第23話 夜遅くに来たお客様
コンコン
寝ようと思った矢先に俺の部屋の扉を叩く音がした。こんな時間に誰が来たのだろうか。まさか、盗賊団のメンバーが酔った勢いで俺んちに来てしまったのだろうか。まったく、これだから酔っぱらいはめんどくさい。俺は、そう思い眠い体を無理やり起こして目をこすりながら玄関へと向かう。そして、扉に手をかけて開ける。
「誰だよ、こんな夜遅くに来たのは?」
俺が眠い気持ちを抑えることができず睡眠を妨害されたことに対する怒りを込めやや低い声で扉をたたいた主へと言う。
「ああ、ご、ごめんさないっ」
俺が起こっていることに気が付いたのか、扉をたたいた主は思いっきり慌てた様子で謝ってきた。謝ってきた声は女性の声だった。
俺はその女性のことを知っていた。俺は名前を呼んでしまう。
「ユエ!?」
俺の部屋に入ってこようとして来たのは俺が立ち上げたカードゲームという娯楽に興味を持ち唯一俺に許可を求めにやってきた商人であるユエだった。
「あ、あのぉ、少しお話をしてもよろしいでしょうか?」
ユエは控えめな声で俺に話をしてきた。謙遜な態度なのはいいけど、少し時間というものを考えてもらいたかった。しかし、せっかく来てくれたのだし悪いから俺は素直に部屋の中にいれてあげた。
部屋の中に入って俺はまだ眠い体を無理やり起こすために簡単なティーを俺とユエの2人分作った。ユエは俺がティーを出すと控えめに「ありがとうございます」とお礼の言葉を言ってきた。本当にユエは商人なのか疑うほど自分を低く扱っている。商人というのは、もっと厚かましいような連中であると俺は思っていた。というか、この数日にあった商人のすべてがそのような性格の持ち主であった。まあ、性格が悪い奴でなければお客をだますことができないからうまく商売をすることができない。何となく商人がどういうものかわかってしまった。
まあ、そんなことはどうでもいい。
俺は床に座る。ユエにも悪いが俺の部屋には家具がそんなないから床に座ってもらいそのままティーが入ったカップを手渡しする。
「あ、ありがとうございます」
「そんな固くならなくてもいいぞ。そんなに俺が怖いか?」
「い、いえ。そんなことありませんっ!」
俺がユエがあまりに敬語で話してくるので自分のことを恐れているのかと思って冗談で言ってみたら、強く俺の言葉を否定してきた。それぐらいの気迫でもっと接してほしかったのだが。まあ、そんなことは今はどうでもいいのだ。問題なのはこんな夜遅くにいったいどんな話があるということだ。
「それで、こんな夜遅くに話したいことって何だい?」
俺は、本題に入らせることにする。俺はティーを少し飲んだので眠気は少しはなくなった。しかし、深夜という時間帯もあり眠気が完全に払い去ることはなくまだ眠い。それなので、ユエには悪いが早く話を終わらせて帰ってもらい俺の貴重な睡眠をとる時間を確保しようと行動に移したわけだ。
「実は……」
「実は?」
ユエが実はの部分でごにょごにょと小さい声になってしまったのでよく聞こえなかった。
「あ、あのお」
「うん、落ち着いて。声が小さいからよく聞こえないからきちんと話してくれる?」
「あ、実は、そ、そのぉ、あ、あなた……」
「あなた?」
ユエはそのあともあと一歩というところでごにょごにょとなってしまい、話を最後まで聞くことができなかった。ユエの顔がどんどんと真っ赤になっていく。ここに大きなリンゴがあるのではないかと思ってしまうほど赤くなっていた。人間ってここまで赤くなるんだとしみじみと思ってしまった。じゃ、なくて、早くユエに話の続きを言ってもらわなくては俺が眠気に負けて眠ってしまう。
「ユエ、そろそろ寝たいから話をきちんと言ってくれないか?」
あくまでも優しく接してあげないとと思っているが、眠気が俺の起源を不愉快の方にどんどんともっていく。
ユエは俺の機嫌が悪くなってきたことに声色から気づいてしまったようだ。かわいそうだと思うが、でも俺にだって寝たいという大義名分があるんだ。悪いが、話ができないのであれば帰ってもらいたい。今日が、ユエとも最後の日になってしまうが、話をする覚悟がないのであれば仕方ないぞ。
「わかりました」
ユエがどうやら覚悟を決めたようだ。
覚悟を決めるという表現が正しいのかどうかわからないが、というよりもそもそも覚悟を決めるほどの話なのだろうか。俺が勝手にそのような雰囲気に感じたから覚悟を持っていると思ってしまったが、一体ユエはこんな夜遅くにどんな話をしに来たのだろうか。商人として俺が許可したカードゲームをもっと世の中に普及させて見せますとか決意表明をしに来たのか。それとも俺が許可を出したことを感謝していて感謝の言葉をわざわざ言いに来たのだろうか。前者であれば、決意表明にどうしてそこまで時間がかかってしまったのだろうという疑問が残るが、後者であれば感謝の言葉を言うのが恥ずかしくてなかなか言えなかったということになる。
果たして、ユエは俺に何を言うのだろうか──
「私は、あなたのことが好きですっ!」
俺はユエから想像もしていない言葉をもらってしまったのだった。