第34話 正体
祝! 10000PV越えです。自身の作品においてはギン、祖竜、内閣、戦国群馬に続いて5作目です(24作品中)。
返事は無言だった。
無理やり答えさせるのは後ろめたさがあるから、本人の意思でしっかりと俺に説明をしてもらいたい。
だから、本人が話したいと思うまで待っておこうと思う。
「……」
「……」
「……」
「……」
無言の時間が続く。
向こうの意思を尊重すると決めたが、これではいつまで経っても話してくれそうな気配はない。もう帰っていいだろうか。
「まあ、話したくないのならいいや。俺はもう帰るぞ」
俺は、そう言って踵を返し自分の学生寮の部屋へと戻ろうとする。
すると、俺は動こうとしたはずなのに後ろから何か別の力が加わり動くことができなかった。
まあ、正確なことを言うと俺の服の裾をミスティルが握って俺の動きを封じていただけなんだけど。
「どうしたんだ? 俺は、もう帰りたいんだけど」
「あ、あのね。カズユキ君に聞いてほしい話が合って来てもらったの」
ミスティルの声を初めて聞いた。ギャルというかビッチというかそんな不良少女の風貌をしているので声はドス暗く話し言葉もきついものであると思ったが、その声は高く結構いい声であった。言葉も汚い言葉ではなくよくいる俺たちの世界の優しい女の子のような口調であった。
見た目で人を判断することがいかに誤っていることであったのか思い知らされた。でも、声が柔らかくて人がよさそうでも内面が酷いという例もある。
ただ、なんとなくだがミスティルからは悪い人だという印象を持てなかった。どうしてかはわからないけど。まあ、それも彼女の話をしっかりと聞くことでわかるかもしれない。
「話ってなんだ?」
俺は、まだミスティルについて知らない。今まで話したことがないからな。だから、ちょっと乱暴な言葉になってしまったが、彼女との初コンタクトをすることにした。
そのためにも彼女の話ってやつをしっかりと聞くことにする。
「カズユキ君。あなた、異世界人でしょ」
「っ!?」
俺は、ミスティルのその言葉にかなり動揺する。
動揺のあまりまずごくりと唾を飲み込んでしまった。
「その反応。やはりそうなのね」
「どうしてそのことを?」
「そうね。その前にあなた異世界人でしょという私の質問なんだけど、私はあなたのことを知っていたわ。だから、あなたに今の質問をしたのは別に確認のためでもなかったの。一応、あなたがどんな反応をするのか確認のため。さて、本題に入りたいけどいい?」
「……」
俺は、今のたった数回の会話だけでミスティルに対する不信感やどうして知っているのだという疑問がもやもやした形で出てきていた。そのためミスティルの言葉に対して反応することなく無言でいた。
いや、どういうことなのかわからなくて自分でも混乱していたので返事をするどころではなかったというのが正しい表現なのかもしれない。ともかく混乱をしていたのは確かだ。
「返事がないということは本題に入ってはいけないということかな?」
「はっ! いや、そういうことじゃなくて、ちょっと、混乱というか、訳が分からなくなっていてちょっと頭の中で整理しなくてはいけなかったからパンクしていて、だな、って、何を言っているんだか」
本当に自分でも何を言っているのかわかっていなかった。
混乱しすぎだよ。
「あははは、面白いね。カズユキ君は」
「面白いか?」
「ええ、私としては面白かったわ。で、多分私があなたのことについて知っていることに混乱しているのでしょ?」
「ああ、そうだが……」
「なら、私も正体を教えるよ。まあ、あなたの敵でもあり味方でもあるような存在だとは思うからどう反応すればいいのか困るかもしれないけど。私の本当の名前は、サクラ・コスモ・シュベ・レーゼマン。コスモ王国現国王ヴェッテルンヒルゼ・コスモ・シュベ・レーゼマンの側室の子なの」
「あ、あのくそ国王の子……」
目の前のミスティル改めサクラは、俺に自らの正体をさらけ出した。彼女の正体は、俺を追い詰めたあのくそ国王の子であったのだ。
「あなたの敵であるあの国王の子。でも、私はそれ同時にあなたの味方でもあると言ったわ。その意味についてあなたはどう考える?」
「敵であると同時に味方?」
俺は、サクラの言っていることの意味が解らなかった。敵であるのに味方であるとはどういうことだ。
「ギブだ」
素直にわからないと認める。
「そうね、わかったわ。私はまずどうしてこの学院にいるのかなんだけど、いくつか私には目的があるわ。1つ目は、国王から直接の命令であるのだけど私は側室の子なの。だから王位継承順位なんてあってないようなものなの。だから、外国の学院において学問を学んでおけと言われて留学しているの。2つ目は、私が国内で婚約者をつけられ無理やり政略結婚の道具にされるのが嫌で逃げてきたというのがあるの。そして、カズユキに一番関係があるのは私の3つ目と4つ目の目的だわ」
「3つ目と4つ目?」
「そう。3つ目は、あなたの監視よ。あなたがこの学院に入学したことはすでにあの国王の下には伝わっているわ。だから、ちょうど学院に入学していた私に監視せよとの命があったの。あなたが変なことをしないようにね」
「何だとっ」
俺の動きが伝わってだと。それはかなり深刻な状況だと言える。あの国王を倒すために今まで動いてきていたというのにその計画がバレバレであるという可能性も高いからだ。監視されていることには気づかなった。失敗だ。
「そして、4つ目は、私は国王が大嫌いなの。いや、殺したいほど憎んでいるの。あなたと同じように。私の母はあの国王に無理やり犯され側室にさせられ、そして興味なくなった瞬間に捨てられたの。あの日、母が捨てられた日の事は忘れることは今でもできていないわ。だから、国王に従っているように見せていつか国王を殺してやろうと思っているの」
殺す。
不穏な言葉であるが、ようは大好きな母のためにも自身の母を不幸にしたあのくそ国王を許さないということか。
そういう意味で、俺と目的が同じ、俺と共通の敵になるというわけか。なるほど。
「で、その話をわざわざ俺にしてきたのにはやっぱり理由があるんだよな」
「ん。そう。私からのお願いはただ1つ」
「1つ?」
「そう。カズユキ君。私の婚約者になってくれない?」
「ん? ……はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ?」
校舎の裏の誰にも見つからない場所であったのだが、そんな場所で俺の絶叫だけがひびいたのだった。




