第3話 まさかの召喚
健と未来の指の指す方へと僕も振り返る。そこで僕が見たものは───
「石!」
光っている石であった。その光はこの世ならざるものともいえるほど神々しかった。まるで、神様の化身がそこに宿っているかのようであった。
「おいっ! 何だよあれ」
僕はあまりの出来事に気が動転してしまう。ただ、それは僕だけでなく健や未来も同じであった。
「し、知るかよ」
「分らかない」
2人は口々に知らないと答える。未来にいたっては気があまりにも動転しすぎてわからないがわらかないになっていた。
ただ、その間違え方は可愛い……なんてことは今は考えているほど余裕がなかった。
「そういえば……」
健が何かを思い出したかのような仕草を取る。
「どうした、健?」
僕は健に何か心当たりがあるのか尋ねている。
「ああ、そういえば1つだけ心当たりがあったんだ」
心当たりがある。1つだけと健は言ったがこの状況の中で1個だけでも手掛かりがあるのならば最高だ。
「それは何?」
未来が健に尋ねる。
僕達の置かれているこの摩訶不思議な現象の解説は全て健の手にかかった。
「ああ、1つだけあったのだが、これは俺の知り合いに稲目君から聞いた話なんだが、稲目君はこの町の隣に位置している高天原市に住んでいる高校1年生何だが、彼は神武神社という隣町にある神社でこの光っている石に出会ったって笑って語っていたよ」
「……それで」
どうやら僕達以外にも光り輝く石に出会ったことのある人がいるみたいだ。一体その人たちは出会った後何があったのだろうか? むしろそこの辺の話が一番気になる。だから、僕は健の話の続きに耳を傾ける。
「ああ、それでか……えぇーと、確か何かこの後詳しいことは分からないけど友達が実は因縁の相手であったことが分かって家と家との大戦争になったとか言っていたような……」
「「……」」
最後の方の話は信じられない。
っていうか戦争って何の話だ。
「そんな話信じられるか!」
僕は健に怒鳴りつける。しかし、健の方は何かおかしいことがあったのか? ときょとんとした表情であった。
「「……」」
そんな僕と健のやりとりを見ていた未来は何事も言わずにただただ黙っているだけであった。
マジなのか。嘘ではないのか。作り話ではないということが今の健の態度からわかってしまった。
「じゃあ、あの光り輝く石は僕達に災いをもたらすのか?」
僕は健に聞いた。今の話が確かだというと今すぐこの光り輝く石から離れないとどうしようもないことになってしまう。
どうやら、それは健や未来も理解していたらしく逃げ出すために石に背を向けて走り始めようとする。
「逃げるぞ!」
「ええ」
「ああ」
健のその言葉に続いて未来そして僕と返事をすると同時に光り輝く石から離れるように猛ダッシュをした。しかし、走り始める瞬間に僕は不思議なことに気が付いてしまった。その不思議なことというのは何かというと、
「前に進まない!?」
そう、僕達は光り輝く石から逃げ出すために公園の出口に向かって走っているはずであった。しかし、どんなに走っても僕達と目の前にある公園の出口の距離は一切変わることがなかった。そんなに距離があったはずはない。せいぜい70メートルぐらいの距離のはずだ。それが、近づくことがない。完全におかしな話であった。
「石の光がよけい増しているぞ!」
健が叫ぶ。
その言葉で僕も後ろの方へと振り向く。未来も僕を習う形で後ろの方へと振り返る。
先ほどから輝いていた石は健が言うように先ほどよりもさらに輝いていた。神々しい。この世ならざるものだというのが嫌でも理解しなければならないほどの神々しさであった。
「何なんだよ、あれ!」
僕はつい怒鳴ってしまう。ただ、怒鳴ったところで僕にも健にも未来にもその答えは分からない。もし、この現象の答えが分かったとしても僕には何もできない。不思議とそんなことも考えてしまった。
いやいや、考えるな。今はここから逃げることだけで精いっぱいだ。変なことを考えている暇があったら足でも動かして一歩でも前へと進まなければ。
「足が……」
しかし、そんなことを考えた次の瞬間に僕の足は進むことなくむしろ後ろの方へと下がっていた。
「くう」
健が必死にあがこうと変な声を上げている。
「はあはあはあ」
未来は女子だけあって流石に体力の限界が近づいているようであった。息がすでに上がっている。そのため光り輝く石から発生している引力によって石の方へと引っ張られている。
「未来!」
僕は叫ぶ。そして、手を未来の方へと伸ばす。普段の僕ならこんな大胆な行動はしないが今はそんなことを言っている場合ではない。未来を助けなければならない。未来は僕が手を伸ばしたことが意外だったのかその表情はとても驚いていた。だが、すぐに笑って僕の右手を握るために左手を伸ばす。
「未来、あとちょっと……」
ほんのあと数センチの距離であった。だが、未来の限界であったのか未来の手は僕の右手にと届くことなく無情に後退していく。
そして、最悪な事態になる。
「あああああああ」
ついに限界を迎えたみたいだ。
未来は石から発生する引力に負けてそのまま引っ張られてしまった。そして、そのまま石の中に吸われてしまった。
吸われた!?
