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第5話 国王のおなーりー

 「で、君たちの中の誰が勇者だ?」


 確かマダロスと名乗っていた男が僕達に尋ねてくる。

 勇者。

 それは、僕でも知っている存在だ。僕はこれでも多くのライトノベルを読んできた自負はある。その中で多くの異世界召喚ものといわれるジャンルの作品も読んできた。

 異世界召喚ものは主人公が突然勇者として異世界に召喚されてしまし、国王の説得や皇女様との出会いなどで人類の宿敵である魔王を倒すというのが主たる内容だ。まあ、そこに各作者様が工夫に工夫を重ねて従来の異世界召喚ものとは違う感じの話もあるが大体は魔王を倒すというのが万国共通の内容である。


 「勇者ってどういう人なんですか?」


 健が質問する。

 確かに言われてみればそうだ。勇者は誰だと聞かれたところで勇者がどういうものなのか僕達は知らない。


 「なるほど。まず、勇者の第一条件は男だ」


 勇者は男。

 この言葉の時点で未来が勇者じゃないことが分かった。未来はただ僕か健が勇者として召喚される際に巻き込まれてしまったのだ。


 「そうなると、俺かカズのどっちかが勇者っていうわけか」


 「そうなるな。でも、他にも勇者の条件ってあるんだろ?」


 僕はマダロスと名乗った男に尋ねる。案の定マダロスは頷いた。それは、他にもまだ勇者の条件があるということだ。


 「まず、勇者は全体的に召喚される前の世界より知力や体力をはじめ、行動力やスピードなど各種身体能力が上昇する傾向がある。あなた達2人のどちらかが勇者なら能力が向こうの世界より上がっている方が勇者だ」


 各種能力の上昇といきなり言われてもなあ。僕としては体に何か変化が起きた感じはしないのでそうなると健が勇者だということになる。


 「僕は体に変化はないよ」


 僕は健に対して言う。


 「……そうか、俺はこっちに来る前より体が軽い気がするが、それが能力の上昇というやつなのか?」


 健は自分の体に起こった疑問をマダロスに尋ねる。マダロスは小さく首を縦に振った。


 「おそらくは。と、なると、つまりそこの君が勇者ということだな。まずはようこそ、コスモ王国へ。陛下も王の間の玉座であなたのことを首を長くしてお待ちしておりますよ」


 マダロスは健に向かって丁寧に礼を尽くす。そして、体を僕達の方へと振り返ってこちらにも礼儀正しく対応してくれる。


 「もちろん、あなた達2人も勇者召喚に巻き込んでしまったのでその分の詫びはするつもりです。とりあえずはあなた達もついてきてください」


 「分かりました」


 未来が返事をする。僕は頷くだけで特に返事はしなかった。


 そうして、僕達はマダロスによって城の中を案内された。案内といってもただ、ついて来いと言われて広い城の中を黙って歩いていただけだ。


 (おい、健)


 (何だよ、カズ)


 (あいつの話信じられるのか?)


 僕と健はマダロスの後ろでひそひそと向こうには聞こえないぐらいの声で会話をしていた。


 (信じられない)


 (じゃあ、何でのこのこあいつの後についていくんだよ。もし、これがあのマダロスという男の罠だったらどうするんだよ!)


 (……とりあえずは、罠かもしれない。でも、こちらの世界のことが全く分からない状況で逃げる方がよほど無謀な話だ。だから、俺はこっちの選択肢を選んだ)


 (……そうか。健が言うならその通りだな)


 俺はそこで話すのをやめた。それは隣で心配そうに話の行方を見つめていた未来への配慮もあったし、話の句切れがちょうどよかったというのもあった。また、健がどうしてこの行動をとったのかという理由も掴むことができた。

 確かにだ。ここでマダロスの言うとおりにしなかった場合、考えられることとなるとやはりこの世界の地理や事情というものに疎いというのが最大にして唯一の問題となるだろう。ただでさえ、もともといた世界ですら日本という国の中でも全く分からないという場所があるというのにまして異世界のこととなればなおさらのことである。そう考えると、健の考えがいかに正しい賢明な判断であったのか思い知らされる。


 「さあ、着きましたよ」


 僕と健がひそひそと小さい声で話し合っているうちにどうやら目的地に着いたようだ。僕達の目の前には金色に光った大きな扉がそびえだっていた。金色の扉には装飾までも施されていた。竜の紋章だろうか。それが扉の中央に大きく描かれていた。こんな扉見たことはない。僕達がもともといた世界の何とか宮殿とかいう豪華な世界遺産とか建物とかでもここまで豪華なものは存在していないだろう。それほど、すばらしいものであった。うまく説明できていないことは承知だ。僕は見たものをそのまんま直感的に思っただけだ。


