第77話 夢
作戦会議でまったく話を聞いていなかったカズユキ。もう一度話を聞かされた結果、夜遅くになってしまった。
「はぁ。まったくあんなにガミガミ怒らなくてもいいし、それに長々と説明してこなくてもいいじゃん」
俺は、今泊っている館に設けられた俺専用の部屋に戻ってからさっきの会議の愚癡をこぼす。
もちろん、個人の部屋だからこそ愚癡をこぼしているのであって実際に他の人がいたらそんな愚癡を言うつもりはない。……うそだ。言うかもしれない。
ただ、明日は早い。
とにかく休もう。
俺はそのまま眠りに着いた。
その日、懐かしい夢を見た。
それは、俺がまだこっちの世界に転移する前のことだ。まだ、一人称が僕であった。ただ、今思い返してみると僕という表現はかなり子供臭く思えてしまう。俺ってずっと言っていればよかった。
いや、そんなことはどうでもいい。
懐かしい。思い出それを夢見ていた。
◇◇◇
「……ゆき、和之! 和之起きてる?」
「ううぅ、はぁぁぁー」
「起きたね。和之」
「未来?」
それは、ごく普通の日常だった。
俺が放課後寝過ごしていた日があった。最後の授業があまりにも退屈で先生から強力な催眠魔法をくらったかのようにぐっすりと眠ってしまった。
「未来だよ。まったく今何時だと思っているの?」
「うー、何時だ?」
俺はまだ寝ぼけていた。
思考が回っていなかった。
「5時だよ。5時。校庭ではもう陸上部とかサッカー部とか野球部とかが部活しているよ。音楽室から楽器の音もしているでしょ。完全に部活の時間になっているから早く帰ろう」
「ああ」
俺は部活をしていなかった。
帰宅部のエースとか痛いことを言っていた。
今なら反省しています。はい。
夢なのに気持ちが今にあるから変なところにツッコミをつい入れてしまう。もっとしっかり夢を見なくては。
「ねえねえ、最近健の様子どう?」
未来がそんなことを言ってきた。
「様子って? サッカー部のエースとして調子いいらしいよ」
俺は健の最近の様子を未来に伝える。
「そんなことぐらい知っているわよ。私だって同じ学校にいるのだし、健とも話をすることもあるから。そういうことじゃなくて私は女子だから健だって私に話せないようなことがあるでしょ。男の和之にしか話せないことが」
「ええ、それって健の好きな女子の話とか?」
俺がそう言うと未来が赤くなった。
「そういうことじゃないわよ! なんで、すぐそういうことにつなげるわけ。私が話しているのは健が悩みとかないのかっていう話よ!」
未来に怒られてしまった。
「悩み?」
そして、未来の話、質問に対して質問で返してしまう。
「悩み。順風満帆に見えているけど、この間町で一人歩いていた健がかなり暗い表情をしていたんだよ」
「暗い表情……健なんか嫌なことがあったのか?」
健がそこまで思い悩んでいた悩みがあったとは俺は知らなかった。
友人としてかなりダメだ。あまり人の奥に入り込みたくはないが、心配なものがある。健が何に悩んでいるのか今度聞いてみよう。
「今度聞いてみることにするよ」
俺は、未来に聞いてみることを約束する。
「うん、お願いね」
未来は笑顔で喜んでくれた。
男にしか話せないことがある。よくわかる。
明日にでも健に話をするか。帰り道とかいいよな。明日は確か部活がなかったはずだ。
しかし、その悩みを結局は聞くことができなかった。
この出来事があった次の日、俺らは異世界に転移する。
異世界転移のごたごたで話をすることができなかった。
ああ、この夢から目覚めたら気になったし、作戦の前に聞いてみてもいいかな。
◇◇◇
「はぁあー」
目覚めた。
夢の内容はよく覚えている。
健に聞きたいことを覚えている。
聞いてみることにしよう。
俺は、健にこの夢に出てきた時のことを聞くため健の寝ている部屋に向かったのだ。
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