表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の雄羊  作者: みお
第1章
13/64

第10話  要塞都市アルゴ(7)黒騎士とは。

 第三領は元々、犯罪者を隔離、収容する為に造られた施設が立ち並ぶ場所だった。そこには勿論看守が居て、古参衆と呼ばれる、犯罪者の中でも古株のモノ達が区画の長をまとめていたと聞く。それなりに統制の取れた地域であったのは間違いない。

 王はそこに城を建て、変り者で有名な彼の次女にそれを与えた。そして彼女に、収容所を取り仕切る様に命じる。彼女は体よく都を追い出された格好だったが、文句の一つも言わなかった。彼女は彼女なりに居心地の悪さを感じていたのかもしれない。

 こうして収容所は第三領の名前を得た。

 それがいつしか“雑じり”と呼ばれる、リトラのニンゲンではないモノ、異種族の血が混じるモノ達が追いやられる場所になった。それは排他主義の現総司祭長が王の側付になってからだ、と聞くが、正確な事は誰にも分からない。

 都のモノ達が言う“純血でない彼ら”の多くは訳ありで、行く当てもなく、獣の脅威に晒される国外より、犯罪者と共に生きる道を選んだらしい。



 アラヤは遠くを見つめ、周りの雑音をなるべく断つ様に心がけた。



 第三領内に国の法は当てはまらない。そこで生活するモノ達は独自の規則を作り、独自の階級制度を維持し続ける。弱いモノは強者に搾取され、追いやられても文句も言えない。それが当たり前。

 まるで野生の獣だ。

 結果、力のないモノ達は都の城壁を背に、外へ外へと己の領土を伸ばし、外敵から身を護る為に高い外壁を築いた。

 その後流入したモノ達は更にその外へと生活圏を伸ばし、同じく身を護る為に外壁を立てる。それが延々と繰り返されるうち、第三領は住まうモノ達でさえ迷う、高い、高い外壁に囲まれた迷宮都市となった。

 一度迷い込めばどこへ行っても袋小路で、永久に出ることは叶わない。完璧なまでの牢獄。ヒトとしての権利などないモノ達が築いたその場所を、都のモノが侮蔑を込めて“壁”と呼ぶのはその為だった。



 何時だったか。教えて頂いた瞑想を意識してみることにした。それは眼前の世界を離れ、思考の世界へ入ることだった様に思うのだが。

 アラヤは己と会話し、現実から少しでも遠くへ行こうと試みていた。



 壁は暗がりばかりで治安は悪く、衛生面でも最悪の一言に尽きる、と聞く。

 そんな第三領を守護する黒騎士は、当然の如く雑じりで構成された残忍な集団。犯罪者をも有する彼らが、どれ程危険で粗暴かは想像するに難くない。

 それでも、彼らは都に出入りし、王の謁見を賜る地位までも有しているらしく、何時だったか、友人が興奮気味に彼らの話をしていた。へんてこな姿形をしていて、酷く醜悪だとか、不躾な連中だとか、なんとか、かんとか。

 実際に出会うまで、戦々恐々としていたのは事実だ。

 しかし、アルゴにも雑じりは多いので、別段驚くことはなかった。

 確かに“雑じり”と呼ばれるモノ達の姿形は様々で、都に居を構えるニンゲンとは違う。多くは毛色が奇抜だったし、体つきが普通ではない。それは獣寄りだったりもしたが、交わればニンゲンと変わらず、見目など直ぐに慣れた。都のモノ達がなぜ彼らをそんなに嫌うのか、と、今では不思議に思える。

ただ、こと黒騎士に関しては悪名が悪名だけに、信頼してもいいものか、悩むところではあった。なんせ怒れば獣の様に唸り、止められていなければ、今頃この首は胴と泣き別れていた筈だ。



「……」



 考えを巡らせるアルゴの町長は、黒騎士の集団に取り囲まれ、冷や汗を流し続けていた。なんとか逃避し、平静を装おうとするが難しい。なにぶん過るのは如何に黒騎士が凶暴か、如何に真面でないか、と言うことばかりで、これでは一向に救われない。



―――どうしてこうなった。



 都のニンゲンよりもずっと背の高い黒騎士達は、目を合わせようともしないアラヤを取り囲み、ニオイを嗅いでみたり、引っ張ってみたり。吟味する様に眺めては、首を傾げる。

 話を、というから付いて来てみればこれだ。突然猛獣の群れに放り込まれ、群がられるままにされている。結局彼も彼らと同じ。長であろうが黒騎士で、雑じりに違いなかったと言う訳だ。



―――もしかしたら、町に別の獣を呼びよせただけかもしれん。



 灰目で笑むベルンハルト、弁柄に揺らぎを見せるエリゼオの顔を思い浮かべ、アラヤは心底落胆した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
 
楽しんで頂けましたか? ご評価」「ご感想はお気軽に!評価ボタンは最新話下部にございます。
 
↓ぽちっと投票お願いいたします。
 
cont_access.php?citi_cont_id=197068864&s
 
小説家になろう 勝手にランキング
 
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