第43話 ミリー、ルミエ①
「はっ!」
俺は、目覚めた。俺は知らないうちに気を失っていたみたいだ。
俺が今いる場所は、森の中。どうやら場所は移動していないみたいだ。
「カズユキ、大丈夫?」
「調子はどう?」
俺の様子をユエとミスティルが上からひょこんと覗いてくる。2人の顔からかなり俺が心配されているということはわかった。
2人に心配させてしまったんだな……悪いことをしたなと思った。
「ああ、大丈夫だ。すまんな、心配をかけちゃって」
「べ、別に心配してないよ」
「わ、私は心配していたけど」
「うそうそうそ、私もカズユキのこと心配していたから」
ユエが典型的なツンデレキャラのように答えたのに対してミスティルが素直に答えたので慌てて、ユエは自分も心配していましたと言ってきた。
その反応を見て俺は笑ってしまった。
ああ、ほほえましい光景だな。
ユエはミスティルに抗議をしている。
ミスティルは、そのユエの反応に対して完全にからかっていた。ミスティルの表情を見てみるとやはりこのユエの反応を面白がっていた。
……まったく、仲がいいことで。
俺はそんな風に思った。
さて、そろそろ現実を見なくてはいけない。俺が、現実から逃げ倒れたのだ。俺がもう忘れてしまいかけていたこの世界に来てのこと。国王が俺に対して、いや、俺らに対して行った決して許しておくことのできない罪。事件。国王への俺の憎しみ。
そのすべてを思い出す原因となった2人。
ミリー教官。
ルミエ教官。
この2人と真正面からぶつからない限り、俺が向き合おうとしない限り俺の中のトラウマには勝てない。国王に会った時に俺の精神が持つのかわからない。だから、今からでもその時に備えてトラウマに勝つようにしないといけないのだ。
「カズユキ、目を覚ましたのね」
「元気していた?」
2人が俺に何食わぬ顔をして話しかけてくる。その表情は笑顔だ。笑っている。俺にしたことを全く覚えていないかのように笑っている。その笑顔が無性に腹だった。
「何、笑ってんだよっ!」
ああ、だめだった。
俺は無性に腹が立ち、そして怒鳴り散らしてしまった。
俺の怒りを納めることはできそうになかった。
この2人が俺に対して何事もなく接していることが本当に気に食わなかった。
俺が、俺らが受けた苦しみというのをこの2人は理解しているのだろうか。
絶対にわかっていないと思う。わかっていたら俺に対してこんなくそなめた態度で接してくるはずがないからだ。
「……」
「……」
俺の怒りに対して2人は黙ってしまった。
「……」
なんか反論をしてきてほしかった。俺が馬鹿みたいに一人怒鳴ったみたいでかなり嫌であった。
ああ、何か言ってほしい。
黙っていないでほしい。
そんな俺の心の中の声を読み取ったのか、動いたのはなぜだかユエだった。
「カズユキ、この人たちのことは無視してどっか行こう」
「そうよ、カズユキ。私達の旅の目的地はまだまだ先なのよ」
ユエの話に合わせてミスティルも必死に話の話題を変えようと努力している様子が分かった。
むしろ、下手すぎるのでその優しさが嫌というほど伝わってきた。
「2人ともありがとう……そうだな。行くか」
俺も2人の優しさには正直に言って感謝していた。
ミリー、ルミエの2人と接していたくはなかった。さっさとこの2人の顔を見たくない。俺の精神はかなりぼっこぼこだった。国王に倒した時にすべての恨みを使い果たせばいいやという気分を入れ替えたので今、トラウマを克服しなくていいやと思った。思ってしまった。
俺達は、2人を無視して歩き出そうとした。しかし、俺らの歩みは妨害された。
「待って! 私達はカズユキに話したいことがあってきたの!」
「私達のことは信用できないと思う。でも、話だけはとにかく聞いてほしいの!」
「「お願いッ!」」
2人の言葉によって俺は歩くのをやめて後ろを振り向いてしまったのだった。