「未来ー!」
僕は叫んだ。そして、次の瞬間に勝手に体が動いていた。僕は全身から力を抜いてそのまま光り輝く石の引力になすがままに引っ張られることとなった。
「おいっ! カズ!」
健が慌てて叫んでいるがもう僕には関係ないことだ。健、お前だけでも助かれよ。僕はそう思ってそのまま石に未来と同じように吸われる。
ただ、吸われる直前に健が動いていたをどうにか確認しただけであった。
「まったく、お前らを置いていけねえよ」
♢♢♢
ドスン
どこかに落ちた音がした。
「いてて」
僕はどうやら生きていたようだ。死んでいなくて何よりだ。ただ、僕以外に未来と健があの石に飲まれているはずだ。あの2人をどうにか探さないといけない。
そう思って僕は周りを見渡す。あたりは真っ暗だ。何も見えない。
動かない方がいいかな。
一瞬そう思ったがとりあえず立ち上がるだけ立ち上がろうと思って手を少し前に出す。
むにゅ
何か柔らかいものに触れた。
何だろ、このやわらかいもの? そう思ってもう少し触り続けてみる。その柔らかい物はふくらみがなくほとんどひらぺったいものであった。何だろ、触り続けてもこの感触の正体が分からなかった。
ドスン
そこに急に何者からの攻撃を受けた。だ、誰だ?
「誰?」
「未来よ! カズ! いったいいつまで人の胸を揉んでいるの!」
えっ。む、胸? もしかしてあの柔らかい感触って胸だったの?
「ごごごごごめん」
急に意識し始めてしまう。
未来は貧乳だとバカにしていたが女子の胸ってあんなに柔らかいんだ。これなら貧乳だって……って、何を考えているんだ。忘れろ忘れるんだ。あの柔らかい感触のことは。
「べ、別に反省しているならいいよ……カズになら別に嫌じゃないし」
「えっ、何か言った?」
後半に何を言ったのかごにょごにょしていて分からなかった。
「何でもない!」
ただ、未来はそれ以上答えてくれなかったので仕方なくこれ以上聞くのをあきらめることとした。
すると、この場は静まり返った。僕は未来と背中合わせで何も話すことができずに俯いていた。意識せざる負えない状況だ。僕の顔は物凄く真っ赤になっている。リンゴよりも赤いだろう。
男女2人真っ暗な空間で。ますます意識してしまう。僕も男だ。それなりに性にも興味がある。まして相手が未来だ。僕は未来のことが好きだ。この気持ちは小さいころから変わらない。ただ、今の僕と未来には学校において立場も地位も完全に違う。スクールカーストという嫌な言葉で言えば最下位と最上位という差といっても過言ではない。
「未来」
「カズ」
お互いの声が重なる。すると、顔をお互いそむける。声をかけてこの状況を打破しようと思ってやったことが裏目に出てしまいますます気まずくなってしまった。
誰かこの状況を変えてくれよ。僕はそう願った。
「ぷはははは」
次の瞬間に僕でも未来でもない第三者の笑い声が聞こえてきた。その声の持ち主は僕にもそして未来にも分かった。
「「健!」」
その声の持ち主は健であった。
「いやあ、ごめんごめん。ずっとこの場にいたんだけどね、2人の仲を邪魔しちゃだめだと思ってね。好きなら好きって言っちゃえばいいのに」
健は笑いながら答える。ただ、その言葉で僕もそして未来も全身が熱くなる。
「未来?」
「カズ?」
好きなら好きって言っちゃえばいいじゃん。確かに好きだ。僕は未来のことが好きだ。じゃあ、いつ告白するか……どっかの某有名予備校の講師ではないが今っきゃないでしょ。
ここここ告白するべきなのか。
「未来」
「カズ」
2人の間に妙な空気が慣れる。こっちからでもわかったが未来もいやいやではなさそうだ。
「じゃあ、お2人さん。俺は少し離れるから好きにやっちゃっていいよ。ああ、カズ。1つだけ言っておくよ」
1つだけ。間をおいて健が何やら大事なことを言おうとしてきた。一体どんな話だろうか。
「何だよ?」
「童貞卒業おめでとう」
「「ぶはっ」」
僕とそして未来までむせてしまう。
どどどどどどどど童貞卒業ってそれって、あれだよな。あれしかないよな。
僕は顔がさらに真っ赤になる。
うっすらと暗い視界に慣れてきたので未来の顔も判別できるぐらいになったがその未来の顔も真っ赤になっていた。
「健! 何を言っているの!」
未来が全力で抗議をする。もちろん、僕も同意見だ。
「いやさあ、お前ら両想いだろ。それに、先ほどからの空気からこのまま大人の階段でも上るかなあと思ってさ」
健は何の悪気もなく答える。
「りょ、両想いって」
「あれ、違ったのか? カズは未来のことが好きだろ? そして、未来もカズのことが好きだろ? これを両想いといわなくて何なんだ?」
