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第36話 2人の狂気

 更新遅れました。すみません。

 時が流れるのは早かった。

 学院の生活は長いようであっという間に終わってしまった。

 ミスティルと協力する関係を決めてからもう1年が経った。つまり、俺らの学院の卒業があと少しという場所にまで近づいていた。

 夕方。学院から人がほとんどいなくなっている時間。

 俺は、学院の校舎の中を歩いていた。

 

 「あと少しで卒業か」


 「カズユキ、何感傷に浸っているの?」


「ユエか」


 「ユエか、って。何よ、私じゃいやだったの? もしかしてミスティルの方がよかったりして」


 「そんなことないから」


 俺がユエに対して適当な受け答えをすると必ずと言ってもいいほどの受け答えパターンとしてミスティルの方がという話がこの1年の間で定番と化していた。ミスティルと協力関係を決めてからいろんなことがあった。まず、ユエとミスティルが俺を取り合っていろいろと争っていた。

 2人の仲が悪いと思っていたのであまり関わりたくはなかった。しかし、以外にも2人の仲はそこまで悪いものではなかった。いや、むしろ良さ過ぎるものであった。

 女子ってわからないよな。

 1人の男を取り合えば普通はドロドロするようなもんじゃないのかなと思ったが、そうはならなかった。それも、俺がもう未来一筋であったことが2人に絶対に振り向かせてむせるという謎の同盟でも生んだのかなと思ってしまう。


 「へぇー、ほんとかな」


 「ほんとだよ。あまり疑わないでくれよ、ユエ」


 ユエの顔が一気に近づく。

 てか、近い近い。

 顔が近い。

 ほぼゼロ距離じゃないかよ。もし俺が転んだら完全にキスをしてしまうぐらい近い距離だ。いや、転ばなくても少し動いただけでキスしてしまいそうな距離だ。


 「顔、真っ赤にしちゃってかわいい」


 ユエにからかわれていた。

 俺は、その言葉が癪に障ったので無視して別の場所へと行こうとする。


 「ごめん、ごめんってばあ」


 ユエが、俺がすねたので謝ってくる。しかし、軽いノリだ。完全に誤っているわけではない。冗談とは言え人を小ばかにするというかからかうのはやめてもらいたい。

 俺は、そこまで精神メンタルは強くないことで定評なんだぞ。って、なんで自分で自分の欠点について冷静に考えているんだ、俺は。


 「……」


 俺は、ふてくされて家に帰ろうとする。

 それをユエが防ごうとする。


 「待ってよ、カズユキ。今日はいきたい場所があるの」


 「……行きたい場所?」


 俺は、ユエが行きたい場所と言ったことに疑問を感じた。

 俺達が入学してもう2年いや、卒業まであと少しだから3年弱が経過する。

 だからおおよそ行く場所は行った気がする。いまさらながら行くような場所は少なくとも俺には思い浮かびはしない。

 果たして行きたい場所とはどこの事なのだろうか。

うーん。うーん。

 やっぱり心の中で唸っても思い浮かびはしない。そりゃあ、少し考えたぐらいで思い浮かぶようであれば苦労することはない。


 「ええ、ちょっと付いてきてくれない?」


 「まあ、もう授業はないし、やることもないからいいけど」


 この時期はもう卒業の手前だから授業はそもそもない。それに課題とかはもうすでに提出しているため卒業要件も満たしている。だから、あとは卒業式を迎えるのを舞うだけでの状態で、完全に自由な時間を持て余しているところなのだ。

 学院に今日も行っていたのは、純粋に残りの学院を楽しんでいるというよりも自分にゆとりを持つことができる期間があと少しであると今は思っているのでそのゆとり期間をゆっくりと満喫しているという意味があった。


 「じゃあ、行こう行こう!」


 ユエは、少し顔を赤くして俺の手を思いっきり引っ張って俺をどこかへと連れ出した。


 ◇◇◇


 少し時間経つ。

 俺は、どうやらユエが言うとことの行きたかった場所とやらに着いたらしい。

 場所は学院のある町アキナの郊外。町と行ってもいつも俺らが買い物とかで行くような街の中心部ではなく町のはずれに位置している場所に俺は連れてこられた。


 「……え、ええっと、ユエさん? ここは?」


 俺は連れてこられた場所が以外過ぎて動揺が隠せなかった。

 うん。これは動揺をする。誰でも。

 俺が連れてこられた場所はいわゆる町はずれの娼館が並ぶ地域。つまり、俺がもともといた日本でいうところのラブホテル街というところか。そんな場所に連れてこられた。しかも、その中の宿の中に入らされた。

