第85話 裏切り者
俺達の目の前にあいつが現れた。
俺の憎むべき相手。俺からすべてを奪ったあいつ。俺から未来を奪ったあいつだ。
「クソ国王め」
「ほお、そんな態度で接してくるか。さすが反逆罪のゴミクズだな」
「クズはお前のことだろ」
俺は、悪態をつく。
いや、本音だ。俺が思っている恨みつらみをすべてぶつける。
「落ち着け、和之。あいつはそんなこと言っても何も思わないぞ」
健が俺を諫める。
しかし、俺の怒りは収まることを知らない。怒りを収めることができない。
「カズユキ、落ち着きなよ」
ユエにも言われる。
「落ち着いていられるかよ」
俺は、誰に言われてもこの怒りを収めることができない。
「ダメだこりゃ」
健がそんなことを言った。
俺の怒りが収まらないことを察したのだろう。
「ねえ、勇者殿」
「ん? どうしたミスティル?」
「おかしくない?」
「……何が、と一応聞いておこう。俺もなんとなくだがわかるが」
「さすがだね。やはりわかっていたのね。どうして私達はここに出たのかな。しかも、運よく国王まで出てきて」
「え?」
ミリーが驚いていた。
「ミスティル、何を言っているの?」
ユエも言っている。
「わからないの? ここに来たことが本当に偶然なのかって言っているのよ」
「ああ、俺もそう思う」
ミスティル、健の2人の意見が一致しているようだ。
「何を言っている。健、ミスティル?」
俺は、怒りで我を忘れていたが2人のその話を聞いて無理やり理性を取り戻された。
「おう、正気に戻ったか。まあ、すぐにまた怒ると思うけどな」
「うるさい」
「俺が何を言いたい、か。それはミスティルに言わせた方がいいかもしれないな」
「ええ、私から言うわ。私はずっと不思議に思っていたの。私も王族の1人なのに隠し通路について全然知らなかったの。それを普通の人が知っている。これがまず違和感の1つ目。次にこんなに分岐が多い道だから迷子になる。それは分かる。でも、迷子の先がこんなピンポイントで王国軍がいる場所に当たる? まあ、王国軍だけだったらよかったのかもしれない。でも、そこに国王がいる。それって偶然なの? ねえ、ルミエ。あなた本当は知っていたんじゃないの? ここに国王が来ることを」
「……」
ルミエは黙っていた。
不自然な沈黙であった。
「ダンマリしているの?」
ミスティルが言う。
ミスティルが次の言葉を言う前に健が横槍を入れる。
「もう、いい単刀直入に聞こうぜ。おい、ルミエ。お前実は最初から国王のスパイとして俺らのもとに来たんじゃないのか?」
「なっ!?」
「え?」
「う、うそ?」
俺、ユエ、ミリーの3人が驚く。驚愕する。
「……」
ルミエはずっと黙っている。
「いい加減に話せ! お前の正体はもうわかっているんだよ!」
健が強い口調で言う。
「……へえ、良く気付いたね。私が国王陛下のスパイだということに」
ルミエは、素直に話す。
自分がスパイであることを。
「ほ、本当なの?」
ミリーが言う。ずっと、一緒にいた相棒とも言うべきルミエが敵方だったとは思わなかったのだろう。衝撃を受けてその場にうずくまった。
「おい、ルミエ。何で、何でそんなことを!」
俺は叫ぶ。
ルミエがどうしてそんなことをしているんだ。そんなことをしているなんて信じたくはない。
「いい加減に気づけ! 私の正体はルミエなんかじゃないんだよ! ああ、この顔ももうあきたわ。私は国王陛下の寵愛を受けた妻なんだよね!」
ルミエ、ではない女が魔法で顔などを全部ルミエにしていたみたいだが、その魔法を解く。魔法を解いてルミエだった女の体は光る。
そして、本来の姿が俺達の前に現れる。
「え?」
「うそ、だろ?」
その正体を見て俺、そして健の2人は驚愕する。
ルミエに化けていた人物。その正体は──




