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第53話 提案

 遅くなりました。

 「ようやく来たね。なかなか来ないのでかなり心配をしていたよ」


「僕たちは君のことを待っていたよ」


 部屋の中に入ると2人の男が俺達に向けて言葉を発した。

 今までの話から推測をするとこの2人がおそらく王族だろう。

 2人とも金髪で見た目は30代前半という感じであった。若々しい。国王が40代だった気がするので弟となるとそれぐらいの年になるのだろうか。目の色も特徴的な青だった。向こうの世界で青い目の人なんて見たことなかったので新鮮だった。


 「はじめまして。高原和之です。いや、この世界ではカズユキ・タカハラと答えたほうがいいのでしょうか?」


 「ふふ、あまり慣れないようだったら別に敬語にしなくても構わないよ。こっちは、君のことを待っていたんだ。多少の粗相には目をつぶるつもりだ。それほど君を待っていたということだけをとにかく覚えてほしい」


 「さて、私達の方も自己紹介するとしよう。私の名前はメッテルニセ・コスモ・シュベ・レーゼマンだ。現国王と同じ腹の弟だ。まあ、今は隠れるようにしてここに逃げているんだがな」


 「そして、私が辺境領の伯爵をしているミスリードル・シュベ・レーゼマンだ。国王とは腹違いの弟にあたる。まあ、腹違い故に辺境領へと飛ばされたんだが。まあ、そんなことはいい。君たちがここに来たということは国王を倒そうと考えているんだな」


 「ええ、そうです」


 「やはりな。それに君はとても心強いものを持っているではないか?」


 心強いもの?

 俺はミスリードル元殿下の言っていることの意味が分からなかった。


 「ミスリードル……も、へ、辺境伯爵の言っていることがわかりません」


 「そうか。あと、呼びづらいならもう、ミスリードルと呼び捨てしてもいいぞ。君はこの世界の住民ではなかったのだから呼びづらいのだろう?」


 「なら、遠慮せずお言葉に甘えて呼び捨てさせてもらいます。それで、ミスリードルの言っている意味が私には理解できません」


 「カズユキが言っているのは、心強いものが何かということで間違いないか?」


 ミスリードルの話を横からメッテルニセがフォローしてくる。

 

 「そうです」


 メッテルニセの言っていることに間違いがないので俺は肯定する。


 「心強いものっていうのはミスティルのことだよ」


 ミスリードルが答える。

 ミスティルが心強いもの?

 どうしてだ……元王族だからか?


 「ミスティルも元王族だから、ということでしょうか?」


 「そうだ。ミスティルは国王の側室の子である。つまりだ、これはかなりのカードになるんだよ。この子の夫になれば君はきちんとした王族にもなることができる。現国王を倒して新政権を作った際に正統性もきちんと主張ができる。だから、君がミスティルと一緒にいると聞いてかなりやるなと私は思った」


 確かにミスティルは側室の子だ。 

 学院にいたころにその話を打ち明けられた。

 学園の校舎裏で。

 あの時は、どこかの貴族の娘だとは思っていたが、まさか王の子とは思っていなかった。でも、ミスリードが感心しているところすまないが、俺とミスティルは目的が壱所という訳でそもそも俺から彼女に声をかけたわけではない。

 彼女には彼女の王を妬む理由がある。恨んでいる理由がある。

 俺は彼女のため。ミスティルは母のために国王を倒そうと考えている。


 「まあ、俺の力ではないのですが」


 「私が一緒にいてよかったでしょ」


 俺がミスリードルにそう言うと、隣からミスティルが笑顔でそんなことを言ってくる。まあ、確かによかったって言えばよかったんだが。


 「じゃあ、婚約者になってくれる」


 「それはずっと断っているだろ」


「えー」


 やはり油断ができないようであった。

 ミスティルは隙あればいつもこういってくる。でも、俺が国王を倒そうとしている目的を知っているのだから遠慮ぐらいはしてくれないのだろうか。

 まあ、遠慮しないと本人はこの間堂々と言っていたのでそんなこと最初から無理だともうわかりきったことなんだけど。


 「仲がいいようでよかった。でも、婚約者になってもらえると私達的にもとても助かるんだよね? その気はないのかね?」


 「ええ、俺には思っている女子が1人いるので」


 「カズユキ君。君は知っているのだろう。この世界は別に何人も妻を持っていいということを。別に妻が一人とは限らないのだから問題は別にないんじゃないかな」


 ミスリードル、そしてメッテルニセの2人の王族が俺に対して問いかけてくる。

 確かにそうだ。

 別に妻が2人でもいいならミスティルを受け入れてもいい。そして、ユエも。しかし、俺は元日本人だ。元という言い方が正しいかどうかは怪しいけど。でも、日本で過ごしたため倫理観はかなり日本人のものである。だから、妻が2人という一夫多妻制に対してすんなりと受け入れられるほど人間ができていない。

 だから、俺は悩んでしまうのだ。

 そして、2人の思いを受け止めなかった理由でもある。

 王族の2人に言われたとしてもやはり気が引けることである。


 「では、こういうことにしよう」


 「こういうこと?」


 メッテルニセの提案はこうだった。


 「私と勝負をしてカズユキが負けたならミスティルの婚約者になってもらおう」


 「……はああああああああああああああああ」


 俺の叫び声が館内にこだました。


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