第80話 黒幕
健は話の続きをする。
「俺が異世界から元いた世界に戻ったのは中二の時。そして、それから3年。今の高校2年になったある日のことだ。俺の夢に毎夜毎夜ある人物が現れるようになった」
「ある人物?」
「ああ、その人物が言うんだ。俺に。許さん。ああ、許さんぞ。我は許さん。絶対に許さん。貴様に不幸があることを。貴様の親しい人物にも不幸を与えるぞ。そんな言葉を毎夜毎夜聞かされた」
健は、おぞましいような言葉を繰り返す。
ただ、そのおぞましい言葉をずっと言われ続けていたと思うとぞっとしてしまう。
「ああ、その人物というのは俺が倒したはずの魔王だ。その魔王が夜な夜な俺の夢の中に出てくる」
「ま、魔王!?」
「肉体は消滅させたが、精神は消滅させられなかったという話をしたな。だから、その魔王の精神だけが俺の元にやってきた。俺に呪いをかけようとしているみたいなんだ」
「じゃあ、その呪いにより俺達がこっちの世界に転移したことに関係しているのか」
「ああ。だが、呪いと言ったが執念でもいいかもしれない。精神だけになった魔王はある人間に憑依している。その人間は、自身の地位を利用して勇者召喚を行い、俺を、そして俺の大切な友人を再びひどい目に合わせるためにこの世界へと呼びだした」
「あ、ある人物に憑依?」
「ああ、ある人物に憑依だ」
健は、ある人物と言った。
その人物は一体誰なんだ。健は、その人物のことを知っているということなのか。そいつがすべての元凶。黒幕に当たる人物ということなのか。
「そいつは誰だ?」
「何となく予想はついているんじゃないか。そんな権限がある人物。そんな権限がある人物はこの王国にたった1人しかいないだろ」
「……あのクソ国王か」
「……ああ、そうだ」
あのクソ国王がすべての元凶。魔王でもあったのか。確かにあいつぐらいしかいない。このようなことができるのは。
「じゃあ、あのクソ国王に魔王が宿りいろいろな悪さをしているということなのだろうか」
「まあ、普通に考えればそうなのだろう。ただ、もともとあの国王は不人気だったから、悪さの度合いは、魔王が宿ったことでさらにエスカレートした。そんな感じなのだろうな」
「もともと悪い奴がさらに悪くなったか。闇落ちというわけじゃないけど強化されて面倒くさいな。じゃあ、あの国王も何かしらの攻撃とか手段があるのか?」
「魔王が宿っているということは魔王の能力を発動することができるはずだ。それはかなり厄介だ。俺が昔戦った時、殺すことができなかった。あまりに強力な闇魔法。あれは今でも鮮明に覚えている。かなり厄介な相手だ」
「じゃあ、作戦はうまくいかないんじゃないか?」
「いや、作戦はそのままだ。和之は作戦通りに動いてくれ。俺は、あいつと直接対決をする」
健の覚悟は決まっているようだ。目を見るとまっすぐ前を見ていた。覚悟が決まっている。絶対に。
「わかった。その覚悟しっかりと受け取っておく。俺は未来を助ける。そして、健は国王を倒してくれ」
「ああ。わかった」
俺と健はお互い拳と拳を合わせる。
さあ、いよいよ作戦の実施が始まるのだった。




