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第6話 付き合う

 「国王陛下のおーなーりー」


 騎士が大きな声でそう言うと大きな扉は開いていき、周りには雅楽隊? 的な騎士たちがラッパでパッパラパーとならして盛大に迎えられた中を1人のかなり太った中年の男が歩いてきた。男の服装は赤を強調としたマント、勲章らしきものを多く胸に付けた金色が施されている服、そして、頭には金色に輝く王冠をかぶっていた。以上のことからこの男こそがこの国の国王であるということが容易に推測できた。

 国王はつえをついて玉座へとゆっくりゆっくりと歩いていく。僕達はその様子をじっくりと見つめていたが周りにいた騎士たち全員は頭を垂らして国王に対する敬意というものを表している。だが、僕達は立ったままの状態でいる。別に僕達には国王に対して敬意を表す立場でないと言いうのが僕の言い分だ。そしてその考えには未来も健も同意してくれた。だからこそ、僕達は堂々と立っているのだ。

 国王はそんな僕達を無視しているのか分からないが一切僕達の方へ見向きもせずに玉座にその太った重い体の重心をかけた。

 そして、ようやくここにきて僕達の方へと振り向き言葉を発した。


 「ようこそ、勇者達よ。朕はコスモ王国第13代国王ヴェッテルンヒルゼ・コスモ・シュベ・レーゼマンだ。朕は勇者達との会見を楽しみにしていた。それにしてもよくぞ参ってくれた」


 国王はやはり国王だ。まず口調がエラそうだ。完全に上から目線であり、僕達をなめきっていると言っていいだろう。分かりやすく言えば頼みごとをしている方の人間のはずなのに偉そうに高圧的にしかも条件まで付けくわえてくるぐらいのエラそうな態度であった。

 僕は国王のこの態度を見て感じ取った瞬間に腹が立った。ものすごく殴りたくなった。あれだ、絶対にこの国王はしっかりとした政治をしていないパターンだ。国王に対する指示率が0パーセントに近く革命前夜とかいうやつだ。僕は以前にそんな感じのライトノベルを読んだことがある。そのライトノベルの展開とよく似ている。 

 そのライトノベルでは国王は悪の行為の限りを尽くして、敵に魔王が現れると勇者召喚を行い自分の国をあくまでも自分のための国を守ってもらおうと勇者に頼むが物語の後半で勇者はこの王国の真実に気付き、魔王とそして、多くの民衆と共に王城へと攻め込み革命を果たす。魔王は実は悪ではなかったという設定で気になって読んだ話だったが、長くなったが僕はその話の国王にこの今目の前にいる国王が重なった。完全に似ている。同じだ。

 国王の挨拶が終わったようなので今度は僕達の挨拶の番である。まずは、勇者である健から自己紹介を始めた。


 「俺は品田健です。俺がどうやらあなた達によって導かれた勇者みたいですのでどうぞよろしくお願いします」


 健が挨拶をする。続いて未来が挨拶をする。


 「私は高橋未来です」


 「僕は高原和之です」


 僕と未来も挨拶を済ませる。別段僕達には挨拶を名前以外にすることはない。僕達はこの健の勇者召喚に巻き込まれただけの話だ。だから、名前を名乗ることすら本来ならばやる動機というものがない。


 「そうか、健、未来、和之か。勇者以外の2人については朕たちの召喚の儀式に巻き込んでしまって大変すまないと思う。誤って許されることではないがとりあえず、謝らせていただく。そして、すまないが元の世界に帰る方法というのは今のところ見つかっておらんのだ。だから、しばらくこっちの世界に滞在することを強要することになる」


 元の世界に帰ることができない。国王はそんなことを言った。

 だが、僕はそう言うことを何となく察していた。今まで僕が読んできたライトノベルの話の中で素直に帰れたなんてものは存在しなかった。だから帰れないことぐらい最初から覚悟はしていた。でも、実際に面と向かってそういうことを言われてしまうと困ってしまうものだ。


 「いえ、こちらもそれは予期していたことですから」


 健が代表してそのことを伝える。その言葉を聞いた国王は先ほどとは180度打って変わって深刻な表情から笑顔へとなり僕達を食事を誘った。


 「では、他に聞きたいことはたくさんあると思うがそれは、食事でもしながら話そうではないか」


 僕達は国王に誘われたということもあり断ることもできずそのまま王広間へと通された。大広間のちょうど中央には縦長のテーブルが置かれておりその上には豪勢な料理もあった。僕達は近衛兵に案内されるまま席に着いた。


