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第7話 医務室へ

 異世界生活2日目。

 僕達は起き上がると、城の者が用意をしてくれたという服に着替えて朝の食事を取るために大広間に再び向かった。そして、国王は今日は政務があるとのことで同席はしていないため僕達だけの朝食が始まった。その時に、僕は昨日あることを思った。あの国王が何となく気に食わなかったのだ。話し方や感じとしては悪い人には感じなかった。しかし、どうも僕の中ではあの国王を完全に信用するに値するかといわれれば無理だという拒絶反応を起こしていた。いったいどういうことか。あの国王はいったい……


 「……ゆき、和之! 人の話聞いているの!」


 僕が国王について考えながら飯をとっていると未来に声を掛けられていた。


 「えっ! あっ、なんだよ未来?」


 「和之がご飯食べながら何か心ここに非ずの状況だったから心配して声をかけたんだよ。大丈夫? 部屋にでも帰って横になる?」

 

 僕が国王についていろいろと考えていた少しの間、僕の朝食を食べる手は止まっていたため未来は僕が調子が悪くて朝食が食べられないと勘違いをしたみたいだ。


 「いや、ちょっと考え事をしてただけだ」


僕は、未来に対して歯切れの悪い答えをする。

 未来はそんな僕の言葉に少しばかり不信感を抱いたのか、僕の言葉が本当であるのかまだ納得できていないみたいであったが、それ以上は追及することはなく再び朝食へと戻った。


 さて、朝食を食べ終えた。

 僕達は、正確に言うと健はこの世界に勇者として呼ばれたわけであるから魔王を倒すために魔法を覚えたり、剣術を覚えたりしなければならない。その修行に僕達も同席することになった。なんでも、一緒に呼ばれたということだから君達も勇者のようなものとして一緒に旅をして魔王を倒さないかとのことらしい。まったく、勝手にこっちの世界に呼び出しておきながらその言い方はないのではないか。こっちの世界の人間の常識というか人間性を疑ったところでどうにもならないので僕はぶつぶつと文句を言いながらも修行をすることにする。それに、覚えておいて損にはならないと思うからだ。

 というよりも、無理やり魔王を退治に行かせるのであれば僕も覚えなければならないに決まっている。健についていくだけついて行って足手まといになるのは嫌だ。


 「はぁはぁはぁ」


 僕は、魔法を覚えるよりも先に剣術の方から練習をしている。

 ちなみに今、汗だくだくだくになって剣のすぶりをしている。


 「1万219、1万220、1万221……」


 おかしなぐらい素振りをさせられ続けている。人間普通1万回とか素振りをすることができないだろ。俺の腕はもうすでに筋肉痛を一回り超えた感じの極限状態の痛みを味わっていた。こんな痛み本来の人間であれば味わうようなこと絶対にない。この鬼みたいなメニューいつになったら終わるんだ。


 「ほら、手が止まっているっ! ちゃんと動かせ」


 教官が僕に対して文句を言ってくる。僕は、その言葉を聞いて再び無理をして手を動かそうとする。しかし、もういろいろと限界だ。

 

 「む、無理です。ミリー教官」


 僕は、教官の名前を呼んでどうにか終わらせてくれるように志願する。

 ミリー教官というのは僕の訓練を指導してくれている教官だ。王国の中でも随一の騎士であり、女性最強と言われている。顔も未来には劣ると僕は勝手に思っているが、客観的にみるととても美しいのが事実だ。年も僕らよりも2つ上であるということでお姉さんという雰囲気を持っている。体のスタイルもとてもよく、もしも僕に彼女がいなかったとしたらメロメロになっていたかもしれない。


 「はぁ~。まったくカズユキ。お前はもっと体力をつけておくべきだぞ。もう勇者殿とは比べものもないぐらいの力の差が出ている。勇者殿と一緒に旅に出るのであればもっとつらい練習をしないと追いつくことなど不可能だ。だから、頑張れ」


 頑張れ。

 応援してくれるのはうれしいが、もっと優しくはしてくれませんかとつい言いたくなる。だって、もっとつらい練習をしろ、だとさ。いや、もう無理無理。これ以上つらい練習とか考えたくはないし。っていうか、僕はインドア系だからアウトドアなことは本来ならば支度はない。部屋の中で本を読んでいるのがお似合いであると思っている。

 


 「む、無理ですよ~」


 僕は、最後にその言葉をミリー教官に向かって言うと、そのまま意識が遠くなっていく、そして、あるところで完全に僕の意識がなくなってしまった。そのあとのことは覚えていない。


 ◇◇◇


 「……ゆき、和之!」


 誰かが僕の名前を呼んでいる。いや、この声は未来の声だ。


 「ん、んん。ここは?」


 僕は起き上がる。


 「大丈夫なの和之? ミリーさんが、医務室まで連れてきたんだよ。和之が訓練中に突然倒れてしまったからここまで」


 僕は未来に医務室と言われて周りを見渡してみる。

 城を強調とした壁や天井を持つ部屋。ベッドも白の布団やシーツを持っている。元の世界において病院における病室をまるでイメージさせるかのような部屋は医務室と言われても違和感を覚えないだろう、まあ、本当に医務室であることに違いはないのだが。


 「僕はどれぐらい寝ていたんだ?」


 「そうね、ざっと1時間ぐらいかな。こっちの世界って時計とかないから詳しくはわからないけど」


 そういえばそうであった。

 異世界に召喚されたとしてもその世界には時刻という概念が存在している。よく読んだラノベでは時間は1時間2時間という言い方ではなく半刻や一刻といったような言い方をしていたのを覚えている。しかし、この異世界においてはそういうものも含めて全くと言っても過言でないほど時間という言葉がない。とりあえず、太陽が出たら人々は働き、沈んだら寝る。うん、原始的な生活だ。ここは縄文時代とか弥生時代なのかな。そう思えてしまう。でも、町のつくりとかは中世ヨーロッパなんだよな。


 「……未来はずっとここにいてくれたのか?」


 「うん。だって、和之が倒れたって聞いて本当に心配したんだよ。わたし、私……」


 未来は泣き出してしまった。

 僕は未来のその表情を見て本当に悪いことをしてしまったと思った。


 「ごめんな。心配かけてしまって」


 僕は、そっと優しく未来のほおをなでる。未来は顔を俺の方に向ける。顔を真っ赤にして泣いていた。

 僕はその姿を見てドキンとしてしまう。ああ、こんな時間がずっと続けばいいのにな。そう思ってしまった。それほど美しくかわいい未来の表情であった。

 そのまま僕たちは唇と唇を軽く合わせた。

 僕たちにとってその時間は長いようで短い幸せな時間であった。

 少しすると、お互い何もなかったかのように普通に会話を始める。そこに健もやってきて3人でわいわいとどうでもいいような話ばかりをする。

 ああ、幸せだ。

 僕はそう思った。

 そして、その日は特に何事もなく終わっていったのであった。

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