第60話 助力
「しかし、これはちょっと……」
俺は今ある局面に立たされていた。
自分史上最大の危機であると自覚している。どうしてこうなったんだ。
俺の目の前にいるのは大量の民衆であった。手には鍬を持っている。服はかなり失礼な言い方だが裕福ではなく仕方なく今まで来ている服を直し直しに来ているという漢字の服装をしていた。継ぎ目が思いっきり見えている。
そんな人たちが50人以上一気に押し寄せてきた。
さて、どうしてこうなったのか。最初から思い出してみることにする。
◇◇◇
反乱まであと2週間という時期になった。
俺は、メッテルニセ、ミスリードルとどういう手順で反乱を起こすのか、反乱を成功した場合はどうするのか、また最悪のケースとして失敗した場合はどうするのか。そのあたりの打ち合わせ、会議をしていた。
「ここがこうであるから」
「いや、こっちがいいだろう」
本当に細かいところのチェックであった。
「しかし、反乱を起こさせるのにもいろいろと考えないといけないとは」
「政治に自信があるんじゃなかったのか、カズユキ」
「いや、政治に興味があって実際に出来ると思っていたが、思っているのと想像以上に違っていた。政治家を馬鹿にしていたがかなり見直したぜ」
「一応、私達もカズユキの言うところの政治家になるのだろうか」
「まあ、そうなりますね。ミスリードルは領主していて本当にすごいと思いました。ため口でいいって言われたけど本当はさんづけしたいぐらいですよ」
「そうか。でも、カズユキの知識も役に立っているから気にしなくていいぞ」
いやいや、気にするわ。
心の中で思った。
俺は政治的知識をかなり持っている。向こうの世界でかなり政治が好きで選挙予測とか国会中継とか政党の公約とか普通の高校生がやるようなことではないことが趣味であった。それゆえに自信を持っていたが本当に実際に政治を行っていたミスリードルにはすごいと思わされた。
ミスリードルの領地運営がすごい。
他の土地に比べて税負担が少ない。決して豊かではないが、向こうの世界で言う第三次産業のような農業、工業(まあ、この世界における工業なんて向こうの世界の工業とは意味合いが異なるが)以外の産業を次々と生む出す政策をしていた。それだけで先見性がある。民主主義についての考えが凝り固まったものだと思っていたが、経済についてはすごい進歩的だ。
「何か、兄上ばっかり褒められているな」
「珍しいな。お前がそんなふてくされるなんて」
「すみません。メッテルニセもすごいですよ」
「ついでみたく言うな。わかってるぞ。それに兄上ふてくされてはいません」
と言いながらもメッテルニセの表情は怖かった。
この人意外と自信家だからな。
少し接していただけだが何となくそんなことが分かった。
「ははは。ところで実は紹介したい者がいるんだがいいか?」
ミスリードルに急に言われた。
「紹介したい人?」
「ああ、いいか?」
「別に構いませんが……」
「では、入ってもらうぞ。入っていいぞー」
ミスリードルが言い、メッテルニセが部屋の扉を開く。部屋の中に1人の男が入ってきた。
年は50代後半ぐらい、中肉中背、白髭、白髪の男であった。
「初めまして。カズユキ。私は隣の領地ルーンで領主をしています。ハクスです。お見知りおきを」
「はじめまして。カズユキです。それで、ハクスさんはどうしてこちらへ」
「ああ、実は私が呼んだ」
メッテルニセが答える。
「彼も反国王派だ。元宮中の侍従だったが、前国王死後今の国王つまりは兄上と対立し左遷された過去を持つ」
「ええ、坊ちゃんを小さいころから面倒を見てあげたというのにあの始末はないですよ。許しはしません。それに、怒っていますがそれを越して呆れてもいます。ただ、国王に対する不満が高まっていることは承知しています。私でよければ力になろうと思いここに来ました」
なるほど。
「ありがとうございます」
つまり、味方か。
俺は握手をする。
こんなに頼もしい味方はいない。
メッテルニセの説明でこの人のことが少しわかった。おっとりとしているが、すごい人だということも。
国王への怒りがないといいながらも表情は怖かった。本当はかなり怒っているのだろう。坊ちゃんと言っていること、侍従をしていたということからあのくそ国王の教育係でもしていたのだろうか。あのくそ国王は自分の教育係をしていた恩人さえもこんな始末をするなんてますます人間として許せるような奴ではないと思った。
「それでだ。私の領地には良質な兵がいる。こんなことが起こるかもしれないと思って実はひそかに育成をしてきていたんだ。ぜひ、使ってもらいたい」
「え!」
ハクスの言葉はかなりうれしかった。
兵力がこっちだけでは足りていなかった。
そこに良質な兵が増えるとなると作戦を成功させるうえでかなり重要になってくる。ここは遠慮せずに受けることにしよう。
「ありがとうございます」
俺が言う前にメッテルニセが答えた。
ミスリードルも握手をしていた。2人ともハクスの話に乗っかかるらしい。2人が反対しないということはかなりいい案だし、この人がかなり信用できる人だということが分かった。
「それでだけど、ハクスさんもこの作戦の中枢に加えませんか?」
「それはいい案だ」
「うん、異存はない」
俺は思ったことを口にする。
ハクスから兵を借りる以上いろいろと作戦の中枢を知ってもらっておいた方がいいだろうという考えからだ。そして、メッテルニセ、ミスリードルの2人の異存がないようだ。
ハクスは少し悩んだが、回答をしてくれた。
「ぜひとも」
俺はハクスを力強い握手をした。
作戦はさらなる段階へと進んでいった。
計画の実施がいよいよ近づいてきていた。




