第86話 予想もしていなかった再会
ルミエに化けていた女の正体。
その正体を見て俺と健は驚いた。そう、その正体は──
「み、未来!?」
「うそだろ、どうして未来が……」
そう、その正体は高橋未来。俺の最愛の彼女であった。あの時、国王によって無理やり奪われ監禁されたはずの俺の最愛の彼女。未来であった。
「あの人が、カズユキの彼女の未来?」
「何で、敵にいるの?」
「確か、国王によって幽閉されていたはずなのに?」
ユエ、ミスティル、そしてミリーが口々に感想を言う。
ミリーも驚いていた。自身が王城にいたころに幽閉されていたのを見たと言っていた。しかし、それが違ったということに驚愕を覚えているらしい。
「というか、妻ってどういうことだよ! 国王には妻がいただろ! それなのにどうして未来が妻になっているんだよ!」
俺は再び怒りで我を忘れる。怒鳴りつける。大きな声で国王に対して精いっぱい文句を言う。
「そんなの前の妻なんてもう中古なんだから捨てたに決まっているだろ」
最悪な奴だ。
辺境伯の妻、アイーシャ。彼女の妹リンが無理やりあのクソ国王の妻にさせられた。それに対して復讐したいと話をしていた。その時の顔を今でも覚えている。
それを捨てた。
無理やり妻にした女を捨てた。
ありえない。許せない。何ていうクズだ。クズ男だ。
「ふっざけんなよ! 捨てた! 中古だ! 無理やり妻にさせたリン王妃に対してそんな仕打ちはないだろ! それに未来を妻にした、だと! それってロリコンなのか! やーい、クソロリコン国王!」
俺は、怒っているが、後半部分は子供っぽくてもいい国王の悪口を何としても言ってやる。そう思い、悪口を言った。
「ああん? 何だとおら!」
国王は悪口に対してのった。安い挑発のはずだったのにのった。何て、沸点の低い国王なのだろうか。まあ、俺も人のことを一切言うことができないんだけどな。
「国王様。和之の安い挑発ですよ。乗らないでくださいね」
未来が言う。
その言葉は国王に対して優しい声であった。無理やり国王の妻にされていると思った。しかし、今の声を聞いてしまうと無理やり妻にされたのか疑ってしまうような態度であった。
「未来、お前」
「私は自分の意思で妻をしているの。和之。私にもう関わらないでね」
それは和之への明確な拒絶であった。
「う、嘘だろ」
俺はその言葉にショックを受けていた。
俺はその場に倒れる。
「カズユキ、落ちついて」
ユエが俺の側に来て声をかける。
「国王、何をお考えか!」
ミスティルが叫ぶ。
「私の命令を素直に聞くことができない出来損ないか。よくもまあ私の前に顔を見せることができるものだ。同じ王族とは思いたくはないな」
国王はミスティルを苔下す。
かなりひどい言葉であった。
「私もあなたと同じ王族であるとは思いたくもないね」
ミスティルも負けずに国王に対して悪口を言う。
「威勢がいいな。まあ、威勢がよくてもこの状況はどうにもできないだろう」
そうだ。
俺達はこの状況をどうにかしなくてはいけない。今、俺達は敵の本拠地にいる。王国軍の主要人物がいる中にいる。
どうにかここから脱出しなくてはいけない。
「逃げなきゃか」
「だね」
「逃げられると思うか?」
国王が挑発的に言う。
「逃げてやるさ」
俺は何も考えていないのに堂々と逃げると宣言する。
そう。何も考えていないのに自信満々に逃げると宣言してしまった。
本当にどうしよう。どうやって逃げればいいんだろうか。
ねえ、誰か助けてくれよ。
健の方を見る。
健は首を横に振る。
ユエを見る。
ユエも首を横に振る。
ミスティルを見る。
ミスティルも首を横に振る。
ミリーを見る。
以下同文。
全員がこの状況をどうにかしなくてはいけないということを理解しているはずなのにうまく逃げ出す手が思い浮かんでいなかった。
誰か本当に助けてくれよおおおおおおおおおおおおおお。
俺は心の中で1人叫んでいたのだった。
「助けてやろうか?」
「え?」
急に声がした。
誰だ。
まったく知らない男の声であった。でも、藁にも縋る思いで俺は助けてもらいたいから頼む。
「助けてくれえええええええええ」
「いいだろう」
次の瞬間、俺達の周りを光が囲んだのだった──




