第90話 戦い(陰から見守る臆病な男視点)
「力づくでも通させてもらうよ」
「ならば、力づくでも止めさせてもらうぜ」
ミリー、健の2人の間でバチバチという火花というよりも不穏な空気が流れてきた。
俺は、陰でその様子を見ている。
止めたいが、止めるだけの勇気が俺にはなかった。
俺がヘタレだと言われたとしても「はい」としか答えようがない。自分の弱さが情けなく思える。
俺が自己嫌悪に至っている間にも2人の間には不穏な空気が流れる。そして、それが戦いという形で実現する。
「ファイアボール」
ミリーが炎の玉を健に向けて放つ。
健は、びくっとする。
「漸!」
健は、腰にさせていた刀を抜く。そして、炎の玉を刀で真っ二つに斬る。
す、すごい。
影から見ていた俺はその光景に驚いた。刀で魔法を真っ二つにすることなんてできるんだ。
「やるね」
「流石王国の魔法専門家なだけありますね」
実力は拮抗していた。
その後も、ミリーが魔法を放つと健が刀で魔法を真っ二つにする。そのような戦いが続いた。
「やるね」
「やるな」
「私の魔力はまだまだあるよ」
「こっちこそ、俺の体力はまだまだあるぜ」
2人とも言葉だけは勇んでいた。しかし、その実2人の呼吸ははぁはぁと乱れていた。
ミリーの魔力はもうないのだろう。顔色が悪くなっていた。魔力が減った時の特徴だ。俺も、一時期魔法を使おうと思って練習していた時になっていた症状だ。
そして、健の方は刀で集中して魔法を真っ二つにしていた反動だろう。魔法を真っ二つにするためにかなり集中して体力を失っているはずだ。
2人の魔力と体力どっちが先に尽きるのか。その勝負になっていた。
「はぁはぁ、どうしたミリー顔色が悪いぞ」
「はぁはぁ、健そっちこそ息が乱れているよ」
「俺はまだいけるさ!」
そう言って健は刀を持つ手に力を入れ、ミリーとの距離を一気に縮める。
「食らえよ」
刀を思いっきり振りかざす。
「やらせないよ! クイーンズ・シールド!」
「ぐぅ」
カーン
甲高い音がする。
健の攻撃は防がれた。
ミリーと健の間に巨大な盾が出現する。
その巨大な盾によって攻撃が防がれた。ミリーは最後の最後に必死な思いで健の一撃を防いだようだ。
「これを止めるか」
「これでも、私魔法に関してはプロだからね。あなたが元勇者だったとしても負けるつもりはないわ」
ミリーの表情はかなり苦しそうだが悪態をつく余裕があるようだ。
「勇者だったころの力はないから、それに対して勝ち誇られてもな」
健は健でミリーの悪態に対して嫌味を返す。
俺はずっと陰で見ているのが恥ずかしい。やはり、あいつらの戦いを止めに行った方がいいのだろうか。
「でも、怖いな」
俺は吐露する。
「ねえ、カズユキはずっと隠れているの?」
「いや、出ていきたいけど……ん?」
後ろから声をかけられた。
「ユエ?」
「そうだよ」
俺に声をかけてきたのはユエであったのだ。




