第42話 過去 修行
「えい、えい、えい」
僕は、剣を振っていた。
ああ、これはまだ俺が城の中にいたころの記憶、か。
「カズユキ、特訓は進んでいる?」
「はい、ミリー教官」
剣を振っている僕に声をかける人物がいた。それが、ミリー教官だ。ミリー教官は結構強いという話を聞いたことがあるが、僕からしたら彼女がいるというのに結構魅力的な女性だという印象の方が大きかった。彼女がいるのにほかの女のことを考えてしまったりするのはやはり男性としての悲しい性なのか。
まあ、僕は肉食系男子ではなくむしろ草食系男子に分類されるのでぐいぐいと女性に対して押していくことができずに押されていくだけの男なので何かあるとは思ってもいないけど。
「しっかりと剣を振って特訓してますよ」
「うむ、真面目でよろしい」
僕の言葉にミリー教官は満足したようだ。
ちなみに勇者の健の戦闘面での指導についてミリー教官はタッチしていないようだ。健には、この国で一番という剣士、宮廷魔術師がそれぞれついてエリート教育をしているとのことだ。
これが勇者と勇者の友人Aという立場の差。格差社会とはこういったことをいうのだと痛感させられた。
そこにもう1人誰か人が近づいてきた。
「何、仲良くイチャついているんだよ。天下の鬼教官ミリー様にしては甘々な指導じゃないか」
「……ルミエ」
ミリー教官に話しかけてきた人物は俺の魔法の特訓を担当しているルミエ教官だった。
ルミエ教官は、魔術師として有能な人物である。それは、本人がよく言っていた。だからこそ思ったことがあった。それって自分で言っちゃダメなセリフじゃない?
自分で自分を優秀だと言っている人間ってろくな人間じゃないと思う。現にルミエ教官はちょっと……
ドーン
爆発音が発生した。
俺は、爆発音がした方を見るとルミエ教官が魔法を放っていた。
「てへへ。上級魔法を発動させようと思ったら爆発しちゃったわ。あははは」
本人は笑っているがこれは笑い事ではなかった。
ここは天下の城内。そんな場所で突如として爆発音が発生したとなればそりゃあ……
「何だ何だ、今の爆発は?」
「曲者か?」
「敵襲、敵襲!」
「こっちだ!」
城内を守る近衛が駆けつけてくるに決まっている。
近衛が一斉にこの場所に向かってやってきた。
「どうかした?」
「敵襲だったか?」
「敵はどこだ?」
「ミリー殿、ルミエ殿無事か」
「貴様も無事か?」
近衛の騎士たちが俺達に声をかけてくる。ここで気になるのはやはりミリー教官とルミエ教官は宮廷につかえているかなり上の立場ということもあり近衛の騎士からも敬意をもって接されていることがわかるが、ただの勇者の友達程度だと貴様扱いを近衛の騎士にされるということだ。さすがに面と向かって貴様扱いされるのはかなり堪えた。
「む」
少しいらっときて言葉に出そうになったのを必死に抑えた。だが、表情までは隠すことができなかったと思う。今の俺が自分自身を鏡で見たとしても完全に機嫌が悪いというのが分かるような表情をしていたということはなんとなくだがわかった。
「何だ、文句あるのか?」
俺がいかにも機嫌悪くしたことに近衛の騎士も気づいたようで俺に対して喧嘩を売るように言葉をかけてくる。というか、こいつは確信犯だ。完全に俺に対して喧嘩を売ろうとしている。俺のことがそんなに気に食わないのか。
近衛の騎士ということは、俺のイメージとしてはやはり騎士道に通じている立派なイメージというものがあるが、何でだろうか俺が読んできたラノベの中でも騎士って意外と傲慢なキャラで書かれている。もしかして今まで読んできた数々のラノベの作家さんたちは異世界の騎士が傲慢であるということに気が付いていたということなのか。そうだとしたらすごい。
「いえ、別にないですけど」
俺は、とてもくだらないと思ったので適当にあしらう。相手の土俵に乗るなんて馬鹿がするようなことだ。こいつ頭よさそうには俺的にはおもないし。俺の目の前の諠譁を売ってきた騎士はいかにも脳筋ですという奴だったからだ。
「ちっ、くそ、つまらんやつだ」
騎士がそんな汚い言葉を使っていいのかよと思えたが、それは言わない。
というか、完全に俺に喧嘩を売ってますよね、ね。
どんだけ俺のことが気に食わないのですかねえ。まったく、呆れたことだ。
俺が、相手をしないということに気づくとつまらない奴だと勝手に決めつけて帰っていった。
俺視点からすると完全にあほな奴。というか完全にモブだった。あいつは一体何がしたかったのだろうか。本当にそう思えた。
まあ、そんなどうでもい奴のことはこの際もういい。
「カズユキはよくあんな態度の奴の諠譁に乗らないよな」
「そういったところはすごいと思うよ」
俺が、適当にその近衛をあしらうとミリー教官とルミエ教官が俺のことを感心して褒める。そんなにすごいことなのか俺にはわからないが、どうやらすごいみたいだ。
「精神は大丈夫。あとは、体だ」
「あとは魔法だ」
「「さあ、修行の続きをしましょう!」」
「え、えええええええええええええええええええええええ」
感心されたのにそのままつらい修行を続けるなんて聞いてないよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお。
俺は、叫んでいた。