あれやこれや健がすべてこたえてしまう。まだ僕は自分の口から未来のことが好きって言ったことがないのに。そして、健に話したこともないのにどうしてこいつは知っているんだ。
「ど、どうしてそんなこと言えるのよ」
未来が物凄い動揺をしながら健に質問する。
「2人とも隠していても行動でバレバレだよ。ちなみに俺の勘違いだったらごめんな。2人に変な気を起こしたことを謝るから。でも、事実だろ、なあ、未来?」
うう。
未来が何も反論ができない状況へと追い詰められた。
顔が物凄い真っ赤だ。まるで熱があるみたいだ。
「はぁ」
途中で未来はすべてをあきらめたみたいだった。何をあきらめたのかはまだ僕には分からなかった。でも、次の瞬間に嫌というほどわかることになる。
未来は僕の方へと振り向いた。
「カズのことが好きです」
未来は僕に告白をした。
僕の顔は物凄い真っ赤であった。心臓はバクバクドクンドクンと鼓動を鳴らしている。
対する、未来の顔も真っ赤であった。その表情は恋する乙女といったところか。おそらく、僕と同じように心臓がバクバクドクンドクンとなっているに違いない。
僕は未来のその告白に対して何も考えずずっと自分が心に秘めていたものを返事として伝える。
「僕も未来のことが好きです」
「ほらー、両想いジャン」
横から健が口を出してきた。っていうか、ほとんどお前のせいでこんな告白タイムになったのだろ。今はどこにいるのか、どんな状況なのか分からない緊急事態だというのに。
「じゃあ、2人ともあとはお楽しみに。カズは未来を妊娠させないように気を付けるんだぞ」
カア
その言葉で僕と未来はまた顔が真っ赤になる。今日は何段階顔が真っ赤になれば気が済むのだろうか。
「「健!」」
「ごめんごめん。じゃあ、冗談はさておき、本題に入りますか」
健は急にモードを変えて真面目になる。しっかし、健があそこまでむっつりだったとは意外だった。おっと、もうその話はやめないと、今はこの状況を理解するために切り替えなければならない。
「健は何か知っているの?」
未来は健がもう少しこの状況を理解していないか尋ねる。
しかし、健は首を振る。
「いや、俺の知り合いでもこんなことになったというのは聞いていない。つまり、今回俺達が巻き込まれたのは俺が話した話とは別口の出来事だ」
「別口……」
どうやら健の知識でも限界のようだ。この真っ暗な空間が一体どこなのかわかるのが一番いいのだが、それが分からない状況であった。
カンカン
「シッ!」
急に健が僕達に静かにするように言う。それに合わせて僕達も静かにする。
カンカン
どこからか甲高い音が聞こえる。この音は何だ?
カンカン カンカン
また、音が聞こえた。それも1つではない。複数の音であった。
「この音は?」
「誰か人の声が聞こえるぞ!」
外から男の声が聞こえた。その声が聞こえると同時に僕達の目の前は急に明るくなり複数の音が現れた。
ドドドド
複数の男─恰好的に兵士であると僕には推測できた。
そして、僕達はあっという間に兵士達に囲まれてしまった。兵士たちは僕達のことを怪しいものと判断しているのであろうか。
「お前ら待て!」
そこに新たな男の声が聞こえる。誰だ? その声の持ち主の現れた方へと僕は顔を向ける。同じように兵士たちもその男の方へと顔を振り向け、いや、体も振り向けて手を頭の横に持っていく。いわゆる、敬礼の姿勢だ。
「はっ、マダロス隊長!」
マダロス隊長。隊長ということはここにいる兵士の中で一番偉い人物だということが周りの兵士たちの緊迫とした雰囲気から理解できた。
「そこの者たちは例の召喚の儀式の子らか?」
例の召喚儀式? 不思議な単語が出てきた。召喚儀式といえば僕が思いつく限りではよくライトノベルや漫画やアニメなどでっていうよりもよくラノベで勇者召喚のときに行わる儀式のことだろう。
「はっ! 召喚時に差した座標はここであったので間違いはありません!」
「そうか……で、3人か」
3人か。その言葉から召喚される予定だったのは1人だということだろう。未来が呼ばれたのか健が呼ばれたのかということだろう。えっ! 僕? そんなことないだろう。
マダロス隊長は何かを考えると僕達の方へと近づいてくる。もしかして、ここで呼ばれた奴じゃなきゃ殺されるとかいうオチじゃないよな。やめてくれよ。まだ、未来と恋人になって数分なんだからまだ、童貞だから死ねないよ。
マダロス隊長は僕達を見下ろすように目の前に立つと重く閉じた口を開く。
「で、君たちの中の誰が勇者だ?」
どうやら僕達は勇者召喚されたそうです。