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第55話 勝負の結果は

 5か月ぶりの更新になります。

 大変長らくお待たせいたしました。申し訳ございませんでした。


 メッテルニセが出したカードは見覚えのあるものだった。

 ああ、だって、これは……

 俺が作ったカードゲームじゃん。

 そう、これはいつか盗賊団に捕まった時に俺がユエと共に作ったカードゲームだった。


 「どうやら、最近このカードゲームとやらが流行っているらしくてね、これで勝負でもしようと思うんだが、いいかね?」


 いいかね、と言われても。

 メッテルニセはどうやらこのカードゲームを作ったのが俺だということは知らないらしい。ここは黙っておくべきか。それとも素直に俺が作ったというべきか。悩むところだ。


 「本当にこれで勝負するのでしょうか?」


 俺はとりあえず確認をする。


 「ああ、これでする。これは本当に立派なものだぞ。こんなゲームを作った奴はかなり頭がいいに違いない。一度でいいから会ってみたいものだ」


 ええ、会っていますよ。

 だって、これ作ったの俺ですから。

 でも、褒められるのはうれしい。

 王族から正統な? 評価をいただけて本当にうれしい。

 このゲームがまさか勝負の内容になるとは思ってもいなかったけど。


 「え、ええっと」


 俺は悩む。

 これを作ったの人物の正体が俺だということを。

 でも、黙っていたらどうなるか。俺はこのゲームについて熟知している。何せ、このゲームを作った本人だからこのゲームのバランスを考えた上で作っているからだ。ルールもおおよそ俺が考えたものにほかのメンバーが若干の修正を加えただけで俺はその修正した内容もしっかりと確認している。

 つまりだ。このゲームのどのカードとどのカードの相性が悪いのかまでわかっているのだ。そんなゲームで勝負をしようとメッテルニセが言ってきた。

 ああ、俺に有利だ。

 素直に俺が作ったというべきか。黙って勝ってあとでバレていろいろ言われるのも面倒くさい。でも、バレなかった時のことを考えると黙っていてもありに思える。

 でも、勝負というのはそれを込みで勝負だ。俺が作ったのだと知らなかったメッテルニセが悪い。

 だから、乗ることにしよう。黙って勝負に。


 「わかった。勝負に乗る」


 俺はそう言って勝負を始めた。


 ◇◇◇

 一時間後。

 勝負は終わった。

 そう、俺の負けによって。

 なぜだ。


 「なぜだ」


 俺は不思議だった。

 このゲームは俺が作ったものだ。

 だから、俺が一番知っているはずだった。それなのに俺はこのゲームに負けたのだった。どうしてだ。どうして負けたのだろうか。


 「カズユキ。お前がこのゲームを作ったということを俺は知っているぞ」


 メッテルニセが衝撃の事実を知らせてきた。俺が作ったことを知っている。それなのにどうして勝負を仕掛けてきたのだろうか。

 

 「どうして私が勝負を仕掛けてきたのか疑問に思っている表情をしているな。どうしてか。それは簡単な話だ。まず、相手が絶対的に優位に立っていると思っている時こそ油断が生じる。カズユキは自分が作ったゲームであるから負けない。そう考え油断したはずだ」


 ……。確かにそうだ。俺が作ったゲームである。だから、負けるはずはない。正直に言うとそう思っていた。でも、実際は負けてしまった。

 俺は油断していたのか。

 でも、油断意外に理由はある。

 それについて俺は理解している。


 「盗賊団め」


 俺は悪態をついた。

 俺とこのゲームを一緒に作ったのは盗賊団だ。

 俺を解放する代わりにいい商売をしているはずだ。実際に王族まで知っている流行りのものとなっているからかなりお金を手にいれたのではないだろうか。

 しかし、それが仇になった気がする。

 なぜなら、俺が知らないカードが、効果が、ルールがあった。

 つまり、俺がいなくなってからもこのゲームは発展していったということになる。まあ、考えてみれば当然だ。俺がもといた世界でも遊○王、デュ○マとか日夜新しいパックが出てカードの種類がどんどんと増えていった。だから、知らないものがあるのは不思議ではないはずだ。

 だが、俺はここが異世界だからそんなことまで考えないだろうと高を括っていた。だから、負けたのだと思った。


 「何となく負けた理由に思い当たるようだな、タカユキ」


 「まあ、そうですね。俺の完全に負けです。認めます」


 俺は負けを素直に認める。

 両手を挙げて降参のポーズをする。


 「では、負けた時のことを覚えているな」


 「ええ、ミスティルの婚約者になれっていうものでしたよね」


 「ああ、おとなしく受け入れてもらうぞ」


 「ちょっと、待って」


 俺とメッテルニセの会話に入ってくるものがいた。

 ミスティルだった。


 「私はやっぱりこんなの認めたくない」


 「ミスティルはカズユキのことが好きなんだろ? その様子からしたらわかるよ。なのに、何でダメなんだ?」


 「無理やりルールで婚約者にするっていうのはちょっと認めたくないんだけど……」


 後半の言葉は弱かった。

 ごにょごにょしていて俺には聞き取りづらかった。

 何を言っていたのだろうか。


 「ミスティル。お前も王族だったんだから政略結婚という覚悟はできているだろう。まして、今回はお前が好きな相手だ。まったく好きじゃない相手に嫁ぐとかじゃないんだからそんなわがままは言うな」


 「でも、無理やりはやっぱりダメだと思います」


 「私のいうことが聞けないのか?」


 「ええ、私はもう王族なんかじゃないんだから!」


 ミスティルとメッテルニセの言い争いが続いている。

 俺は外でその様子を見ていた。俺だけでなくユエもミリーもルミエもだ。

 そんな俺の肩をコンコンと叩いた人がいた。ミスリードルだった。そういえば彼もこの空間にいた。俺はそのことをすっかりと忘れていた。今、俺達がいるこの領地はミスリードルが領主として治めている土地だったから最も重要な人物だったはずなのに忘れてしまっていた。

 まあ、メッテルニセとゲームしたりしていろいろと熱中していたから忘れてしまっていたんだけど。


 「ミスリードル、さん。どうしましたか?」


 「この言い争いをいつまで君は見ているつもりだね。君も当事者なのだよ」


 「ええ、そうですけど。俺は負けた身。約束は約束ですからしっかりと守るつもりです」


 「ならば、それを本人達の前でしっかりと言いたまえ、そうしないと終わらないぞ」


 ミスリードルの言い分は確かにそうだ。

 本人達の前で俺がおとなしく言えばいいだけの話だ。

 でも……

 足が動かない。

 どうしてか。それは、


 「いい加減に認めなさいよ。私はこの話は認めない」


 「何で分からないんだ。王族ならば王族の責任をしっかりと果たすべきであろうに」


 「何ですって」


 「私の話が聞けないのか」


 「んんんんー」


 「ああん」


 王族の対立が激しかった。

 完全に言い方が不良になっている。

 恐ろしい。

 この2人の間に入って行くようなことをしたくない。本能的に俺はそう思ってしまった。

 困った。 

 どうすればいいんだ。

 俺は、ものすごい葛藤を抱えるのだった。


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