 入り口に。

 あまりに自然な動作過ぎてどうしてこの建物に入ったのか理解をするのにだいぶ時間がかかってしまった。

 まだ部屋には入っていないが、ロビーのような場所で我に返ることができてよかった。


 「カズユキ、部屋どこにする?」


 「……ユエさん。人の話を聞いてます?」


 「さて、この部屋がいいかな」


 ユエはどうやら俺の話を無視してでも部屋に入るつもりのようだ。

 何、ユエさんまさかここにきて俺と既成事実でも作ろうとしているわけ?

 俺の背中から冷汗が止まらなかった。このままでは俺はユエに襲われる。彼女がいなかったのならばこの状況が万々歳であるのだが、彼女持ちであるがゆえにこんな背徳的なことはできない。俺は、浮気をしない人間なんだ。いや、未来一筋の人間なんだ。男なんだ。

 だから、ここでユエとヤるわけにはいかない。


 「ユエちょっと話を聞いてくれな──」


 俺は、覚悟を決めてどうにかしてユエを止めようとする。しかし、俺の言葉は途中で途切れた。ここにいるはずのない第三者の手によって俺の言葉はかき消されたのだ。


 「ちょ、ちょっとあ、ああああなた達こんな場所でな、なななな何をやっているの?」


 「ミスティル……」


 俺の言葉をさえぎったのはミスティルだった。

 ただ、今日俺はミスティルに一度も会っていない。帰り道でも会った記憶はない。後ろをついてこられた記憶もない。だから、どこから一体言い方は悪いが湧いてきたのだろうか。

 尾行されていた記憶は本当にないのだが……


 「ミ、ミスティル」


 ユエがギクッとやばいものに見つかってしまったという表情をしている。まあ、抜け駆け的な行為だからなこれは。

 さて、自分の事なのでどうしておれがこんな冷静に対応しているかと言うと、2人の気持ちはしっかりと告白を受けているから知っているからもあるが、俺自身2人の気持ちにこたえるつもりはないからあんまり深く考えることをあきらめている自分がいるのだ。2人があきらめない状況をずっと見てきたがこの1年は何とも言えなかった。

 そして、今日ユエに至ってはついに強硬手段に出てきた。


 「ユエさーん。あなた一体何をしようとしていたのかな?」


 「え、えっと今日は疲れたから寝ようかなって思って……」


 ユエの言葉は語尾の方はごにょごにょとして聞き取りづらかった。


 「疲れたのならいつものように自分の家で寝ればいいじゃない!」


 「た、たまには自分の家以外でも寝たくて……」


 ユエはどんどんと縮こまっていく。

 完全にミスティルの勢いに押されていた。


 「寝るってどういう意味の寝るなのかね。こんな場所で寝るって言ったらもうあっちの意味しかないんじゃないの?」


 「そ、それは……」


 ユエは完全に負けていた。

 言葉に詰まっていた。

 だが、ミスティルのおかげで俺はどうやら助かりそうだ。ユエに無理やり既成事実を作らされかけていたがいいところで助けの船が来てくれてうれしかった。

 これで無事帰れる。


 「まあ、いいわ。私も混ぜてくれるなら」


 「えっ!?」


 その言葉を俺は疑った。

 ミスティルは一体何を言っているのだ。

 わからん。


 「……じゃあ、一緒にカズユキを襲いましょう」


 「いいわ」


 「えっ!?」


 ちょ、ちょっと2人と何を言っているんだ。

 俺の背中から冷汗が流れ始めた。これは大変な状況だ。逃げなくちゃ。

 俺は、一目散に建物の外に出ようとする。しかし、その行動は2人によって邪魔された。


 「スリップ!」


 ミスティルが俺に魔法を使ったからだ。

 この3年間の学院生活でまともに魔法と関わっていなかったというのにここにきて魔法と関わるとは。

 スリップという魔法により俺は地面に派手にぶっころんだ。


 「いててて」


 思いっきり転んだので体がかなり痛かった。

 立ち上がろうとして前を見ると笑顔の2人がいた。笑顔だが、その瞳にはどこか卿記のようなものが見えた。


 「カズユキ」


 「覚悟おおおおおおおおおおお」


 「ああああああああああああああああああああああああああああああ」


 この後俺がどうなったかは言うまでないだろう。


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