 「すっごすぎる」


 健がオーバーリアクションで驚いている。


 「こんな扉見たことない」


 未来も驚いている。ただ、扉のすごさの感じ方が僕と似ていてものすごくうれしかったという全然別の意味で僕は感動していた。

 マダロスは僕達が各々驚いているのを見て満足そうであった。ただ、あの笑い方というか笑みはとても不気味であった。まあ、そんなどうでもいいことに注目すべきではないな。今は、国王と謁見という大事な要件がある。全てを警戒するのはそれからだ。


 「では、入りますよ」


 マダロスはそう言うと扉を守っている2人の衛士に開けさせた。


 ガガガガガガガ


 大きな扉だけに開けるときに発生する音はとても大きいものであった。ガガガガガという甲高いまるで機械音であった。しかし、衛士たちは手動で開けているので機械音がするのはおかしなことだが、まあ、ここが異世界だと考えるとあの扉にも何か僕達が知らないような仕組みが取り付けられているのだろう。僕は扉に関する考察をそのあたりでやめにして、部屋の中へと促されたので入ることとした。


 「「「うわあ」」」


 僕、未来、健の3人は部屋の中に入った瞬間に感嘆の声を漏らしてしまう。それほどのものであった。僕達が入った王の間はとてつもなかった。床、壁、天井、シャンデリア、机、玉座、いすなどなどすべてが金、金、金で作られていた。その金一色の眩しさといったらもう目がくらんでしまうほどのものであった。逆に、金一色過ぎて気色悪く感じてしまうほどであった。金一色。ここまでいくと本当にやばい。僕達のもといた世界でも昔の王族は○○宮殿とかに黄金の何とかとか作ったりして自分の権力を他者、特に敵対国家や政治的ライバルに見せつけることもあったが、これはその僕達がもといた世界のどの宮殿よりも勝っている。


 「すごすぎる」


 健があまりの金一色さに辺り一面を見渡している。


 「金だけの部屋……」


 未来も相当なスケールのデカさに驚いている。

 とにかく、僕達3人はこの金一色の部屋に圧倒されたのであった。


 「みなさん。国王陛下との面会をまだしていませんよ。これぐらいで驚かれては困ります」


 僕達が現実から少し離れてしまいそうになったところにマダロスのその言葉で無理矢理現実に戻された。

 確かに、僕達はこれから国王との面会があった。これぐらいで驚いてはいられない。その言葉はもっともな話であった。今、僕達は国王との面会をしなければならなかった。こんなに素晴らしい部屋を作るぐらいの王国を収める国王であるということはたいそう素晴らしい方なのだろうとそのの俺は信じていた。

 マダロス曰く国王は今、奥の間にいるということでしばらく待ってくれと言われたので言われるままに僕達は待機をしていた。この国王の間の中央に位置していた金色の机といすがあったのでそこで座って待ってくださいと言われたのでそこで待つことになった。

 しばらく時間が経った。どれぐらいだろうか? ともかく20分は経っただろう。僕達は待つのが疲れて普通に会話をしていた。


 「はぁー疲れた」


 僕は椅子の上でだらーんとしていた。それを礼儀にうるさい隣に座っている未来に怒られるのかと僕は思ったが未来は怒らなかった。未来の方を振り向くと未来も未来で椅子に礼儀正しく座っているがその表情はもう飽きているかのものであった。そして、未来の隣に座っている健も飽きているようだった。そりゃあ、20分も立派なところで待たされれば人間こうなるだろう。緊張もそこまで長く続くことはない。はやく、国王が出てくれないと困る。


 「国王遅いね」


 「ああ、そうだな」


 「何かあったのかな?」


 3人で適当な会話でもして暇をつぶす。そうでもしないとこの時間を過ごすことができない。


 「国王は偉いから最後に登場するんじゃないのか」


 僕は適当にそんなことを言う。


 「確かに昔からヒーローは最後に登場するとかいうしな」


 「それって国王のことじゃないでしょ」


 健の言葉にすかさず未来は突っ込みを入れる。僕と健はその未来の言葉を聞いて笑ってしまう。


 「何よ、笑わなくてもいいじゃない」


 「ごめんごめん。ただ、面白かったから」


 「どこが面白いのよ」


 僕は未来に責められていると、急に部屋の外が騒がしくなり、大きな扉を開けて騎士が大きな声で叫んだ。


 「国王陛下のおーなーりー」


 ようやく国王が僕達の目の前に現れたのであった。

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