と持ち上げた。エリゼオがそれを訝しんだ目で見ていたが、そんなものは気にしない。彼には笑みで返し、開いた掌に息を吹きかける。煌めいた吐息は火を割り、仲間を揶揄うヴィゴの腕を露わにする。
「おぉーっ!」
ベルンハルトは感嘆の声を上げ、ヴィゴは少し顔を歪ませた。
リーリャは法衣から出した細腕で、二股になった炎を薙いだ。焚火は小さく鳴って、一瞬で消え去る。
火の消えた森は暗く、ただ虫の音だけが響いた。焦げ臭い夜風が鼻を擽って、どこか遠くの木々を揺らしたようだった。
ベルンハルトは光を失い、何も見えなくなった真っ暗闇の中で、何度も瞬いていた。
「あっ! ちょ、ずりぃぞ、イェオリ!」
聞こえる声から、彼らが性懲りもなくじゃれ合っている事は容易に想像がつく。
「クソーッ!」
案の定。
暫くすると、悪態をつくヴィゴを嘲笑う、イェオリの押し殺した声が聞こえた。それに続くのは、漸く得た獲物を咀嚼する音。
「そんなもん食うと、腹を壊すぞ」
静かなエリゼオの声に、リーリャも笑う。
「これでお話できるかな?」
朗らかな声は真横から。
「お前らだけで盛り上がるなよー」
彼らの楽しげな様子に取り残された様な気になって、ベルンハルトは堪らず声を上げた。
「お前らだけ見えるのずるくない?」
項垂れると、足元で炭になった木々はまだ少しだけ赤く見えた。考えなしに手を伸ばすと、
「准将、焼けますよ?」
やんわりと制された。分厚い暗闇の向こうにエリゼオの気配を感じ、盲目のまま、手を伸ばす。何度か空を掴むと、手首を取られた。
「ヴィゴ、火」
エリゼオの冷えた声に、
「なんだよ。俺じゃなくてソイツに頼めよ……」
ヴィゴは不満そうに返したものの、上官の意に従って素直に指を鳴らした。
「おっ」
一瞬で炭に火が入る。
焚火は何事もなかったかの様に炎を大きくし、闇夜を再び赤く染め上げる。
イェオリは急激に明るさを増した炎に眩んだのか、頭を振り、ベルンハルトはヴィゴの大きな黒目が引き絞られるのを見ながら、数回瞬いた。
ゆらゆら水面の様に揺れる焚火の明かり。
やはり明るいのはいい。ベルンハルトは少し落ち着きを取り戻し、溜息をつく。
「不用意に手を出さないでください。怪我をしますよ」
エリゼオは上官に唸った後、薬のせいで酷くだるい身体を起こし、傍らに座るリーリャの肩に自分の外套を掛けた。
「ありがとう、中佐」
彼女は自身に掛けられたそれを掻き合わせながら微笑む。エリゼオはそれに無言で答え、直ぐに目を逸らした。続けて、漸く勝ち得た干し肉を満足そうに咀嚼する男を見下ろし、鼻筋に皺を寄せる。
「イェオリ」
「ん?」
「見苦しい」
エリゼオは呆れた様に溜息をついて、腰袋から布切れを引っ張り出すと、彼の胸元を指しながら投げつける。
「別にいいだろ」
イェオリはそれを面倒そうに受け取って、胸元に落とした油をおざなりに払った。それで満足したのか、彼は布も直ぐに放って酒瓶を呷った。喉を鳴らし、次いで脂と煤で汚れた手や腕を舐め始める。
「ふふっ、ホントに猫ちゃんみたい」
リーリャが目を細めれば、
「ホラな」
ヴィゴが酒瓶に口をつけたまま、顎先を上げた。
イェオリは些か微妙な表情を作ったが、口は開かない。代わりに彼の相方は満足そうに目を細め、また酒で喉を焼く。そうしてその橙に招来師を映すと、緩めていた口元を歪ませ、あからさまに不機嫌そうな表情を顔面に張り付けて、
「で? 俺の邪魔してまで話したい事って何?」
リーリャを睨んだ。
柔らかな炎の向こう。揺らぐ空気を映す彼の大きな目が、猛禽のそれを彷彿とさせる。彼女は少し困った様に眉を下げて、相性がいいとは言えない黒騎士の顔を見た。
「やっぱりヴィゴ君は凄いね。呪葉なしで精霊さんを操るなんて……、あたしにはできないもん」
リーリャとしてはただ彼の実力を讃えたに過ぎなかったのだが、受ける男はごねる子供をあやす様な扱いを受けた、とまた気分を害した。
「……」
苛立ちに犬歯を覗かせ、橙の大きな目を眇める。
これが黒騎士でなければ容赦なく首をへし折ってやるのに、と思うが、残念ながら彼女は上官の寵愛を受ける黒騎士で、大尉。現に今も、招来師の隣で眉を寄せるベルンハルトの無言の威圧と、何より彼の内に宿した弁柄色の猛獣の、頭部を射抜きかねない視線が、これ以上口を開くな、と言っていた。
己より若くとも彼らは上官。二人の怒りを買うと後々面倒なことになる。折角の楽しみを邪魔され、言ってやりたいこともあったが、ヴィゴはリーリャから目を逸らさざるを得なかった。
「ずりーぞ、エリゼオ」
涼しい顔をして酒を呷る歳若の上官に、ヴィゴは恨みがましい視線を送る。
「贔屓すんな」
イェオリの様に唸れば、
「お前も可愛ければよかったのにな」
眇められた弁柄が、肢体を舐める様に這い上ってきた。
己の身体を値踏みする『男の視線』を感じ、本能が警告を発する。ヴィゴは粟立った背筋を震わせ、大きな目を更に見開く。
「その目止めろっ! こえーよっ!」
思わず叫んで立ち上がれば、エリゼオは揶揄する様に鼻を鳴らし、イェオリは、ざまーみろ、と声を上げて笑った。
「で?」
眉一つ動かさず捻くれた黒騎士の注意を逸らしたエリゼオは、リーリャに向けて顎をしゃくる。
その脇で、
「お、俺、汚されたっ!」
「アハッハハッ!」
ヴィゴは青ざめ、イェオリは笑い転げていた。