 「さあさあ、ここにあるものを何でも食べてよいぞ。さあさあ」


 国王はそう言って僕達に料理を勧める。僕達は国王に言われた以上逆らうことができないのでしっかりと料理に手をかける。それは、健の意見でもある。というよりも、健だけの意見であった。僕と未来は怪しいからやめるべきだと考えてこっそり小さい声で話し合っていた。しかし、その考えを健は否定したうえでそうするべきではないとはっきりと僕達に言った。健は賢明であるのでそこまで言われてしまったら僕達はその意見に従うしかなかった。 

 僕達は料理を食べる。国王は何か話をしたがり砂顔をしていたがその様子を理解したうえで無視を続けた。黙々と食べ続けた。それに、僕としては無視しても大丈夫だと判断した。なぜかというと健が勇者だから何かあったら健に丸投げしちゃえばいいじゃないか。僕はそう考えていた。まあ、それが一番の選択肢に間違いないと思っていた。それに、僕なんかが何をしたところで国王はまったく見向きもしないだろう。今まで読んだライトノベルの異世界召喚ものだと国王は温和や優しいといった人間性にあふれた国王ばっかであった。だから、大丈夫だろうと僕は思った。

 そして、食事の時間は終わりを告げるのであった。


 「それでは、マダロス。客人を部屋へともてなしてくれ。朕はもう部屋に帰る。後は任せた」


 「はっ」


 国王はそう言うと席を立って部屋から出て行った。僕達はその様子を見ていただけであり頭を下げるなんてことはまったくやらなかった。というのは、僕だけであり他の2人、健と未来は普通に頭を下げていた。あれ? おかしいな。国王相手にそんな態度とらなくていいという話じゃなかったっけ?


 「ではみなさん。こちらへ来てください」


 マダロスはそう言うと僕達を1つの部屋へと案内した。ん? 1つ?


 「すみませんがわが城は今空き部屋が1つしかない状況でして年若き男女が一緒に暮らすのは大変失礼だと思いますがどうかご遠慮していただけませんか?」


 どうやら部屋がもうないらしい。つまり僕と健は未来と一緒のこの部屋で暮らすことになるようだ。そうか、部屋が1つしかないのか。そうか、そうか……えっ!?


 「ひ、1つ?」


 「はい1つです」


 僕の疑問にマダロスはあっさりと即答をする。はあ、1つですか。で、終わるような話じゃにだろ! 年頃の男女を一緒の部屋にしてもいいのか! この国の礼儀なのか! 突っ込みもそれぐらいにしておくとして流石に僕は戸惑った。


 「未来はそれでいいのか?」


 「……仕方ないんじゃないの。ちょっと身の危機を感じるけど……」


 「まあまあ、かず。未来もこう言っているんだしいいんじゃない。それにお前ら付き合っているんだからもしものことがあったら俺はお邪魔虫ということで席を外すし」


 「も、もしものことって何だよっ!」


 僕は健のその言葉に過剰に反応をしてしまった。言った後から冷静にこの状況を思い出してみればそれはどう見ても僕の失言であった。


 「何だ? 言ってほしいのか? そりゃあ、かずと未来は付き合っているんだから男女の営みの行為の1つや2つぐらいあってもおかしくはないだろ? あんあん言っているのを聞いている身になってみろよ」


 プシュ


 その言葉を聞いて未来が顔が真っ赤になって思考停止になってしまった。ついでにいうと僕もだ。顔が多分今鏡を見た相当真っ赤になっていてリンゴと間違えてしまうぐらいになっているに違いない。そして、やはり女子の前ではそういうことは恥ずかしいからやめてほしい。


 「おい、健」


 僕は健に苦言を呈す。


 「はいはい、ちょっとからかいすぎましたよ。どうもすいませんでした」


 健は一応は謝ったがその表情を見ると笑顔である。完全に反省していないし、いまだに面白がっている。こ、こいつ……

 しかし僕はこれ以上いたずらに健を責めたところでこの事態は解決しないと思ったのでここで諦める。


 結局この後僕達は1つの部屋で寝ることになった。ただ、ベッドが何の悪戯なのか2つしかなかったので僕は未来と同じ布団で寝た。いや、僕と未来はお互い寝ることができず(隣りの布団からは健がいびきを大きくかいて寝ていた)心臓はバクバクし体も動いていたせいか本当に疲れたまま異世界生活2日目を迎えることとなった。

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