01-共夢
system message
ドリーミングサーバに接続中……
接続完了、個人認証を開始します▽
認証中……
ユーザ名『ショウ』を認証しました▽
新規のバトルライセンスを検出しました、ファイターズサーバへ入場しますか?▽
ファイターズサーバへと接続します▽
ファイターネームを設定してください▽
設定が完了しました▽
ようこそ、ファイターズサーバへ……
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パブリックドリーミングシステム、通称PDS。
とある企業が開発したまさに夢のシステムである。
人が見る夢を自在に調整できるシステムを応用し、何人もの人間で一つの夢を共用できるようにしたものだ。
そして夢の中であらゆる事が再現できる事に着目して始まったサービスがD-combatだ。
このD-combatは専用のサーバが用意され、そこにアクセスするとそれぞれのユーザIDに応じた特殊能力が付与される、ファイターたちはその特殊能力を使って夢の中で戦う事になる。
『ここで新たなファイターが参加!コイツはルーキーか?称号無しの若きファイター「ショウ」の登場だァ!』
頭上のモニタに俺の姿が映し出され、実況がやかましく騒ぎ立てる、このサーバでの戦いは観客サーバへと中継され、多くのユーザが観戦する事になる、そして彼らはユーザ同士の戦いが始まると好きなユーザに持っているポイントを賭ける、敗者と彼らのサポーターはポイントを減らされ、勝者とそのサポーターにポイントが入るのだ。
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unknown user他2名より合計1500ptのベットを確認▽
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振り向くと、刀を持った男が立ってこちらをニヤニヤと眺めていた。
「悪いな、初心者狩りって奴だよ」
彼の頭上に浮かぶベットpt数を示すカウントがチマチマと上がっている、俺のptはそのまま上がらずにいた。
「雨の太刀、【斬り雨】!」
男が叫んで抜刀する、無数の斬撃が飛びその内の幾つかが俺を掠め、後方のビルの外壁を切り刻んだ。
「腕慣らしさ、次行くぞ……【刺雨】!」
今度は刀を突き出すように振る、無数の針のようなモノが飛び、俺へと襲い掛かった。
「風の太刀、【閃風】!」
今度は横の大振りだ、どうやら天気に因んだ技を刀を通して飛ばせる能力らしい。
「……なぁんだ、避けれるのか」
思わず回避行動を取った俺を見て男が舌打ちをする、今のは食らってたら間違いなくアウトだった。
「大人しく狩られろよ、こっちが困るんだ」
男が刀を鞘に戻しながら再び構えを取る、俺も合わせて臨戦態勢に入る、初心者狩りが横行してるのは噂通りだ、まったく問題無い。
「晴の太刀、【燦々】」
抜刀と同時に眩い光が辺りに満ちる、思わず手を使って光を避けた所に男が距離を詰めて来た。
「雷の太刀……」
男の台詞が止まる、いや、振り上げた刀が何かによって止められたため次の技を繰り出せないでいるのだ。
「まったく、説明書の開き方ぐらい登録の時に教えてくれりゃいいのに」
やっと判明した自分の能力を発動し、男の刀を受け止めた、ただそれだけの事なのだが観客サーバのモニターの向こう側が騒めくのを感じ取った。
「なるほど、念動力者の一種か……けどこの程度ならレベル補正で何とでもなるぞ」
男の刀に電気のような光が走る、飛び退くと同時に俺がさっきまでいた場所に轟音を立てて雷が落ちた。
「馬力としては振り切れないものではないみたいだな……」
次の攻撃が飛んでくる、今度は氷塊だ。
しかし氷塊は俺に当たらずに眼前で静止する、俺が試しに「能力」を使って止めてみたのだ。
「わざわざ弾を用意してくれるなんて、親切な初心者狩り様だな……」
説明書の通り、目の前の物体をどう扱いたいかをイメージする、氷塊を砕くイメージで手を中空で握ると氷塊は砕けて破片を辺りに撒き散らした。
砕けた破片は周囲に浮き、留まった。
イメージ通りだ、これならいける。
「まずい……晴の太刀【炎天】」
男が刀を振る前に氷を飛ばし、刀身に直撃させる。
鈍い音を立てて氷と刀がぶつかり合った、ワンテンポ遅れて氷が熱気に溶かされるが、俺は既に次の弾を用意していた。
「瓦礫……?」
男が初撃で刻んだビルの破片だ、慌てて刀を構える男に一斉に瓦礫が襲いかかる、男の悲鳴が短く響き、団子状に固まった瓦礫の中心で閃光が走った。
『オフィスビルエリアで始まっていた戦闘に決着が付いたようだァ!対戦カードは初心者狩りの【天刀】「シンヤ」と登録したてのルーキー「ショウ」だったが結果はなんと、ショウの大勝利だァ!彼に賭けてた3名は大量にポイントをゲット!さらにショウもファイトポイントを取得だァ!』
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ポイントが加算されました▽
所持ptは現在5000ptです▽
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デビュー戦にしてはまぁまぁ貰えた方だろうか、まぁまだ対戦相手を探す時間はあるから充分だろう。
言い忘れてた、このゲームにはもう1つ特徴がある。
さっき貰ったこのポイント、実は現実世界の現金へと替える事ができるのだ。
俺がこのゲームに参加したのはそれが目的の1つだ。
夜は長い、これからゆっくりと小遣い稼ぎでもやっていこう。
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「いいねぇ、強そうな感じで」
「シグマ様、また倒したりしない様にお気を付けてください」
念動力で刀の男を倒したルーキーが歩き去るのをビルの屋上から眺める少年が横に浮く半透明の少女と話していた。
「分かってるよ、アイ」
無機質な視線をルーキーへと向ける少女へ少年が返事をした。
「でも、僕にやられるようじゃ目的は果たせないんじゃないかな」
そう言うと少年は笑って屋上の縁ギリギリに立ち上がった。
「さぁ、行こうか……スカウトに……」
そう言って少年は少女の方を見る、彼女が頷くのを確認すると少年は屋上から何もない空間へと一歩踏み出した。