第84話 隠し通路にて3
「さあ、王城へ向かうぞ!」
『おおおおおおおおお』
再び気合を入れて真っ暗な隠し通路を歩きだす。
火魔法で明かりをともしているがそれでも明るさは申し訳ない程度である。
「……」
「…………」
みんなして黙々と通路を進んでいる。通路で会話することも特にないからだ。だが、黙々と進んでいる子の時間は何ともつらい。
確かに敵が近くにいたらうるさくしてはいけない。でも、実際に静かに行動しているとなると本当に時間が長く感じる。この沈黙がなかなかつらい。
「ねえ、何か話ぐらいしようよ」
俺は、沈黙に耐えられず話始める。
「いや、静かにしろよ」
「は、はい」
健に思いっきり怒られてしまった。
今までで一番大きな声だった気がする。迫力もなかなかだった。
俺はかなり怖くておびえてしまった。
「そんなに怒らなくてもいいじゃないか」
一応文句を言う。
「そうは言ってもなあ。いつ、敵が出てくるか分からないからな。緊張感は持っておいた方がいいぞ」
「そこの勇者の言うとおりね」
ユエが言う。
「そうだね」
ミスティルも言う。
「ルミエ、あとどれくらい?」
ミリーがルミエに聞く。
「うーん、もう少しで王城に着くはずなんだけど……」
やはりルミエはこの地下通路で迷子になっているのではないか。俺はそう思ってしまう。まあ、迷子だったのは事実だったんだが、それでもどうにかして王城についてほしいものだが。
「あ! あと少しで着くよ」
ルミエが叫ぶ。
俺は、ルミエの前方を見る。前方から光が漏れていた。
「お、これは出口か」
「どこに出るんだか」
「いい場所だといいね」
みんなで口々に言う。
「さあ、どこだ!」
俺らは、王城に出たと思って堂々と出口を出る。
「え?」
「え?」
「ええ?」
「ええ?」
「ん?」
俺、ミリー、ユエ、ミスティル、健の順に驚く。
王城に無事に出られたから驚いた。それだったら何ともよかったことだか。つまりだ。俺達にとってはよくない出口であった。
まず、王城ではなかった。
それについてはあんなに迷子になっていたのだから仕方ないのかもしれない。無事に王城に出られたのなら何ともラッキー。そう思えばいいぐらいだと思う。
じゃあ、よくわからない場所に出た。それならばまだよかったのかもしれない。王都のどこか違う場所に出たのならばまだよかったかもしれない。王都の廃墟とかどこかの家とかお店の地下とかそのような場所に出ていれば何ともよかったのか。
じゃあ、俺達が出たのはどこか。
それは……
「おうおう、まさか敵さんが本拠地に出てくるとはな」
「カモがネギをしょってきたぜ」
「えいえい、やってやろうじゃないか」
「おうおう、かわいい女の子もいるではないか」
「いひひひ」
「ごくりっ」
「げへへへ」
俺達が出たのは敵の本拠地すなわち王軍の本部だった。
敵方の司令官や幹部がいる。三下っぽい奴もいるが。
そんな敵方の本部に運悪く出てしまった俺らはかなり運が悪い。何ていうことだ。
これは、完全にピンチだよな。
「……ヤバイ」
「万事休す、か」
「ど、どどどどうするの」
「に、逃げよう」
「今すぐに隠し通路に戻ろう」
俺、健、ユエ、ミスティル、ミリーが提案する。
ルミエだけは神妙な顔をしている。一切言葉を話さない。
不思議だ。何でだろうか。
「逃げるのか? 逃げられるものなら逃げてみろよ」
司令官らしき人物が言う。
「くくく、お前らはすでに我の策にはまっていたのさ」
司令官の言葉の後に奥から来た男が偉そうなことを言ってくる。聞き覚えのある声で会った。その声は俺が嫌というほど忘れることができなかった声だ。俺の憎むべき敵。俺の復讐の相手。俺から彼女を奪ったあいつだ。
そう。
俺の前に現れたのは……
「国王!」
俺からすべてを奪った敵、あのクソ国王その人であった。




