第29話 試験一
入学試験まであと6日になった。入学試験においてどんな得意なことを見せるべきなのかユエと俺は必死になって考えてみた。
「俺たちは何を披露すべきなのだろうか?」
「魔法?」
ユエは魔法とか簡単に言う。
「ユエは使えるのか?」
「……」
使えないのかいっ。
俺が、ユエに魔法が使えるのか尋ねてみると黙ってしまった。黙ったのを見て俺はすぐにああ、これは、ユエは魔法を使うことができないのだな、っていうことを察してしまった。
ってか、もし俺がユエに魔法が使えるのと尋ねてくるということを想定していなかったのか? 普通に考えれば魔法を使うことができのかって尋ね返すだろう。
「そうですよぉー、私は魔法がつ・か・え・ま・せ・んー」
ユエは逆切れした。
魔法が使えなくて何が悪いのだとと。
いや、別に使えなくても文句はないけど、あなたから尋ねてきたのでしょう。俺は、そう思ったが言ってはいけないと思い黙る。
「……」
「……」
嫌な空気が二人の間に広がる。
「え、えっとさあ。ユエ」
俺はその空気を壊すため、どんなことを披露するか俺が考えたものを言う。
「商売の技術でいいんじゃない?」
「……」
ユエは、俺の言葉に黙っていた。
いや、え、ええっと。あれ? おかしなことを言った?
もっと、いい案とかあったのか。
すると、ユエが突然大声を出す。
「その手があったのね!」
「うわぁ」
俺は、ユエがいきなり大声を出したので驚いてその場に倒れてしまう。いや、だって。急に大声を上げられたら誰だった驚くのは当然だろう。
俺はかなり驚いた。
「じゃあ、商売についてもっと勉強しましょう。今の私たちは実際にお店を持っていたのだし、売り上げもよかったのだしね」
ユエが急に元気になった。
魔法が使えないことを気にしていたユエだが、商売の才については誰にも負ける自信がないということだろうか。
俺は、そんなユエの様子を見てほほえましいのか笑ってしまった。
もちろん、笑っていることをユエに気づかれてさんざん叩かれたり罵しられたのはその後すぐのことだった。
1週間後。
ついに入学試験の日が来た。
1週間前に、学院関係者の人に言われた場所に行くと大勢の人でいっぱいになっていた。
「うわぁ、人が多いねカズユキ」
「ああ、そうだなユエ」
人が想像以上に多かった。
何人いるのだろうか。見渡してみるかぎり300人ぐらいがいる。この中から何人が合格できるのか。俺はそのあたりの情報もこの1週間の間に調べておけばよかったと思ったが、時すでに遅し。まあ、それに落ちてもまた1か月後に入学試験自体請けることができるのだし焦る必要はないと思った。
慌てなくてもいい。焦らなくてもいい。心を落ち着かせよう。
今だけは未来のことを考えず、目の前のことに集中だ。
俺は、受付にて説明を受け受験会場入りをする。ユエも俺に付き従い同じことをする。試験は、1次試験と2次試験の二つがあるみたいだ。そして、まず1次が、俺たちがいた世界で言う小論文のようなもので、自分の受験同期について書くものだった。俺はこの世界の文字についてはこっちに召喚された時に自動的に書けるように調整されていたみたいなのですらすらと書くことができた。
1次試験の時間は1刻だった。
それが終わると担当の人がすぐさま採点をするみたいでお昼過ぎに2次試験に行ける人の発表があるみたいだ。
俺とユエはそれまで町の中をぶらぶらと歩きまわることにした。
「これって、デートね」
「……」
俺は、ユエのその言葉を無視して歩いていた。
「ちょ、ちょっと、カズユキ。どうして私の言葉を無視するのよ。事実でしょ、事実。あなただって男なのだから、かわいい女の子と二人きりで街中を歩けるのはうれしいわけじゃない?」
確かにそうかもしれないが。俺には心に決めた女性がいるんだ。ってか、その女性とはれっきとした彼氏彼女の関係であるのだから、俺はほかの女性の誘惑に乗り浮気をするわけにはいかないんだ。
「うれしいが、悪いけど俺には彼女がいるからデートという表現はやめてもらいたいな」
「うわあ、律儀すぎよ。カズユキ」
「律儀なのが、俺の取り柄だから」
「嘘つかないでよ。私とあったころのあなたは世界を破滅するぐらいの形相だったわよ」
「そうだったかな?」
俺はとぼけてみたが、確かにそうだったかもしれない。
あの頃の俺は国王に復讐することしか考えていなかった。今もその目標自体は変わっていないのだが、時間が経過したおかげなのか何かとほかの事にも目を向けることができるようになってきていた。心の余裕ができたとでもいうのか。
でも、そんな心に余裕ができたことで一番恐れていることが最近ある。それは、国王への復讐心が時間の経過により完全になくなってしまうことへの恐怖だ。未来のことを忘れるのも、健のことを忘れてしまうのも恐れている。
あいつらのために俺は行動しているのに忘れてしまったらどうしよう。最近、俺はそんなことばかり考えるようになってきた。ユエと一緒にいることで救われてしまうのではないかと思ってしまう自分がいる。
だから、ユエからの恋心は何としても諦めさせないといけないと思っている。
「そうよ」
ユエは、俺の言葉を否定し、自分の言葉を肯定する。
その後、デートと称した街中を歩き続ける時間が続いた。




