第32話 月日の経過
学院生活が始まって1年が経った。
急に月日が経ちすぎであるとか言いたいと思うが、この1年間は本当にまじめに勉強をしただけであった。
面白いことは何一つとして起きなかった。いや、これほんと。
嘘だと思いたいなら思っていてくれていい。でも、ほんとのことだ。ちなみにクラス替えというのはこの世界においてはないようだ。あの、仲の良かった友達とクラスが離れ離れになって新しいクラスで一年間うまく過ごしていけるか、新しい友達ができるのか不安に思うあのクラス替えというのがないのだ。これは、悲しいと思うべきなのかうれしいと思うべきなのか。何とも複雑な気持ちだ。
さて、新しい年になってもクラスが変わらないということは、問題は継続している。それは、皆さん忘れているかもしれないが、俺たちのクラスにおいて入学した時から警戒している人達がいたことを覚えているだろうか。あの、派閥のボスらしき女だ。
あの女の名前はミスティルというらしい。どこの国かは忘れたが、名門貴族の一人娘みたいだ。あの女王様みたいな目はそういった裕福な環境で育ったことで身に着けたのだな。さて、そんな女であるが、いまだに関わったことがない。授業においても話したことがないと言っても過言ではない。また、彼女が俺以外にもクラスメイトと話しているのを見たことがない。話しているのは、周りに付き添っている3人の女ぐらいだ。
彼女は、孤独ではないのか。
俺は若干、彼女について興味を増していた。もちろん、この興味というものの中に恋心、恋愛という下心は含まれていない。俺は、あくまでも未来一筋ですからね。
でも、なぜだかわからないが、この1年で彼女に対する興味が増した。
この1年で彼女のことについてほかのクラスメイトに聞いたりしてみた。彼女の名前と出自についてはもう聞いているからそれはいいとして、それ以外のことについても聞いてみた。しかし、以外にもあんまり情報は集まらなかった。どうしてだろうか。
謎が謎を呼んだ。
どうしてなのだろうか。
不思議だなあ。
「そこまで関わる必要はないんじゃないか?」
「まあ、そうなんだけどさ……」
「どうした、歯切れが悪いぞ」
俺は、教室の中でこの1年間で最も仲良くなったというか悪友となったレイヤとだべっていた。え? ユエはどこだって? ユエは別に俺に1年中ずっと付き添っているわけではない。今頃は、クラスの女子と町へスイーツでも食べに行っている頃合いだろう。俺としては、最初の頃のユエは俺以外に興味がないという完全に協調性ゼロの人間であり将来が心配であったが、今となってはクラスの全員と仲良くしている。クラスどころか他クラス、他の学年とも仲良くしている。かなり人間関係が広くなった。
まあ、ユエは商人であるのでコミュ障であったのならば商売がうまくいくはずがなかったので、人間付き合いは元々よかったはずなのだ。
「おいおい、何考えているんだ。ユエのことか?」
「ん? まあ、そうだが」
「はあ~、これだからリア充は! 男と話している時も女の事しか頭にないのですかいな」
「う、うるせえ! 別に俺だっていつも女のことを考えているわけじゃないっ!」
「本当か?」
「ああ、本当だ」
「嘘だな」
「ああ、嘘だと思う」
「同じく」
「「「「「そう思う」」」」」
いつの間にかにレイヤとだけ話していたはずだったのが、周りにいたクラスメイトも話に参加してレイヤの意見に同意をする。俺のことをかばったやつは一人もいなかった。何と卑劣な……
「お前らなあ……」
ちょっと、俺は呆れてしまった。
というか、こういう時だけ一致団結するなよ。まったく、俺を共通の敵にしてまとまるクラスとか嫌だわ。
でも、俺は意外とこの空気に慣れていた。元の世界のこっちに来る前までの日常を取り戻したかのような平穏さであった。ここが異世界でなければ完璧だった。クラスメイトと意味もない話をして、無意味に笑って過ごせている毎日。
だが、この楽しさと同時に俺の心の中ではある葛藤が起こっていた。本当に今のままでいいのか。俺の復讐心がどこか薄れていっているようで怖かった。未来を救うために俺は大臣になる。健が今も戦っている。俺に力はなかった。戦う力は。だから、俺は別の方向で戦うことにした。俺みたいな社会オタクは政治力で戦うしかないと考えた。だから、必死にこの世界の政治の話を授業で聞いた。
いつ、復讐ができるのかそう遠くはないと信じたいが……
俺の復讐心が消えないようにしないと。しないと。
その日の授業は何事もなく終わり、帰りはユエと一緒に帰り、ちなみに家の方は今学校の寮に通っているのでユエとはもちろん男子寮、女子寮と全然違う部屋だ。部屋に帰って日夜この世界の政治関係の書物や資料について目を通すことをした。
「カズユキ、大丈夫?」
帰り道にここ最近ユエは俺にそんな言葉を言ってくる。俺はその言葉に対して、
「ああ、大丈夫だよ。どうかしたの、ユエ?」
と、逆に聞き返すことをずっとしていた。
しかし、本当は気づいていた。俺は、もう狂っている。復讐に囚われつつも忘れかけている自分を許すことができなくなっていることに関して怒りを覚えており自分の心にセリができなくなっていたのだった。