第56話 俺の譲ってはいけないもの
やばい。
2人の間に入って行くのが本当に怖い。どうすればいいんだ。
「ねえ、カズユキ」
「どうしたユエ?」
「カズユキはどうしたいの? カズユキはこの婚約について納得しているの?」
「納得も何も勝負で決めたことだ。約束を最初にして勝負をした。勝負に負けたからと言って最初に決めたことを破るようでは人として本当に最低なことをしていると思う。だから、絶対にやってはいけないことだから俺はこの婚約については認めざるを得ないと思っているよ」
そうだ。決めてしまったんだ。
敗者は勝者に従うしかない。
「本当にそれでいいの?」
ユエは俺に対して念入りに聞いてくる。
どうしてここまで念入りに聞いてくるのか不自然なくらいであった。しかし、負けた以上やっぱり文句を言うことなんてできない立場だと俺は思うからそれでいいのと言われても仕方がない。
「仕方がないんだ」
「でも、無理やり結婚するんでいいの。カズユキはそんな簡単に諦めるんだったら、私やミスティルともっと早い段階で付き合っていたと思うの。それなのにここまで私達と付き合うってことをしなかったのにはそれなりの理由があると思うのに、カズユキはこれぐらいで諦めるような人だったの」
俺はユエやミスティルに好意を寄せられている。そんなこと気づいていた。しかし、告白をされても付き合うことをしなかった。2人に諦めてもらうようにしていたぐらいだ。どうしてそんなことをしていたのか。理由? そんなの決まっている。
俺には彼女がそもそもいる。いや、いた。
未来だ。
しかし、未来は今あのくそ国王に囚われている。何をされているのかわからない。無事であってほしいと信じている。
あいつを倒すことが、復讐することが俺の今の生きるすべての目標だ。
だから、他の誰とも付き合わない。付き合うことなんてできない。囚われている未来に対してとてもひどいことだと思うから。いや、ひどいことであるに違いないから。
そうだ。
そういう理由があった。勝負に負けたとはいえここは曲げてはいけないものだ。俺のこの世界におけるすべての原点であってもいいと思いであるから。これは譲ってはいけない。
「ユエ、ありがとう」
「ふふ、その顔。カズユキらしいよ」
なぜだか分からんが褒められた。
まあ、それはいいとして。
「メッテルニセ。やっぱりその条件飲むことはできない」
「ほお。どうしてだ? 約束を君は破るのか?」
「ああ、破ることにした。この約束はそもそも俺の絶対に譲ってはいけないものを無視している。だから、最初から乗ることなんてできなかったんだ」
「譲ることのできないもの? それは一体なんだね」
「俺の譲れないもの。そもそもどうして俺が国王に復讐をしようと思いを抱く原因になったことを思い出しただけさ。俺の彼女である未来を救うのが俺の目標、そして、その未来を捕らえて人の女を奪ったのがくそ国王だ。さらに、勇者となった友人まで人質として一兵士として国王の駒として無駄な戦いに投入され続けている。だから、俺は復讐しようと思った。それが、俺のすべてだ。俺の思いは国王に復讐をすること。未来を救うこと。健を救うこと。だから、婚約者を作ることは未来に失礼なことだ。絶対に出来ない」
俺は長々と語る。
俺が絶対に譲ってはいけないことだから譲ることはできない。俺の目標はこうであったんだと自分に問いかけるかのように言い続ける。
「ほお。だからと言って王族との約束を破るとはいい度胸だな」
メッテルニセは俺に対して圧をかけてくる。
威圧してくる。王族というネームバリューを使って俺が逆らわないようにしようとしているのがとても理解できた。
しかし、これで曲げちゃだめだ。
俺の譲れないものはたとえ王族であったとしても曲げてはいけないものだから。
「王族とか知らない。俺はその王族に対して復讐をするんだ。王族というものに恐れていたら復讐なんて簡単にできるはずがない。だから、メッテルニセ。俺はお前に屈しないさ」
俺は不適笑みを漏らしてやる。
「なるほど。いいだろう。まあ、そうなるかもしれないと思っていたからいいや。王族にここで簡単に屈したら復讐なんてできない。その通りだ。その言葉を聞けてとてもうれしいよ。この話はとりあえずなかったことにしてあげるよ」
メッテルニセは威圧を解いた。
穏やかな表情をしていた。俺を試していたのか。そんな風に思えた。っていうか、絶対に俺を試していたかのように思える。しかも、今の話の中に抜かりなさが残っていてとりあえずなかったことにしてあげると言っていることからまた後で蒸し返す気があるということが分かった。
ああ、王族。抜かりない。
でも、ここで追及することはやめておくことにする。
「それはどうも」
俺は、警戒を解かずに答える。
「そんな警戒しないでいいよ。それより、これからのことを話すことにしないかい?」
「これからのこと?」
「カズユキ、これからのことって言ったら決まっているんじゃない」
「そうだよ。何のためにここに来たの?」
ユエとミスティルにわかっていて当然のようなことを言われる。ミリーとルミエの2人の横でうんうんと頷いていた。
もしかして、ここでわかっていないのは俺だけなのかもしれない。
「一体それは?」
俺が言うと、メッテルニセは答える。
「王をどうやって倒すかという話をそろそろ本格化していこうと思う」
ついに、本題が始まった。




